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『障害予防のルーツ』:晩年の脳構造とラクナ梗塞発症には幼少期が大事

📖 文献情報 と 抄録和訳

4つの前向きコホート研究における晩年の脳小血管疾患の早世の予測因子

Backhouse, Ellen V., et al. "Early life predictors of late life cerebral small vessel disease in four prospective cohort studies." Brain 144.12 (2021): 3769-3778.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:ラクーンとは?(What is a lacune?)
- 「ラクーン」、「ラクナ梗塞」、「ラクナ脳梗塞」(小血管疾患)という用語は、しばしば同じ意味で使われるが、同じものではない。ラクーンは、基底核や白質にある3~15mmの脳脊髄液(CSF)で満たされた空洞で、高齢者の画像診断でしばしば偶然に観察され、しばしば個別の神経症状と明確に関連することはない。
- 「ラクナ梗塞とは、ラクナ型の脳卒中症候群のうち、脳画像上、梗塞が認められるものを指す。
- CTやMRのT2強調画像やFLAIR画像では、急性ラクナ梗塞は白質病変(WML)のように見えることがあり、拡散画像で高強度信号(ADCで低下)を示すか、特にWMLを持つ患者では比較のための前画像がないと無症状のWMLと区別することが困難である。
- 臨床的に明らかな急性ラクナ梗塞の中には、時間の経過とともにラクーンに進展するものがある。
📕 Wardlaw, Joanna M. "What is a lacune?." Stroke 39.11 (2008): 2921-2922. >>> doi.

[背景・目的] 脳卒中や認知症の主な原因である脳小血管疾患の発症は、幼少期の要因に影響される可能性がある。これらの関係が互いに独立しているのか、成人の社会経済的地位や血管危険因子への曝露と独立しているのかは不明である。我々は、4つの前向きコホート研究のデータを用いて、出生時からの因子(ポンデラル指数、出生時体重)、小児期(IQ、教育、社会経済状況)、成人小血管疾患、脳体積との関連性を検討した。

[方法] STRADL(STratifying Resilience And Depression Longitudinally)研究(n = 1080、平均年齢59歳)、オランダ飢饉出生コホート研究(n = 118、平均年齢68歳)、ロージアン出生コホート1936(LBC1936、n = 617、平均年齢73歳)、シンプソンズコホート(n = 110、平均年齢78歳)である。各小血管疾患の特徴を個別に分析し、各コホートで合計して小血管疾患スコア(範囲1-4)を出し、メタ分析で血管危険因子と成人の社会経済的地位で調整した。

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✅ 図. 小血管疾患と脳卒中のリスクのライフコース的視点。AF = 心房細動、BP = 血圧、Chol = コレステロール。

[結果] 出生時体重が多いほどラクーンが少なく[100g当たりのオッズ比(OR)=0.93、95%信頼区間(CI)=0.88~0.99]、梗塞が少なく(OR=0.94、95%CI=0.89~0.99)、血管周囲に腔が少ない(OR=0.95、95%CI=0.91~0.99)ことと関連していることが示された。小児期のIQが高いほど、白質高濃度負荷が低く(IQポイントあたりのOR = 0.99、95%CI 0.98~0.998) 、梗塞が少なく(OR = 0.98、95%CI = 0.97~0.998) 、ラクーンが少なく (OR = 0.98、95%CI = 0.97~0.999) 、総小血管病負荷も低く (OR = 0.98、95% CI = 0.96~0.999 )、関連していた。低学歴は,より多くの微小出血(OR = 1.90,95%CI = 1.33~2.72) およびより低い総脳容積(平均差 = -178.86 cm3,95%CI = -325.07~-32.66) と関連していた.小児期の社会経済的地位の低さはラクーンの少なさと関連していた(OR = 0.62, 95% CI = 0.40 to 0.95)。

[結論] 幼少期の因子は、血管の危険因子や成人の社会経済的地位とは無関係に、その後の人生における小血管疾患の悪化と関連している。小血管疾患のリスクは幼少期に発生する可能性があり、幼少期の因子と脳卒中および認知症のリスクとの間の機構的な関連を示している。幼少期の発達に投資する政策は、生涯の脳の健康を改善し、高齢期の認知症や脳卒中の予防に寄与する可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

ゴールデンエイジ、ゴールデンタイム・・・。海外って、『ゴールド』好きだなぁと思う。

✅ ゴールデンタイムの例
18歳前後:総合的な情報処理能力と記憶力
22歳:名前を記憶する能力
32歳前後:顔認識能力
43歳前後:集中力
48歳:感情認知能力
50歳:基本的な計算能力
50歳前後:新しい情報を学び、理解する能力
67歳前後:語彙力
📗 参考サイト >>> site.

最近の研究によれば、利き手の習得にもゴールデンタイムがあるらしい(Takeuchi, 2022 >>> doi.)。
鉄は熱いうちに打て。タイミングって、大事だ。

今回の研究は、脳構造や将来の脳血管疾患リスクにおいても「ゴールデンタイム」があるかも、ということを示唆した。
具体的には、幼少期のIQや、もっと遡って出生児の体重が重要だ、と。
僕たちは、障害予防、障害予防、と声高に叫び、高齢者に介入しようとしている。
しかし、人生の後期における障害予防は、意味ないことはないだろうが、もしかしたら臭い物に蓋というか、建造され、出航した船の甲板上で、船の構造についての議論をしていることに近いのではないか?すなわち、障害予防における枝葉の時期に、焦点を当てていないか?
たぶん、ゴールデンタイムは、もっともっと、もっと前、航海の前、船を建造するガレージにある。

「走りながらでも直せるよ。だから走りながら考えればいいんだよ。」

そういう人が、いるかもしれない。
でも、走りながらでは、海面の下で激しく回るスクリューの構造は変えれない。
造船のタイミングを逃すな、人間においてもだ。
生涯を通じた脳構造、脳血管疾患リスク。
そのベクトルの方向性の多くは、造船所において規定されうる。
『人生のルーツ』とは、よく言ったものだ。
根は、その樹木の成長の、ほぼすべてを担っている。
同様に、障害予防の根(ルーツ)がその人間の生涯の、ほぼすべてを担ったりするのかな、と思いを馳せた。
出生〜幼少期。
この時期を『障害予防のルーツ』と呼び、尊ぼうと思う。

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【あり】最後のイラスト

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