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メタアナリシスの結論に「待った!」:膝OAのコラーゲンサプリ効果を否定した理由とは・・・

▼ 文献情報 と 抄録和訳

コラーゲンサプリメントは変形性関節症の症状を軽減するか?メタ解析の結果、強い結論は得られない

von Hippel, Paul T. "Do collagen supplements reduce symptoms of osteoarthritis? Meta-analytic results do not support strong conclusions." International Orthopaedics 45.12 (2021): 3283-3284.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識①:利益相反とは? >>> site
- 医学における利益相反(conflict of interest:COI)とは、科学的客観性の確保や患者ないし被験者の利益を保護するという研究者や研究機関の責任に,不当な影響を与え,重大なリスクを生じうるような利害の対立状況を指す。
- 具体的には、企業等営利団体からの資金提供によって実施された医学研究の結果の判断が、資金提供元にとって有利あるいは不利になる可能性がある場合に、公正であるべき研究結果の判断に影響をもたらしかねないと第三者から見て懸念される状況を意味。
✅ 前提知識②:出版バイアス:publication biasとは?
- 研究結果の方向や,統計的に有意か否かによって,研究が出版されるかどうかが決まる場合に発生するバイアスのことを指す.
- 有意差のない結果になった場合は,論文として発表されない可能性が高くなるが,有意差のある結果ばかりが発表されていると,偏った情報しか入ってこないことになる.
- 多数の小規模研究に基づいたシステマティックレビューは,その研究のスポンサーが研究結果に対して既得権益を持っている営利企業である場合に,特に出版バイアスの影響を受けやすいと言われている

[Letter内容] 2019年、International Orthopaedicsは、変形性関節症(OA)の症状に対する経口コラーゲンサプリメントの効果に関するメタアナリシスを発表した(García-Coronado, et al. International orthopaedics 43.3 (2019): 531-538. >>> doi)。5つの無作為化プラセボ対照試験をまとめ、著者らは "コラーゲンはWOMAC (Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis)指数とVAS(Visual Analog Scale pain)スコア両方の減少によってOA症状の改善に有効 "と結論付けている。コラーゲンの効果について結論を出すには、以下3つの理由により注意が必要である。

▶︎理由①:採用されたすべての研究がコラーゲン企業との利益相反関係を有した
- メタ分析した5つの論文すべてが、コラーゲンを製造・販売する企業との金銭関係を開示したものです。図1に詳述するように、すべての研究において、コラーゲン企業は資金を提供し、著者を雇用し、または著者にコンサルタントとして報酬を支払っていた。

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✅ 図. 各研究のサンプルサイズ、投与量、期間、利益相反を示した、公表されたメタアナリシスの複製。

▶︎理由②:出版バイアス:Publication Biasの可能性
- 3つの研究は、それぞれ30人未満の患者しか登録しておらず、1つの例外を除いて、より小さな研究がより大きな効果を報告している(図は、サンプルサイズによって結果を並べ替えることで強調したパターンである)。このパターンは、Publication Biasの一般的な兆候であり、特にサンプルが小さい場合、有意ではあるが無効な効果を公表する傾向がある。

▶︎理由③:MCIDを超えていない
- 効果がゼロから有意に異なるかどうかを調べるだけでなく、臨床的に重要な最小差を超えるかどうかを問うことが重要である。臨床的重要性に関する結論は、どの研究を含めるかによって敏感に変化する。例えば、Kumar(2014)の論文-サンプル数が少なく、4人の著者がコラーゲン企業に勤めていたが、最大の効果を報告した-を除外すると、WOMAC(ES - 4.96, 95% CI - 6.59 to - 3.32) と VAS(ES - 5.00, 95% CI - 6.88 to - 3.13) 両方について臨床的重要性がないメタ分析推定値に縮小される。

以上の理由より、コラーゲンの効果を偏りなく推定するには、コラーゲン業界から独立して実施される大規模な事前登録試験が必要である。そのような試験が行われるまで、メタ分析された試験は、コラーゲンサプリメントがOA症状に対して信頼できる、臨床的に重要な効果を持つという保証をほとんど与えていない

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

精神の名士たちの人情味は、
無名の人と交際しながらいかにも感じよく自分の間違いを認めるところにある

ニーチェ

International Orthopeadics、信頼している雑誌の1つ。
その信頼は、今回のLetterを採用したことでより強まった。
International Orthopeadicsが査読し、アクセプトした論文を真っ向から否定しているLetter、それをしっかりと載せてくる。批判的吟味に重きを置いているし、利得を患者に置いていることが感じられる。

さて、今回の研究から得られた教訓。
それは、エビデンスをつくるものは“ココロ”を、つかうものは“眼”を鍛える必要があるということ。

エビデンスをつくるものは“ココロ”を鍛える必要がある。
正鵠(弓道における的の意)がずれると、それがバイアスになる。
透明な臨床的意義以外の「ために」が大きくなると結果が濁る。
・この商品の販促のために
・リハビリテーション機器の導入のために
・アカデミックキャリアのために
色んな「ために」が、医療者、研究者を取り巻いている。
違った「ために」を選択しそうになったとき、次の言葉を思い出そう。

病者をもって正鵠とすべし
(病人を目的のための手段とするのではなく、どこまでも目的とせよ)

緒方洪庵 医戒

エビデンスを使うものは“眼”を鍛える必要がある。
これまで利益相反と出版バイアスは、自分の中で別個のものとして存在していた。
だが、この両者は蜜月関係であることを、今回の研究で学んだ。

✅ 利益相反と出版バイアスの蜜月関係
①企業と利益相反にある研究者が雇われる
②研究者はその企業の商品にとって良い情報だけ出力することになる
③良い情報だけが取りまとめられた、偏ったレビュー記事ができあがる

批判的吟味(クリティカルシンキング)が重要だ。
玉石混交から、玉だけを用いるためには。
今後、介入研究やレビューをみた際には、頭のヘッドラインに「利益相反 & 出版バイアスは?」が流れるようにセットした。また1つ、生長した!

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