見出し画像

1METs ≠ 1METs。高齢者は1METsの解釈にご用心!

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における1METsのタスクの安静時酸素摂取値:系統的レビューと記述的分析

Leal-Martín J, Muñoz-Muñoz M, Keadle SK, Amaro-Gahete F, Alegre LM, Mañas A, Ara I. Resting Oxygen Uptake Value of 1 Metabolic Equivalent of Task in Older Adults: A Systematic Review and Descriptive Analysis. Sports Med. 2022 Feb;52(2):331-348.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:METsとは何か?、その定義は?、何に活用される?
- METs(Metabolic Equivalents)とは、安静に座っている状態を1METとして、様々な活動がその何倍のエネルギーを消費するか示した活動強度の指標。
- 1MET=3.5mL/kg/分の酸素摂取量と定義される。
- 高価で通常は利用困難な機械から厳密に測定された「酸素摂取量」とその際の「生活・運動」をリンクさせて、「生活・運動」から「酸素摂取量」を推測可能にさせる。
- METsを用いることで消費カロリーを計算できる(下式)
- 消費カロリー(kcal) = METs × 時間 × 体重(kg)
- この式を用いて、糖尿病者の生活指導・運動指導を行なったりする。
- 例) 散歩=3METsの運動を体重60kgの人が1時間行う;3(METs) × 1(時間) × 60(kg) = 180(kcal)
🌍 参考サイト >>> site.
🔑 Key points
- 高齢者1091名から得られた1METの加重平均値は、標準的な1MET(3.5mL/kg/分)より23%低かった
- 高齢者集団で3.5mL/kg/分の標準的な1METを仮定すると、重要な身体活動強度の誤判定につながる可能性がある。
- 科学界は、参照されたRMRプロトコルを通じて個人の1METを直接導き出すか、それが不可能な場合は、2.7mL/kg/分という証拠に基づく推定値を仮定することが妥当であろうと推奨される。

[背景] スポーツ科学者や健康専門家にとって、様々な身体活動中のエネルギー需要を推定する方法を持つことは重要である。タスクの代謝当量(METs)は、安静時代謝率(RMR)の倍数として活動強度を分類するための実行可能な方法を提供する。RMRは一般に1分間に体重1kgあたり3.5mLの酸素(mL/kg/分)とされているが、この値は高齢者集団では批判され過大評価されていると考えられている。しかし、高齢者集団で得られた1METに相当するRMRの推定値を見直す包括的な取り組みはこれまで行われていない。このレビューの目的は、高齢者集団におけるRMRの測定値を報告する既存のエビデンスを検討し、1METの記述的推定値を提供することであった。

[方法] PubMed,Web of Science,Scopus,CINAHL,SPORTDiscus,Cochrane Libraryをデータベース開設から2021年7月まで検索し,システマティックレビューを行った。そのため、間接熱量計を用いて60歳以上の成人のRMRを評価し、結果をmL/kg/分で報告する原研究を探した。

[結果] 合計1091名(男性426名)の参加者を含む23の適格な研究が同定された。2件を除くすべての研究で、RMR値は従来の3.5mL/kg/分より低いことが報告された。すべての研究から得られた全体の加重平均1MET値は2.7 ± 0.6mL/kg/分であったが、ベストプラクティス研究を考慮すると、この値は11%低かった(2.4 ± 0.3 mL/kg/分)

[結論] このシステマティックレビューの結果に基づき、我々は60歳以上の人々には1MET(3.5mL/kg/分)という標準値を適用しないことを助言し、エビデンスに基づくベストプラクティス勧告を遵守しながら間接熱量測定を用いたRMRの直接評価を奨励する。これが不可能な場合は、2.7mL/kg/分の総合値を仮定することが妥当かもしれない。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これは、やばい研究だ!!!
アブストを読んだ瞬間に、全身でそう感じた。
なぜなら、METsの定義というのは、多くの医療者の行動の前提であり、幹であって、すべての枝葉や実のすべてに影響を及ぼしうるから。
それが年代によって異なり、僕たちが関わることの多い高齢者においては、これまでの3.5mL/kg/分に比して、2.7mL/kg/分(23%減)だという。

▶︎どうやばいか①:これまでの生活指導・運動指導のすべてが間違っていた可能性
これまで、僕たちが高齢者に対して行なってきた生活指導や、運動指導の『すべて』は、想定していたより23%消費カロリーが少なかったということだ。
高齢者では、若年者と同じカロリーを消費しようと思ったら、より強度の強い運動をするか、同じ運動を長くする必要性があったわけだ。
これ、やばいだろ。

▶︎どうやばいか②:身体活動量関連の研究の解釈はどうなる?
このSuper Humanも身体活動量関連の研究を行なっている1人だ(📕Kaizu, 2022 >>> doi.)。
身体活動量の研究においては、身体活動量計なる機械を用いて、その機器に生じた加速度からその瞬間の身体活動量(たとえばMETs)をアルゴリズムによって算出している。
そして、そのアルゴリズムは、おそらく、年齢特異的な計算がされていないか差別化が甘いのではないか?(これまでの学術体系のMETsの解釈からして)。
だとすれば、やばいのだ。
たとえば、20歳と90歳の男性が、それぞれ椅子から立ち上がったときの加速度が同じだったとして、消費カロリーには23%の違いがあるわけだ。
それにも関わらず、身体活動量計のモニターには、同じMETsが指し示されるということ。ほんとうは違うのに。
これが何を意味するか?
これまでの、年代横断的に行われてきた、METsを用いた身体活動量研究のすべてが間違っていた可能性がある、ということだ。
とくに、年代間の比較をした研究などには注意が必要だろう。
これ、やばいだろ(すでにアルゴリズムに内包されてたら陳謝🙇)。

さて、今回の研究で得られる教訓は多いが、一番は『前提を疑え』だろう。
デフォルトを疑うことの重要性。
とくに、今回のMETsのように、現場で簡便に利用可能な変数を作り出すために異なる数値をリンクさせた「リンク変数(※造語)」、人工的につくられた「カテゴリー変数」には注意が必要だ。そこには、リンク・変数をつくる過程において第3の因子(今回の場合年齢)が入り込むリスクがある。
たとえば、徒手筋力テスト(manual muscle testing; MMT)においては、スコア5とスコア4を区別するための評価者間の信頼性が低く、第3の因子として「主観」が入り込みやすい(📕 van der Ploeg, 1984 >>> doi.)。
その変数がつくられた過程やその変数の特徴を知った上で用いることが肝要だ。
そうでなければ、僕たちの活動、すべての屋台骨がぐらつくことになる。
これ、やばいだろ。

危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である。
『侏儒の言葉』(岩波文庫版32頁) 芥川龍之介

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス