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高強度ストレッチング:対側下肢の関節可動域を拡大

📖 文献情報 と 抄録和訳

足底屈筋の受動的特性に対する4週間の高強度または低強度の静的ストレッチ介入プログラムの交差教育効果

Nakamura, Masatoshi, et al. "Cross-education effect of 4-week high-or low-intensity static stretching intervention programs on passive properties of plantar flexors." Journal of Biomechanics (2022): 110958.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 本研究は、4週間のストレッチ介入後の背屈可動域(DF-ROM)、筋スティフネス、筋構造に対する、2種類の強度(高強度 vs 低強度)の片側ストレッチ介入プログラムの交差教育効果(cross-educational effect)を比較することを目的としたものである。

[方法] 健常男性28名を高強度静的ストレッチ(HI-SS)介入群(n=14、ストレッチ強度10段階中6~7)と低強度静的ストレッチ(LI-SS)介入群(n=14、ストレッチ強度10段階中0~1)の2群に無作為割付した。参加者は利き足(ボールを蹴るのが好ましい)を4週間(3×週、3×60秒)ストレッチするよう指示された。介入前後で、足底屈筋の非訓練下肢受動特性(DF-ROM、受動トルク、筋硬度)および内側腓腹筋の筋構造(筋厚、ペネテーション角、筋膜長)を測定した。

✅ ストレッチング強度の設定方法と実施方法
- 11段階のVerbal Numerical Scale (📕 Ferreira-Valente et al., 2011 >>> doi.)を使用(0は全く痛くない - 10は非常に痛い)
- 高強度ストレッチング(HI-SS):ストレッチング強度を6~7とした
- 低強度ストレッチング(LI-SS):ストレッチング強度を0-1とし、痛みのない、または痛みが少ない最大許容背屈角とした
- 参加者は、必要と思われる強度を達成するために、体幹を後方または前方に移動させるよう指示された。
- すべてのストレッチング介入セッションは、研究チームの直接の監督下にある実験室で行われた。
- ストレッチング介入は、60秒を3セットとし、30秒のインターバルを置いた。
- ストレッチング介入プログラムは、1~2日の間隔で週3日、4週間実施された(12セッション)。

[結果] 訓練していない側のDF-ROMと受動トルクは、HI-SS群で有意に増加したが(それぞれp < 0.01, d = 0.64, 50.6%, およびp = 0.044, d = 0.36, 18.2%)LI-SS群では増加しなかった。さらに、両群で筋硬度や筋構造に有意な変化は見られなかった。

[結論] リハビリテーションの場では、非鍛錬肢のDF-ROMを増加させるために、高強度のSS介入が必要である。しかし、DF-ROMの増加は、筋構築や筋スティフネスの変化ではなく、伸張耐性の変化に関連しているようである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

『Does-dependent effect』が注目されている。
「介入において質よりも量が効果に対して影響が大きい」という考え方である。

一方、質の中でも注目されている領域がいくつかあって、その1つが『Intensity-dependent effect』だ。
すなわち『強度依存的な効果』、強度が大事だよね、ということだ。
そして、おそらく臨床上意識的に制御されにくいところに、「ストレッチングの強度」がある。
皆さんは、意識したことがあるだろうか?
僕は、最近意識しはじめた。
研究報告の量が、ジワジワ増えてきたから。

ストレッチングは、鍛錬肢において「高強度」の効果が大きいことがわかっている(📕 Fukaya, 2021 >>> doi.)。
ただし、「高強度がいい」ことだけ知っていても臨床に生かせない。
何が高強度なのか、という定義を実践可能なレベルまで詳細に知る必要がある。
今回の研究のストレッチ強度設定の定義は、有用だと思う。
なぜなら、『口頭でのやり取りで済む+わかりやすい』から。
臨床において、よくBorg Scaleを用いているが、Ratingが示されたツール(用紙)を出すのがスマートではないなぁ、と思っていた。

「いま、0-10のどのくらいの痛みですか?」
「7ですね」
「ここが一番ストレッチング効果が出やすいところです。30秒(or 60秒)いきますね。」

スマートじゃないか。

さらに、今回の研究は、高強度ストレッチングが非鍛錬肢に対してもROM拡大効果を持つことを明らかにした。
この交差教育効果の臨床的な意義とは何だろうか。

- 足関節骨折後のギプス装着時、健側下肢に高強度ストレッチングしておけばROMが保たれるかも
- アキレス腱断裂後など、負荷をかけられない時期がある場合も上記と同様の考え方で役立つかも
- 脳卒中後、痙性が非常に強く伸張をかけにくい場合に役立つ
  ※ すべて今回の研究の被験者からはいえないが、今後の発展に期待して・・・

仕組みを知っていれば、自信をもって対側下肢に高強度ストレッチをかけられる、患者への説明も自信をもってできる。
『自信』、自信が大事だ。
そして、その治療法への自信・信念の強さは患者に伝わり、治療効果をさらに大きくする(📕 Chen, 2019 >>> doi.)。
「このストレッチングで相手がこう良くなる!」と確信できる自分を作るために、勉強する
『知は力なり』は、臨床現場においてしっかりと仕組みをもっている。

「知識」の真価は、それが正しいかどうかではなく、
私たちに力を与えてくれるかどうかで決まる

ベーコン

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