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筋付着部位の面積は運動によって拡大する

📖 文献情報 と 抄録和訳

ハツカネズミの筋付着部位の形態に及ぼす随意運動、慢性運動およびそれらの相互作用の選択的育種の影響

Castro, Alberto A., et al. "Effects of selective breeding for voluntary exercise, chronic exercise, and their interaction on muscle attachment site morphology in house mice." Journal of Anatomy 240.2 (2022): 279-295.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:筋付着部位の表面積拡大の有利性とは?
- 筋/腱-骨界面における機械的応力は、骨付着部位の表面積に比例し、より大きな付着部はより広い表面積に荷重を分散させる(📘Biewener, 1992 >>> book.)
- 骨付着部位の表面積が大きいことは傷害を引き起こしにくい、それが故に大きい力発揮を許容するなどの有利性があると思われる

[背景・目的] 骨格筋はその起始部と挿入部で骨に付着しており、腱と骨との界面は付着部または関節と呼ばれている。筋/腱-骨界面における機械的ストレスは、骨付着部位の表面積に比例し、付着部位が大きいと荷重がより広い範囲に分散される。頻繁に活動する筋肉やサイズの大きな筋肉は、付着部位を肥大化させるはず(トレーニング効果)。そこで、トレーニング効果(表現型可塑性の一種)を検出する能力を高めるために4系統のHigh Runner(HR)モデルマウスを研究した。

[方法] 選択性は、若齢成体(6-8週齢)時の6日間のホイールアクセス期間のうち、5日目と6日目のホイール回転数の平均値に基づいている。さらに4系統は走行を無視して飼育され、非選択の対照となる(C)。平均して、HR系統のマウスはC系統のマウスよりも1日あたり〜3倍多く自発的に走行している。本研究では、離乳期(~3週齢)から12週間、車輪のある雌50匹(HRとCの半々)(Active群)と車輪のない雌50匹(HRとCの半々)(Sedentary群)を収容した。HRマウスとCマウスの筋肉付着部位表面積の進化的な違い、慢性的な運動による可塑的な変化、およびそれらの相互作用について検証を行った。4つの筋肉付着部位の3次元表面積を定量化するために、精密で再現性の高い方法を使用した。

[結果] 上腕三角結節(棘突起筋、大胸筋、肩峰筋の挿入点)、大腿第三転子(大腿四頭筋の挿入点)、大腿小転子(腸骨筋の挿入点)、大腿大転子(中臀筋の挿入点)である。体重を共変量とした単変量解析では、Active群のマウスはSedentary群のマウスに比べて上腕骨三角結節が有意に大きく、HRとCマウスでは有意差がなく、運動処置と線種との交互作用は認められなかった。このようなActive群とSedentary群の差は、多変量解析においても明らかであった。大腿骨第三転子、大腿骨小転子、大腿骨大転子の表面積は、慢性的な車輪へのアクセスと選択的な飼育のいずれにも影響されなかった。

[結論] この結果は、強固な測定プロトコルと比較的大きなサンプルサイズを用いたものであり、筋付着部位の形態は、個体発生の過程で経験した慢性的な運動によって影響を受ける可能性がある(ただし、必ずしもそうではない)ことを示すものであった。しかし、長骨形態の他の側面に関するこれまでの結果とは異なり、HRマウスでは筋付着部と自発的運動行動との進化的共適応の証拠は見出せなかった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか? 

この研究でやったことは、マウスの近くに車輪を置いた「だけ」だ。
車輪を置くと、マウスの運動量が多くなり、筋の骨付着部が拡大した。
変化には、以下のような順番があると思っている。

✅ 変化の順番
- Phase1. 機能需要が変化する:例. ある筋に対して機械的負荷が加わる
- Phase2. 可逆的な変化が生じる:例. その筋の神経ドライブが強化され筋力が向上する
- Phase3. 不可逆的な変化が生じる:例. その筋が構造的に肥大し筋力が向上する

そう考えると、今回の実験で起こった変化は、強固な変化と思える。
それにしても、マウスとは愛すべき愚直をもつ生き物だ。
車輪を近くにおいておくだけで、一生懸命に走るのだから。
でも、人間だって、同じようなものかもしれない。
子育てに関与したことのある人は分かるだろうが、公園の遊具を前にして、はしゃがない子どもは少ない
もしかしたら、生きとし生けるものは、根源的な活動・挑戦への欲求を持つのかもしれない。

そうなると、思っている以上に環境が大事ということになる。
孟子が、その母が用意した環境によって、大いに人生を左右されたように(🌎 孟母三遷の教え >>> site.)。
環境が人をつくる。
僕たちにできることは、あらかじめ堀を掘っておくことだけだ。
流れる水は、触れようとするその手の指間を融通無下にすり抜ける。
だから、子どものためには「公園を置こう!」と思った。
そして、患者さんのためには「病棟にアスレチックや個人でできる器具などの環境をつくろう!」と思った。
生きもの固有の本能を死滅させているのは、環境かもしれない。
そして、その環境の多くをつくっているのは、大人であり、病院職員なのである。
死ではなく、生を司る、そんな環境をつくりたいものだ。

私たちが建物をつくる。その後は建物が私たちをつくる。
チャーチル

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