犬の威力:活動・参加へのトリガー機能
▼ 文献情報 と 抄録和訳
高齢期における近所付き合い、犬、および生活満足度
Curl, Angela L., Jessica Bibbo, and Rebecca A. Johnson. "Neighborhood engagement, dogs, and life satisfaction in older adulthood." Journal of Applied Gerontology (2020): 0733464820953725.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 本研究では、50歳以上の高齢者を対象に、犬の所有、犬の散歩、犬との感情的な結びつきが、近所付き合いや生活満足度とどのような関係があるのかを検討した。
[方法] Health and Retirement Studyのデータ(N = 476)を用いて、研究仮説を検証するために2つのパス分析モデルが実施された。
[結果] その結果、犬の飼育は生活満足度と直接的・間接的な関係を持たないことが示された。しかし、犬の散歩に費やす時間は社会的交流の頻度と関連し、それ自体が生活満足度と正の関連を有していた。また、犬との絆は生活満足度と直接的な関係はなかったが、犬の散歩とは関係があった。
[考察] 犬の散歩は、より良い健康と社会参加を同時に促進する有望な戦略であり、これらの要因がひいては高齢者の生活満足度をより高めることにつながる可能性がある。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
犬は、存在そのものが生活の満足度を高めるものかと思っていた。
しかしながら、今回の研究結果から、直接的に満足度を高めるものではないことが明らかになった。
もはや、空気のような存在になって、満足度に影響しなくなるのかもしれない。
ここからが、この研究の面白いところだ。
犬は、存在そのものでは生活満足度を高めなかったが、「(必須となる犬の散歩で)外に連れ出し、社会的な交流の機会をつくる」という機能を果たしていた。
この場合の犬は、「活動や参加に向かわせるトリガー」として機能している。
この機能をActivity, Participant Trigger: AP-Triggerと名付ける。
ここで、AP-Trigger ≒ 健康の社会的決定要因(SDOH)である。
健康の社会的決定要因(SDOH)を知らない方は、以下のnoteを参照いただきたい。
✅ 図. 犬がもたらしたこと、AP-Triggerを強調したSDOHの図
図に示したように、AP-TriggerはICFにおける個人因子や環境因子に存在する。
✅ AP-Triggerの例
■ 個人因子
・散歩を習慣(ライフスタイル)にしているから、外に出て散歩をする
・インドアな生活は悪だと信じている(価値観)から、外に出て活動する
■ 環境因子
・犬がいるから、散歩のために外に出かける
・孫がいるから、保育園の送迎のために外に出かける
・近所の自然が美しいから、自然を見るために外に出かける
回復期病棟においては、①退院時にAP-Triggerの有無を確認すること、②AP-Triggerが少なければ介護サービス・地域資源の選択や家族指導においてできるだけ多くのAP-Triggerをつくっておくことが大切だろう。
なんにせよ、AP-Triggerという引き出しが明らかになればこそ、可能なことだ。
今回は、非常に重要な概念『AP-Trigger』を浮き彫りにできた。
しかも、それが過去の論文抄読における重要な概念(SDOH)とリンクした。
嬉しいことだ!
イノベーションとは既存の要素や、既知の事実を組み換えるだけのことだ。
ジェイ・エイブラハム
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