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機械学習が導き出した投球時の肩・肘ストレスの要因

▼ 文献情報 と 抄録和訳

機械学習と統計による投手の腕の運動量の予測

Nicholson KF, Collins GS, Waterman BR, Bullock GS. Machine Learning and Statistical Prediction of Pitching Arm Kinetics. Am J Sports Med. 2021 Nov 15:3635465211054506.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識
肘関節外反トルク:上腕に対して前腕を外側に偏位させようとする回転力で、投球障害肘を引き起こすストレス
肩関節離開力:肩甲骨に対して上腕を遠位に牽引する関節力で、関節唇損傷などを引き起こすストレス

[背景・目的] 過去10年間、野球選手の投球関連傷害の原因を解明しようとする研究が行われてきた。しかし、キネティックチェーン全体、フルボディメカニクス、ピッチングサイクルのシークエンスを考慮すると、投球時の腕の健康に影響を及ぼす可能性のある変数は数百もあり、複数の変数が腕のストレスに与える関係や影響を評価した質の高い調査は不足していると考えられる。目的は、統計モデルと機械学習のアプローチを用いて、どの変数が肘の肘関節外反トルクと肩離開力に最も影響を与えるかを特定すること。

[方法] 研究デザインは、横断的研究(エビデンスレベル3)。大学のバイオメカニクス研究室でバイオメカニクス評価を受けた野球投手を対象に、レトロスペクティブレビューを行った。肘の肘関節外反トルクと肩離開力の両方について、回帰モデルと4つの機械学習モデルを作成した。すべてのモデルは、同じ予測変数である球速と17のピッチングメカニクスを用いた。

[結果] 平均年齢16.7歳(SD, 3.2歳)、BMI24.4(SD, 1.2)の高校・大学の投手168名を対象とした。肘関節外反トルクと肩離開力については,他のすべてのモデルと比較して,二乗平均平方根誤差が最も小さく,キャリブレーションの精度が最も高かったのはgradient boosting machineモデルであった.肘関節外反トルクの勾配ブーストモデルでは、ピッチ速度の影響が最も大きく(相対的影響度、28.4)、5つの機械的変数も有意な影響を持っていた。また、肩関節離開力の勾配ブーストモデルは、ピッチ速度に対する影響が最も高く(相対的影響度、20.4)、6つの機械的変数も有意な影響を持っていた。結論肘関節外反トルクと肩離開力の両方において、グラジエントブースティング機械学習モデルが最も優れた総合予測性能を示した。両モデルともに、球速が最も影響力のある変数であった。しかし、両モデルともに、上腕骨最大回転速度、足踏み時の肩外転、肩最大外旋などの投球力学が、肘と肩の両方のストレスに有意に影響することも明らかになった。

[結論] 本研究の結果は、投球関連の傷害につながる可能性のある肘や肩のストレスを軽減するために最適化される可能性のある特定の力学的変数について、選手、コーチ、臨床医に知らせるために使用することができる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

かなり複雑な解析をやって、出てきた答えは、非常にシンプル。

✅ 投球速度は関節ストレスにとって最も重大な要因です

ここに、大きな大きなパラドックスがある。
監督・コーチは、パフォーマンス(投球速度)を要求する。
理学療法士は、安全性(関節ストレスのリスク低減)を要求する。

で、投球障害の最も重大なリスクファクターは、「投球速度」なわけだ。

このパラドックスに、どう向き合う?
この全人類からすればミクロな問題は、全人類共通の問題と同一の構造をもつ。
それは、「リスクをどう考える?」という問題だ。
極端な話、ずっと寝ていれば、あらゆる障害(リスク)は起こりえない。
じゃあ、それが善なの?、と問われれば違う!、と思う。
その極端にパフォーマンスが低い例から、徐々に大谷翔平レベルまでゲージを上げていったとき、あるポイントでジレンマが生じるはずだ。
リスク & パフォーマンスをとるか、安全性をとるか。
この両者は、二律背反か?
リスクを取りながらも、安全性を担保することはできないか。
This is “Life Philosophy”。これは、人生哲学だ。
考え続けていくこと、珠玉に近づき続けていくこと。

求道すなわち道である。永久の未完成これ完成である。
宮沢賢治

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