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武道家の呼吸:力発揮を高めるメカニズム

▼ 文献情報 と 抄録和訳

訓練された武道家における力発揮を高めるための呼吸圧と神経筋の活性化の制御に関する研究

Walters, Sherrilyn, et al. "The control of respiratory pressures and neuromuscular activation to increase force production in trained martial arts practitioners." European journal of applied physiology 121.12 (2021): 3333-3347.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ この研究におけるTask1とTask2
Task1:立位等尺性片側胸部プレス課題(図左)
Task2:立位姿勢制御課題(図右)

スクリーンショット 2022-01-12 6.56.01

[背景・目的] 訓練された武道家が、訓練されていない人よりも大きな力を生み出し、それに抵抗する能力を説明するメカニズムは、十分に理解されていない。我々は、訓練された武道家がより大きな力を生み出し抵抗する能力が、呼吸圧の制御の強化および呼吸器、腹部および骨盤底筋群の神経筋の活性化と関連しているかどうかを調査した。

[方法] 訓練された武道家9名と訓練されていない対照者9名に、胸鎖乳突筋、腹直筋、腹横筋と内斜角筋からなる群(EMGtra/io)の皮膚表面筋電図(EMG)を計測した。マルチペア食道EMG電極カテーテルにより、胃圧(Pg)、経横隔膜圧(Pdi)、食道圧(Pe)および頭蓋横隔膜の筋電図(EMGdi)を測定した。参加者は、立位等尺性片側胸部プレス(1)および立位姿勢制御(2)課題を行った。

[結果] 訓練されたグループは、両方のタスクにおいて、体重2/3で正規化された高い力(タスク1では0.033 ± 0.01 vs 0.025 ± 0.007 N/kg2/3平均力)、低いPe、および高いPdiを発生した。さらに、タスク1ではPg(73±42 vs. 49±19cmH2O平均Pg)およびEMGtra/ioが高く、タスク2ではEMGdiが高くなることがわかった。また、両タスクにおいて、力生成の開始に対するPgの開始が早く、Pg/PeおよびPdi/Peの相対的寄与が訓練群で高かった

[結論] 我々の発見は、訓練を受けた武道家が、より大きな力を生み出し抵抗するために、胸壁のリクルートメントとより高いPdiに腹部と横隔膜の筋組織のより大きな貢献を利用することを実証した。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

筋収縮は「牽引」ではなく「収縮」である。
すなわち、起始に向かい停止が動くことが決まっているのではなく、起始と停止を引きつけ合う働きをもたらす。
多くの場合、起始の重量が大きいため、停止が起始に向かい動くような印象を持っているだけだ。

そう考えれば、体幹部の重要性が際立ってくる。
体幹筋は、体幹を構成する関節を動かす稼働の役割の他に幹の役割を持っている。
すべからく、四肢を稼働させる筋の起始部は体幹にある。
末端の末端の筋であっても、その起始部を固定させるための・・・と遡れば体幹に行き着く。
すなわち、筋収縮を100%、あるいはそれ以上の力で四肢を動かすことに動員するためには体幹部の「固定」か「筋収縮によりもたらされる力の逆方向の運動」が必要になる。
その意味で、体幹筋はすべての四肢稼働筋の「幹」である。

そして、幹の役割をコントロールしている1つの仕組みが「呼吸圧・腹圧」だ。
腹圧が高まる・呼吸圧が高まるというのは、風船がパンパンにはったように硬くなる、「固定」だ。
末端に力を強く伝えたい場合には、腹圧を高める必要がある。
一方、呼吸や脊椎運動のように体幹部自体の稼働を目的とした場合にはむしろ弱める必要がある。
たとえば、大胸筋の収縮で腕を強く動かしたければ胸郭を固定し、吸気を補助したければ胸郭に柔軟性を持たせることが必要だ。
その意味で、呼吸圧・腹圧は幹としての体幹機能の「ダム」のような役割、筋収縮に意味を持たせている。

武道家は大きな力発揮をし、その仕組みには高い呼吸圧があった。
幹が強ければ末梢が強くなる・生きる。人生哲学にもつながりそうだ。
それにしても「〇〇の呼吸」というあの漫画・・・、理にかなっている。

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