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『新た』を求める脳回路:刻まれた無目的主義の本能

📖 文献情報 と 抄録和訳

霊長類における新規性探求のための側頭葉-皮質経路の解明

Ogasawara, Takaya, et al. "A primate temporal cortex–zona incerta pathway for novelty seeking." Nature neuroscience 25.1 (2022): 50-60.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

📗 Science誌による論文評
- 新しさを求めることは、知的行動や適応的認知の重要な特徴である。
- しかし、新奇なものに惹かれることを制御する回路については、ほとんど分かっていない。
- 小笠原らは、被殻ゾーンと呼ばれる脳核が新奇性探求と因果関係を持つことを発見した。
- 小笠原らは、内側側頭葉前部の領域がこの帯状核に投射し、帯状核回路を通じて、新奇性探求の制御に必要な動機づけシグナルを送っていることを発見した。
- サルが新しいものを受け取ることで動機づけされる新規性探索課題では、この行動はドーパミン報酬探索回路によって制御されないことが示された。
- 本研究は、報酬追求と新規性追求の間の脳内回路における明確な解離を示す証拠となる。
● Peter Stern, 2022. Science >>> doi.

[背景・目的] 霊長類は、視覚的対象物を探索することによって世界と関わり、たとえそれが外在的な報酬価値を持たないものであっても、新規の対象物を見る機会を求める。この新規性探求を脳がどのように制御しているかは不明である。

[方法-結果] 本研究では、サルの新規性探索が侵入帯(ZI)により制御されていることを明らかにした。サルが見慣れた物体に視線を移動して新規物体を見る機会を作ると、視線移動の前に新規物体が予測され、多くのZIニューロンが優先的に活性化された。低強度のZI刺激は視線移動を促進し、ZI不活性化は新規性探求を減少させた。ZI依存的な新規物探索は、外側手綱核のニューロンや、伝統的に報酬探索に関連する黒質の多くのドーパミンニューロンによって制御されなかった。しかし、物体視覚と記憶に重要な領域である前腹内側側頭葉は、新規性予測に顕著に関与していた。

[結論] これらのデータは、霊長類の脳において新規性探求を制御する機能的経路を明らかにするものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

Nature Neuroscience論文がScience誌で特集された、レジェンド論文である。
崇め奉るように。
「新た」を探究する脳回路は、報酬系には制御されない。
これが、最も面白いと思った点だ。
何かの「ために」という探索・学習と、新規の探索は別物だったというわけだ。
無目的主義は、脳回路として実在した。
新規なものへの興味・挑戦は、やはり本能的に刻み込まれたものなのか(以下noteのSo What?で、類似の考察をしている、そのエビデンスとなり得るかも)。

「ための」興味は常に過去のものだ。
なぜなら、報酬系とは、言うなれば学習された行動と見返りの関係性(例. お手伝いしたらお金をもらえた)、または過去から今にかけて持っている興味に合致する外来事象(例. 好きなアイドルの情報)だからだ。
つねに、過去と紐付けされたいま
それが、報酬系に制御された探索や学習だと思う。
その時点で、新規なものではない。
だって、“新規なものをいま知っているはずがない”から。

子どもの興味は、多くの場合、無目的だ。一心不乱にボールを蹴るのは、何かの「ため」ではない。ただ、ボールを蹴りたい、それだけだ。
この無目的な興味こそが、未来をつくる。
つい最近、友達に「そんなに勉強して、将来何になるの?、何のためにやっているの?」と言われた。
正直、答えがなかった。ただ、生長したいから。ただ、面白いから。ではいけないだろうか。
大人は、いつも「ために」を求めて止まない。
湧く水の流れる方向は、水にはわからない。
もしかしたら、環境や時代という「地形」がきめるのかもしれないが、それだけでもないだろう。
ぼくは、ただ、湧き続けたい。
その先が酔生夢死(すいせいむし >>> site.)だとしても。
このような心情を示した、一編の詩を知っている。

未知を喜べるか?
それこそがイノベーターとマーケターを判別するためのアルゴリズム
何になるかはわからない、でも・・・、いや、だから面白い!
生長連鎖を続け、いつまでも、何者にもならない。
そういう者を『未在』というのではないか?
老木にも萌芽はある。
意志的に『未在』を選択しつづけたい。

自分を認めさせようとか、
世の中で自分はどんな役割を果たせるのかとか、
そんなことを思い悩むのは、無意味だ。
生きるとは本来、無目的で、非合理なものだ。
だから、瞬間、瞬間、無目的に無償で、
生命力と情熱のありったけを使い、全存在で爆発すればいいんだ。

岡本太郎

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