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神経機能を加味した、ハムストリングスの至適ストレッチング持続時間とは?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

高齢者におけるハムストリング筋群の最適なストレッチング時間:無作為化比較試験

Moustafa IM, Ahbouch A, Palakkottuparambil F, Walton LM. Optimal duration of stretching of the hamstring muscle group in older adults: a randomized controlled trial. Eur J Phys Rehabil Med. 2021 Dec;57(6):931-939.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:体性感覚誘発電位とは?
- 生体に体性感覚刺激を与えると、それに対する反応が感覚伝導路を経て大脳皮質にまで伝えられる。
- そのとき、大脳皮質あるいは途中の伝導路で生ずる電気活動に由来する電位を、加算平均法によって抽出したものが体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials:SEP)である。
- 末梢感覚神経-脊髄-大脳皮質体性感覚野の各レベルの機能評価を可能とする検査

[背景・目的]「柔軟性」とは、"単一または複数の関節の可動範囲または運動量 "と定義される。その限界は年齢とともに著しく低下し、男性、女性それぞれ20代半ばから後半に柔軟性が最大となる。適切なストレッチ時間の長さに関する結論は、主に可動域(ROM)や柔軟性などの力学的要因に基づいており、ストレッチ運動中に生じる可能性のある有害な神経力学的張力を無視する傾向にあります。より長い時間のストレッチングは、老人集団の柔軟性を高めるようである。目的は、ストレッチ間隔を変化させることが神経機能とROMに及ぼす影響を調査すること。

[方法] デザインは、二重盲検無作為化比較試験。対象者は60~65歳で、両側のハムストリング筋が硬いと診断された100人の参加者を、対照群または3つの介入群のうちの1つに無作為に割り付けた。3つの介入群のいずれかに無作為に振り分けられた参加者は、さらに、介入を行う右肢または左肢の選択によって無作為化された。介入群はハムストリング筋への15秒、30秒、60秒のいずれかのストレッチを行い、一方、対照群は20秒の偽ストレッチを行った。主なアウトカム指標は、神経生理学的アウトカム指標である体性感覚誘発電位の皮膚分節L4、L5、S1のピーク・トゥ・ピーク振幅であった。副次的評価項目は、膝関節ROMであった。すべての結果指標は、治療前、治療直後、治療24時間後に評価された。混合線形モデル分析を用いて,アウトカム指標に関する群,時間,群×時間の交互作用効果を評価した.

[結果] 30秒および60秒のストレッチは、対照と比較してROMに有意な増加をもたらし(4.64 [95% CI: 3.35, 5.93]; P<0.01)(10.30 [95% CI: 9.01, 11.6]; P<0.01)、改善は24時間のフォローアップで持続した(P < 0.01)。しかし、60秒間のハムストリング筋の静的ストレッチ後、L4 (-1.19 [95% CI: -1.35, 1.02]; P<0.01), L5 (-1.34 [95% CI: -1.56, -1.13]; P<0.01), S1 (-0.99 [95% CI: -1.16, -0.83]; P<0.01) で皮膚体性感覚誘発電位の振幅に著しい減少が見られることが分析された。この減少は、24時間後のフォローアップでも持続した(P<0.01)。

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✅ 図.-ROM、治療前、治療直後、治療24時間後の神経生理学的測定結果。

[結論] ハムストリングの30秒間のストレッチは,膝関節可動域の増加に最適であり,関与する神経根の神経機能への悪影響を最小限に抑えることができた.したがって、60秒間のハムストリング筋の静的ストレッチは、神経系へのストレスと負担を増大させるので、避けるべきである。

[臨床的なリハビリテーションへの影響] ストレッチが多くの神経筋や筋骨格系の問題を治療するために効果的な介入であることは、よく知られている。しかし、ストレッチングを行う際に、どのようなパラメータに従うべきかについては、依然として議論の余地がある。我々の発見は、ハムストリングの60秒間の静的ストレッチは、神経根と中枢神経系に大きなストレスと負担を与える可能性があり、避けるべきであるということであった。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

持続的伸張は、筋の柔軟性を上げるが神経筋コントロール(パフォーマンス)を低下させる。
だから、持続的伸張はウォーミングアップには向かない。
これは、しばしばスポーツ現場などで言われることである。

今回、ROMと同時に神経機能を調査することで、ハムストリングスの至適ストレッチング持続時間が明らかにされた。
その時間、「30秒」
なんと美しい数字か!!!
その他のストレッチング持続時間を明らかにした研究の中には「1分」「5分」というものまで見たことがある(例. Nojiri, 2019 >>> doi.)。
それらの数字は、臨床現場で働くセラピストには使われにくいだろう。
その理由は、介入にはそれぞれの役割と優先順位があるから。
ストレッチングは、ときとしてメインとなる場合もあるが、多くの場合『準備的介入』である。
その準備的介入に1~5分 × 数セットかけるイメージもできないし、優先度からしてその時間配分が妥当とも思われない。
その点、「30秒」、いいじゃないか!
これは臨床家が好きな成果だ、望む成果だ、実際やっていることを肯定してくれるから。
この研究の成果は、僕の確証バイアスにピッタリとはまり込んだ。

✅ 確証バイアスとは?
- 認知心理学や社会心理学における用語で、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと
- 自分の信念を肯定する証拠を意図的に探すことを確証方略と呼ぶ

また、この研究は高齢者を対象としており、臨床応用しやすい。
さらに、驚いたのは60秒間ストレッチングが神経機能を低下させる持続力だ。
1日後にもまだ神経機能の低下を認めているという結果は、驚嘆に値する。
長すぎるストレッチング持続時間は、翌日のパフォーマンスすら低下させている可能性があるということ。
その他の筋においても、類似の研究が行われるべきだろう。
そして、根拠に基づき、自信をもってストレッチングをしたい。

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