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ヒューマンエラー対策できてますか? - エラーレジスタントとエラートレラント

はじめに

事故防止にうるさい職場にいた経験があります。
その名も航空自衛隊といいます。
航空自衛隊という組織は本当に、嫌になるほど事故防止に心血を注いでいます。
なぜでしょうか?
人が死ぬからです。

航空事故というのは、一瞬で何百もの命が奪われるものだからです。

だからそんな事故を防ぐには、面倒だろうが嫌になろうが、あらかじめ定められた手順を厳守しなければなりません。
事故原因でもっとも多いのは人的要因によるトラブルです。
定められた手順に不備や過失があれば、数秒後に大事故につながることがあります。

自衛隊に限らず、世界の航空史には数多の事故と犠牲者の名が刻まれています。
ですが、それらを教訓に事故防止に努め、業務手順の改善や技術革新に務めてきた人々の存在はあまりにも目立ちません。

いずれ航空事故防止の歴史にも触れたいと思いますが、今回は大事故を防いでいる二つの要因について説明します。
それが
・エラーレジスタント
・エラートレラント

です。

エラーレジスタントとは

世にいわれる事故防止の多くはこれです。
自動車の運転でいうと、乗車前の安全確認、ミラー角度確調整、発車時の後方確認、右左折時の左右・巻き込み確認、停車後のギア位置確認その他諸々がエラーレジスタントにあたります。もちろん制限速度厳守、一時停止厳守などもそうです。
小学校で「廊下を走るな」といわれるのもエラーレジスタントの一種です。

社会のほとんどの場で、事故防止とか安全のために唱えられているのは、このエラーレジスタントに類することばかりではないでしょうか?
そしてこのエラーレジスタントも、予算の都合、時間の都合、注意欠如、その他さまざまな要因によって不完全になっています。

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エラーレジスタントが完全にできているのなら、いわゆる「現場猫案件」はほぼ根絶されていてもおかしくありません。

人間は手を抜いたりミスをしたりするのが当たり前なんです。
そこで学ぶべきなのが次のエラートレラントです。

エラートレラントとは

「人間はミスを犯す」という前提で、ちょっとしたミスから大事故に発展しないよう回復をはかる方法が考えられるようになったのは、20世紀も後半に入ってからです。

20年前のことですが、静岡県焼津市沖を飛行中の日本航空旅客機2機が交差する際、最小高度差40mまで接近するというニアミス事故が発生しました。
回避動作だけで100名の負傷者が発生しており、もし衝突していたら両機合わせて677名という、航空史上最大の犠牲を出す大事故になるところでした。
交差する経路上を飛行していた2機ですが、片方が上昇中であったため接近を続け、さらに管制官の指示と空中衝突防止装置(以下TCAS)の指示が食い違ったことから事故に至りました。
両機に搭載されたTCASは活用されず、かえって事故の一因となっています。
また、指示の食い違いという、起きて当たり前のエラーであるにも関わらず、対応策が決まっていませんでした。
本事故を教訓として、管制官とTCASの指示が食い違った場合、パイロットはTCASに従うことがマニュアル化されました。
この手順策定がエラートレラントです。
むしろニアミスの原因は事故以前のエラートレラントの不足といっても過言ではありません。

航空業界以外でも例があります。
例えば脚立で作業をする時に、下にマットを敷くのはエラートレラントです。
脚立を跨いだり天板に立つことを禁止しているのはエラーレジスタントです。

プリウスミサイルと揶揄されるEV車の事故で例えてみましょう。
ニュートラルでアクセルを踏み込んだままギアをDレンジに入れて急発進するトラブルが多発していました。
メーカーは、ニュートラルでアクセルを踏み込んだ時に警告表示が出て、ブレーキを踏まないとギアが入らないように改善しました。
これはエラーレジスタントです。
自動運転技術を用いて、進行方向に障害物を感知したら停止するのがエラートレラントです。

発生したヒューマンエラーに対して、大事故につながらないようにするのがエラートレラントの意味です。

わかりづらく、受け入れがたい

中には航空業界出身者でも「指差呼称」や「ダブルチェック」をエラートレラントとして扱っている人がいますが、それらはヒューマンエラーを減少させる役割はありますが、エラー発生後の回復力に欠けています。
エラーレジスタントとエラートレラントは混同しやすいんですね。
「ミスがないように気をつけます」の日本では難しい概念かもしれません。
また、誰かに責任を負わせる立場の人達にとっても難しいかもしれません。あ、これ嫌味ですよ。

先ほどあげた日航機ニアミス事故において、指示を出した管制官は業務上過失傷害罪で起訴され、最終的に執行猶予付き禁錮刑の判決が下りました。
判決文に、実に日本的な言葉が含まれています。
「本件は,そもそも,被告人両名が航空管制官として緊張感をもって、意識を集中して仕事をしていれば、起こり得なかった事態である」
ヒューマンエラーというものを我々が咄嗟にどう受け止めるか、この言葉が示唆しているのではないでしょうか?

展望は暗いのか?

とはいえ、現場の人間に全責任を負わせないために、不備の代償を無辜の市民の命で払わせないために、今日も努力している人達がいます。
航空業界や自衛隊はその一員ですし、自動車業界や建築業もそれに続いています。
通信や電子、宇宙開発とさまざまな業種で、今回のような複合的エラー対策が取り入れられています。

あなたの職場でも研究してみませんか?

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