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出だし


「いや、違うじゃん!!」




4時間前。

「今日は3時からね」

その日のバイトのシフト確認から、
一日が始まる。


バイト先までは徒歩40分。

健康の為。

などではなく、

ただただ乗り物の運転が苦手だからというだけで、徒歩通勤を選択している。


出勤時刻の1時間前に家を出る。


家を出るまで3時間弱。
はまっているスマホゲームに勤しむ。

外出1時間前。
スマホゲームを切り上げテレビをつける。
CSの音楽番組をザッピング。
好きな曲が流れると一人で熱唱。

生産性のない時間ほど心地の良いものはない。


人生の大半を生産性無く生きて来た人間は
時間の使い方が下手だ。

トイレに行って着替えるだけの外出準備を、
30分前からやり始める。


「おし。」


タラタラ準備を終え、時計に目をやる。





2時50分。





(…………ん?)







「いや、違うじゃん!! 3時出勤じゃん!」





大パニック!





何がどうなったのか、頭の中で
“3時に出勤” が “3時に家を出る” に変わっていた。

人間の頭にもバグは発生するらしい。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
「えーと、どうすんだっけ? あー、とりあえず連絡せんと!」

自分が、焦ると思考が全て口から溢れていくタイプであることを自覚した。


バイト先に電話…………


出ない………

「うぉぉ、出ないじゃん。どうしよう!」
「えーと、あー、店長店長。」

店長の携帯に直接電話……

「もしもし。どうしたの?」

「あー、すすみません。えっと、シフト勘違いしてて、遅れます。」

正確にはシフトを勘違いしたわけではないが、とりあえず、一番簡潔に伝わりそうな理由を選択した。

「はい。わかりました。お店の方には連絡した?」

「あ、えーと、あ、の、まだです。」

「じゃあ、お店の方にも連絡してくださいね」

「あぁそっか、店長今日お休みでしたっけ?」

「ううん、出勤だけど、今休憩中でちょっと出てるの。」

「あ、あぁ、そうなんですね。え、あ、ははい、すすすみません。連絡して、急いでいきます。」

多分、中学生でも、もう少し落ち着いて話せる。


電話を切り、もう一度バイト先に電話……


出ない………

ということは、


それだけ忙しいということだ。


「ヤバい……」


とりあえず連絡は諦めて急いで向かうことにした。


家を出た瞬間全力ダッシュ!



が…………



「しんどい………」



徒歩40分の道のりを走り続ける体力と根性が到底ない。

ダッシュと、早歩きを繰り返す。


体力と根性。


これが人生のピンチに何よりも役立つことと、その二代柱が自分には微塵も備わっていないことを強く自覚した。

それでも、もつれそうになる足を必死に動かし、30分の遅刻に収めることに成功した。
いや、遅刻した時点で、成功もクソもないが。

自分のせいで残業を強いてしまった先輩と、休憩を早めに切り上げさせてしまった店長に誠心誠意頭を下げ、その日はいつもより謙虚に真面目に働いた。




2024年1月上旬の出来事。


出だしで見事に躓いた俺の一年は、
どうなっていくのだろう。


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