W.W.ジェイコブス「人殺し」(『イギリス怪奇短編集所収)

物騒なタイトルの文字を伏せ字にしないといけないのだろうかと思いつつ、原題ならどうだろうと思って調べてみるも、昨日と同様の電車の混雑具合に、うまく行き当たらなくて、いささかげんなりする。

今日も今日とて出勤で、ブラック企業ってどういう企業だっけと思わされた。

どうでもいいけれども、シン・タツタ氏が「パッパルデッレさん、隠し録音機材あったよね?」と行ってくるので、「何ですか?浮気調査ですか?」と軽口を叩いて、貸した。P腹さんから、一人で来いとの呼び出しで、翌日に聞いたら「あの会議をあなた一人だけ休んだけど、私に何か意見でもあるわけ?」と詰められたらしい。「これ、ハラスメントだよね」とお互いに笑った。録音はうまくとれなかったようだ。

電車の中でとある子どもが喚いて泣いている。座れないかららしい。それ以上に、この子どもにはおそらく多少のハンディキャップトがあるようで、親御さんも苦労していた。私が座っていたら代わってあげてもいいのに、私も立っていたので、無力だった。世の中は難しい。結局、どなたかが代わってらっしゃった。世の中も捨てたものではない。

P腹さんのモラハラを、こんなにナチュラルに受け止めている部署も他にない。誰かが呼び出されるたび、考現学の調査をするような気分で、採取に出かける。「P腹さんを除きましょう」と部署で決断したので、今や部署の連帯性がいつになく高まっている。私も、久しぶりの出陣に身慄いする気分だ。

ロバート・エイクマンの話をしたので、ちょっとイギリスの怪奇ものの本を探したら、短編集が見つかった。どれも短いもので、どれを読むか悩んだが、一番短く、表紙に筆者の代表として名が掲載されてあるW.W.ジェイコブスの「人殺し」を選んだ。

冒頭、主人公アンソニー・ケラーが友人ヘンリー・マートルと一緒に入った書斎から一人で出てきたシーンから始まる。そして、落胆と苦悩。後悔。「あいつがここに来たことは誰も知らないなどと言わなければ」と思う。色々な感情が渦巻き、酒を飲んで忘れようとする。禍々しい気持ちだけが残る。

突然、友人が訪ねてくる。誤ってタンブラーを割ってしまう。手にけがをする。友人はそれをみて、手当をしてくれようとする。死体が転がっている部屋に入ろうとするので慌てて止める。そして、具合が悪いことを説明して、帰ってもらう。寝れずに、椅子に座っていると、マートルの徘徊霊がその辺にいるんじゃないかと怯える。

翌日、朝、死体を自転車小屋に移動させる。死体を埋めて、岩石庭園にしてしまおう。そう考える。そこに家政婦さんのハウ夫人がやってくる。いつものように、掃除をしたり、世話をやいてくれるが、自転車小屋に入ろうとした刹那に、怒鳴ってしまう。怯えて、小さくなっているハウ夫人に謝る。

ハウ夫人が帰ると、庭に穴を掘り、死体を埋めた。そこに煉瓦をめぐらした。そして、少しだけ安堵した。けれども気持ちはモヤモヤしたままだ。その日は悪夢にうなされた。

その翌日は比較的穏やかに過ごせた。岩石庭園づくりに精が出た。庭づくりの相談をハウ夫人にする心理的余裕もできた。筋肉痛も心地よかった。けれども、ふとしたときに、この家にしばられつづける自分を思う。余暇の場ではなく、監獄のように感じられた。新聞をみてもマートルの失踪の記事はなかった。

悪夢にうなされた。石板がくずれおち、何かが出てこようとする光景。埋められているのは自分。そこから出ようと、道具を使って掘り進める。あるところまで行って、誰かに足を掴まれた。声を出すこともできないまま、目覚める。

すでにハウ夫人が来ていた。そして、庭が誰かに荒らされていることを慌てて報告してきた。ケラーは、自分が昔、夢遊病を患っていたことを思い出した。ここを離れよう。そうケラーは思った。

ホテルに滞在して、やり過ごそうとした。また悪夢をみた。壁を叩く音で目が覚めた。夢は思い出せない。食堂に行った。そこにいた男たちに「昨日はどうしたんだ」と聞かれた。そして、「できるだけ我慢はしたんだ」けれども、「仕方なく壁を叩いた」という。自分は、「くだらねえよ!」「人間なんて!」「死んじまうなんて!」と叫んでいたという。ケラーは慌てて、ホテルを出て家に帰った。

そしてまた眠りについた。穏やかな夢だった。穏やかに何かを掘っている夢だった。光が見えた。ケラーは目覚め、そこに懐中電灯の光があり、自分の顔をするどく照らしていることに気づいた。巡査だった。

「随分掘り返したものですね」巡査が愛想のいい笑い声を上げながら言った。「全くの話、昼間埋めては、夜の間に掘り返していたんですよ!大きな声で呼んだんです。だけど全然覚めなかった」

(中略)

「おちついたかね?」
ケラーは両手を前に差し出して進み出た。
「おちつきました」彼は低い声で言った。「神に感謝します」

感想ってほどの感想はないけれども、こないだネトフリでみた『ノイズ』は、こういう死体隠しとそこからくる心理的葛藤のようなものを引き延ばしたものなのかなあ、と思った。

犯人を描くのは、昨今ではなかなか難しいところがあるんだろうけれども、『罪と罰』以来、やっちゃった側のことを書く小説も悪くないなと思った。

そんなに怖くはないけど。だから「怪奇」なんだろうね。

正直、深い感想なんて何も出てこないけど。

さあ、終わったから帰るか。


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