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ヒマラヤをうろうろと

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ネパールヒマラヤでトレッキングしたり調査した時のこぼれ話を書いております。時間軸は特に気にしていません。お時間あるときに是非どうぞ。
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天狗礫(2) | ヒマラヤをうろうろと9

キャンプ中は、氷河の融け水を飲料水として使っています。 そのまま飲むのは勿論良くないので、前日寝る前に沸騰させたアツアツのお湯を水筒に入れておきます。すると翌朝丁度良い温度の水になるわけです。カトマンズで安物の水筒を購入しておくと(200-500円ぐらい)、保温効果が大変しょぼいため水筒自体が熱々になります。これを湯たんぽとして寝袋に忍ばせることで足先が冷えるのを防止しています。お湯は毎晩コックのゴパールが作ってくれるのですが、彼は突然小屋を出て行ってしまったため、火の番をし

天狗礫(1) | ヒマラヤをうろうろと 8

調査も終わり、氷河から一番近い標高4200 mの村に滞在していたある夜のこと。 私は山小屋の隅でお茶をすすりながら、データの整理をしていました。 砂糖と粉ミルクがたっぷり入った見るからに不健康なこのお茶は、山行中だと何故か最高においしく感じてしまいます。例えるならば、海の家やスキー場で食べるラーメンやカレーといったところでしょうか? 板を一枚挟んだ隣の台所では、コックのゴパールがヤク(高地にいる牛のような家畜)の糞を焚火に放り込んでます。標高が高い村では薪がないので、牧

休息日には | ヒマラヤをうろうろと 7

午前11時にもなると、テント内の気温が少し上がり過ごしやすくなってきます。寝袋の中で着ていたダウンジャケットを脱ぎ、外に干そうとテントから出るとシェルパたちが少量のお湯で洗髪をしているところでした。 そういえば、三週間全く触れていない髪の毛はニット帽の中で頭皮と一体化し始めています。耳を澄ますと毛根の悲鳴が聞こえてきそうです。 お湯でさっぱりしたい気持ちに駆られますが、それは下山後の楽しみにとっておくことに決め、テント内に戻ると寝袋に潜り込みます。 キャンプでの休息日。

薄氷を踏みぬく | ヒマラヤをうろうろと 6

嗚呼、やってしまった。 胸下まで浸かったと同時に、下半身に急激な冷たさが。次いで感覚が一瞬にして遠くなってきます。まずい、とにかく上がらないと。 急いで周囲の氷に手を伸ばしますが、氷は割れていて安定しません。浮いている氷を手繰り寄せて、なんとか氷河上に戻りながらヒーヒー言っていると、シェルパのドミさんが急いで荷物を持ってきてくれました。彼も腰下まで濡れてびしょびしょになっています。 「寒いよ」 ドミさんは一言,私に向かって言いました。 *** 5月、春のヒマラヤ。

ヒマラヤをうろうろと 5

夏の北アルプスが、或いは週末の高尾山が常に賑わっているように、シーズン中のクンブ地域の山道は、視界のどこかに必ず人が入るぐらい、トレッカーで溢れています。 人種は本当に様々ですが日本人もかなり多く、後輩が下山した後日本語を話すことが無くなった私は、たまにすれ違う日本人の方々の会話についつい聞き耳を立ててしまうのでした。 ところが、ゴーキョから峠を越えてさらに西の谷に入ると、途端に人の気配が無くなります。いや、山中はこうあるべきですし、人がいない方が好みなのですが、あまりに

ヒマラヤをうろうろと 4

「一緒にいた相棒はどこだい?」 シェルパの一人が話しかけてきました。彼はアメリカ人トレッカーに同行していて、ルートが似ていることからこれまで何度か宿泊するロッジが一緒になっている顔なじみです。が、話をするのはこれが初めてでした。 「帰ったよ。ギブアップだ。」 私がそういうと、一緒に行動しているシェルパのドミさんがシェルパ語で何やら補足をしてくれています。それを聞いたシェルパは、ニヤリとしながら首を振り、食堂から去っていきました。 *** エベレストBCのあるクンブの谷か

ヒマラヤをうろうろと 3

カサカサと上着に何かが当たる音がしたので目を開けてみると、雪が降っていました。 床が冷たいなぁと思ったら、床ではなく大きな岩。疲れて氷河脇の露岩上で昼寝をしていた様子。 下流からは黒くて厚い雲が湧いてきているし、いつの間にか夕方になっています。そろそろロッジに引き上げたほうが良さそうです。 ヒマラヤに入ってから2週間が経ち、私たちはエベレストから流れるクンブ氷河脇のゴラクシェップという集落に到達していました。私の場合、大体一度の調査で1ヶ月ぐらい山に入っているので(シャワー

ヒマラヤをうろうろと 2

「ダメってわかってますけど、マスクつけたいぐらいですね…」 あるとき、一緒にヒマラヤに入った後輩がこんなことを言い出しました。 基本的に、エベレストのあるクンブ地域のトレッキングシーズンは3~5月頃か、10月~12月頃がメインです。モンスーンの影響で夏の間は天気が優れませんし、12月下旬から2月中旬頃までは気温も低く一般向けではありません。 このモンスーン以外の時期は所謂乾季で、山中はとても乾燥しており埃まみれ。なので、目や鼻にはやさしくありません。花粉症の症状に似ていま

ヒマラヤをうろうろと 1

この数年、幸運なことに何度かヒマラヤ山中を歩く機会に恵まれました。 ヒマラヤには世界で一番高い山、エベレストがあるだけではなく、8000mを超える山々が14座もあるのです。 なので、ヒマラヤに行くと人に伝えると、「どこかに登るの?」と聞かれることがあります。私は山屋さんではなく研究のために訪れているので、残念なことに高いところには登りませんし、そもそも登れません。 例えばエベレストのある地域を訪れる場合、まずネパールの首都カトマンズ(標高1500mぐらい)から小型の飛行機