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発売から4か月

このところ島根県内も連日20度を超える初夏のような陽気が続き、桜(ソメイヨシノ)の見ごろもあっという間に通り過ぎました。この1か月間は、年度替わりで世の中全般に忙しい時期だったこともあり、本書【『砂の器』と木次線】に関してもそれほど動きはありませんでした。そんな中、昨日(4月14日)はYouTubeの配信番組「不忍ブックストリームⅡ」でお話する機会をいただきましたのでご報告します。


「不忍ブックストリームⅡ」とは

この配信は、東京の谷中、根津、千駄木(通称:谷根千)で「一箱古本市」などの活動をしているグループ、不忍ブックストリートが毎月行っているもので、ライター・編集者の南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)さん、池袋の「古書往来座」代表の瀬戸雄史さん、不忍ブックストリート実行委員の鈴木善文さんがレギュラー出演されています。
今回は、出雲市出身の南陀楼さんが、山陰中央新報の読書欄(3月2日)で本書の書評を書いて下さったご縁で誘っていただきました。
4月14日の21時から約1時間40分にわたり生配信されました。下のバナーからご覧いただけます。(18分頃から出ています)

反省の弁

WEB会議ツールZoomを使って、生配信でお話しするのは初めての体験でした。こちらが話しやすいよう、レギュラーの皆様方にいろいろと気をつかっていただいたおかげで、本人的にはとても楽しくしゃべっていたのですが、後で映像を見て、反省しきりです。
カメラの高さに合わせるため、二つ折りにした厚手の長座布団を椅子にのせ、その上に座っていたのですが、無意識のうちに上半身がふらふらと常に揺れていて、なんだかアブナイおじさんに見えます。
それとZoomの場合、2人以上が同時にしゃべると誰か1人のマイクだけがオンになり、他の声は聞こえなくなるようです。私自身もともと早口ということもあり、ところどころ音が途切れていたので、気をつけないといけないと思いました。
そして最後のクイズコーナーでは、日ごろの不勉強が露呈!松本清張ファンの皆さんには申し訳ない限りです。こんなことなら事前に清張作品について復習しておけばよかったと、試験のヤマが外れた高校生のような気分になりました(笑)

カットされた「3冊」

「不忍ブックストリームⅡ」では通常、特集の最後にゲストが本を3冊紹介するということになっているそうです。私も南陀楼さんからご指示をいただいて用意をしていたのですが、話が長くなってしまったこともあり、この部分はカットされました。せっかくですので、ここでご紹介します。
本書【『砂の器』と木次線】にちなみ、島根県のある中国地方に関連する3冊という括りです。

⓵「中国山地(上)(下)」

『中国新聞(上)(下)』中国新聞社編、1967年(上)、68年(下)、未来社

・低い山々が延々と連なる中に集落が点在するのが中国地方の地形的な特徴です。平野は少なく、東西400キロに及ぶ中国山地が多くの面積を占めています。
・この本は1966年に275回にわたって中国新聞に連載されたシリーズを書籍化したものです。時は高度成長期、急激な人口流出、社会変動の真っ只中にあった中国山地の姿を描いています。取材は中国5県と兵庫県の一部、300集落に及び、具体的な事例の宝庫になっています。
・かつての中国山地はたたら製鉄がさかんでした。砂鉄をとるために山を削った跡地は水田に。農業と炭焼きでそこそこ食べることができたので、山奥でも人が住める環境にありました。それが昭和30年代から高度成長と燃料革命(石油、電気、ガス)で一転します。
・離村、出稼ぎ、産業の衰退……個人の家計や集落内の軋轢など生々しい話も出てきます。一方で、厳しい現実に立ち向かう新しい挑戦も描かれています。
・中国新聞はその後も中国山地の長期連載を実施し書籍化しています。「新中国山地」(84~85年連載、86年刊)「中国山地・明日へのシナリオ」(2002年)「中国山地・過疎50年」(2016年)
・人口減少は今や日本全体の問題ですが、地域を時間の奥行きでとらえる際の「起点」「基準点」となる外せない本といえます。

②「和鋼風土記 出雲のたたら師」

「和鋼風土記 出雲のたたら師」山内登貴夫(やまのうちときお)著、角川選書、1975年

・日本古来の製鉄法であるたたら製鉄。砂鉄と木炭を燃焼させて純度の高い鉄を精製します。かつて良質の砂鉄と森林資源に恵まれた中国山地ではさかんに行われ、全国の鉄の6~9割を生産していたこともあります。
・しかし、その全盛期は江戸~明治初期まで。その後、安い洋鉄が輸入されるようになり、国内でも鉄鉱石を原料とする西洋式の製鉄法にとって代わられ、大正の終わり頃には産業としてのたたらは姿を消します。
・この本は、1969年10月に飯石郡吉田村の「菅谷(すがや)鑪」で行われた、たたら再現の記録です。日本鉄鋼協会(製鉄業界の学術団体)が、当時途絶えていた「たたら」とはどういうものなのか、科学的に研究する目的で、実際にかつて「村下」(むらげ、鉄づくりのリーダー)を務めていた人など4人の老人に声をかけて実現しました。
・著者は岩波映画の監督で、この時の再現を記録し同名の短編映画を作っています。現在、雲南市の鉄の歴史博物館で見ることができます。
・たたらのプロセスの一部始終、技術的な話も面白いですが、村下の堀江要四郎さん(明治19年生まれ、当時83歳)の言動からうかがえる、たたらに携わる人たち独特の世界観が興味深いです。村下は何をするにも、鉄の神である「金屋子(かなやご)の神様」に気を遣います。たたらの過程は神との対話でもあります。たたらは産業であると同時に神事だったといえます。
・堀江老人は奥さんに死別。しかもその後2度再婚しますが、いずれも奥さんに先立たれる不幸に見舞われています。金屋子神は女性の神様で嫉妬深いとの言い伝えがあります。桜の木の下で「たいへんやきもち焼きの神さんだから、それで私には女房との縁がないのかもしれん」と語る堀江老人の言葉が印象に残りました。

③「忘れられた日本人」

「忘れられた日本人」宮本常一著、岩波文庫(もとは1960年、未来社)

・いうまでもなく古典的名著です。民俗学者・宮本常一は山口県の周防大島出身で①の「中国山地」にも協力しています。昭和10年代から全国の村々をくまなく歩きました。土地の古老たちの話をもとに、近代化・西洋化以前の日本人がどのように生きていたのか、意外な姿を浮かび上がらせています。
・例えば、女性の生き方。封建時代、家父長制のもとで女性は抑圧されていたイメージがありますが、実際には違う面もあったようです。村の若い娘が母親の協力で家出をし、連れ立って旅に出る風習もありました。旅先で稲刈りがあると、そこで雇われて収入を得たり。今でいうワーキングホリデーです。四国の松山など大きな街の店で働いて、都会の言葉を身に着けて帰るのが、村の女性の嗜みだったりしました。家出が外の世界を見る社会勉強の機会だったとも言えます。
・田植えでは、むしろ女性が主導権を握っていました。今だと「不適切にもほどがある」ですが、女性同士エッチな話で盛り上がったり、男性をからかって田んぼに突き落としたり、逆セクハラみたいな風習も見られたようです。
・もちろん現代の方が、個人の自由や多様性が大事にされる世の中なのは間違いありません。しかしその分、様々な配慮が求められ、社会が息苦しくなっているところもあります。案外、昔は昔なりに、おおらかにのびのびと暮らせていたのかもしれないと思ったりします。現代の日本人を考える上でも、ヒントを与えてくれる一冊です。

最新情報

映画『砂の器』無料放送!

BS松竹東急(BS260チャンネル)で映画『砂の器』デジタルリマスター版が無料放送されます。
日時は4月18日(木)20:00~22:30です。この機会にぜひご覧ください。
本書もあわせてお読みいただければありがたいです。

第4刷が決定!

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