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エイプリルフール|日記|2022/4/1

四月一日(金)

今日はエイプリルフール。保身のための細かな嘘はつけるが、エイプリルフールのようにエンタメ性に富んだ嘘をつけない僕。Twitter上ではU-1グランプリ(日本一の嘘つきを決める大会)が繰り広げられており、観戦だけさせてもらう。中には今日がエイプリルフールであることを失念して、信じてしまうほど巧妙な嘘も混じっていたり、楽しませてもらった。

それはさておき、昨日三月三十一日は日記をサボった。毎度のことながら、勉学そっちのけで読書に耽ったツケが回ってきたのだ。今日の午後一時半までに国際学会に投稿する論文を英文校正に出せるぐらいには完成させなくてはならなかった。そのため昨日は早めに就寝した。

今日は午前五時半、五時四十五分と経て、最終的に午前六時に起床。朝食は納豆ご飯といちごジャムパン。出勤前の父親がついでにコーヒーを淹れてくれた。誕生日プレゼントに贈った珈琲考具のワンドリップポットを愛用してくれているよう。「これを使うことで、嫌な渋みが幾分か減って味に深みが出る。」と父は嬉しそうに言った。

珈琲の、身が引き締まるような苦味のおかげで、キリリと頭が冴え、効率よく作業を進めることができた。カチカチとノートPCのキーボードから小気味よい音を鳴らしつつ、午前十一時ぐらいには大方完成させることができた。

午後からの教授との個人ミーティングを終え、昨日買った谷崎潤一郎「陰翳礼讃」を読む。読了後、久しぶりに感想を長めの文章にまとめてみようという気になり、思いつくままに滔々と綴ってみたのだが、あまり納得のいく形に結実しなかったので、投稿することは諦めた。この本は、袈裟や厠など日本独特の「陰翳の美」に対する認識を喚起させる内容で、西洋と東洋の文化の違いが肌の色の違いから来るのではないかと推察する谷崎の主張には目から鱗だった。谷崎潤一郎の生きた時代とは異なり、生まれながらにして西洋と日本どちらの文化とも接してきた僕らは、日本古来の豊穣な文化を深く理解しつつ、千年以上前に中国から輸入された漢字を上手く取り入れたように、文化同士の止揚に血道を上げるべきではないだろうかと思った。

晩飯はチキンナゲット、どん兵衛、肉じゃが、父が釣ったハネのフライ、サラダ。食後にマミーを飲んだ。食事中、テレビでお笑い番組をやっていたので、家族で見る。いろんな芸人さんがネタを見せる中、滝音の面白さが群を抜いていた。ツッコミの人のワードセンスが本当に面白い。今日やっていたネタは、授業参観で性教育をするネタだった。滝音は僕の大学の学園祭に前回来ていたそうで、見に行けば良かったなと今になってすごく後悔している。

食後は村上春樹「木野」を読んだ。妻に不倫された男の、その心の喪失と回復のお話。

俺は傷つくべきときに十分に傷つかなかったんだ。

濱口竜介「ドライヴ・マイ・カー」にも組み込まれているこのセリフがとても心を打つ。本当に苦しいことに面と向かうことは怖いし、そこから逃げたくなってしまうのは、僕にも痛いほどわかる。そうして空虚な心を抱え続け、最悪死を考えるに至るまで自分を追い込んでしまう人もいるのだろう。けれど作中で「記憶は何かと力になる。」とカミタが言っているように、人との温かい繋がりなどの良き思い出が、この世に繋ぎ止めてくれる力になってくれるのだろうと思った。

本を読み終え、リビングに行くと、父がドライヤーでどん兵衛のプラスチック容器の底に風を当て、空中に浮かしていた。Twitterで今日そのやり方を知ったらしく、一応エイプリルフールなので実際にできるのかどうか確認していた模様。原理はよくわからないが、あっけないほど簡単に、そして綺麗に浮いていたので、僕も子供心を刺激され、一緒になって遊んだ。


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