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【眠れないときには、童話でも。】第五夜、「開けゴマ」のアリババよりも40人殺めたモルジアナが主人公さ!

「あああ、まあ、なんてふしぎな油商人なんだろう。全く、あきれてしまう。だが、これはきっと、だんなさまを殺すつもりにちがいない。」

こんばんは。そしてはじめまして、向日葵へい と申します。
「眠れない時は、小さい頃に戻った気持ちで、懐かしい童話でも1つ読んでみてはどうかな?これがかなり読みやすくて面白いんだ!良い睡眠導入剤にもなるしね」コラムもどき5回目。
就活が一息ついたので再開しますー!

今回は菊池寛訳『アリ・ババと四十人のどろぼう』です。(盗賊と訳している人もいます)


アラビアンナイトの中でも有名な話かと思います。もし話を知らなかったとしても「開けゴマ」というフレーズはどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。そのセリフが出てくる昔話です。「開けゴマ」さえ知っていればこの物語の9割は押さえていると言っても……過言なんですよね。残念ながらw
呪文「開けゴマは物語の「起」「承」には関わりますけど「転」「結」には関わってこないんですよ。

さあ、いつもの通りかなり雑な要約を以下に展開します。超雑です。全文は青空文庫にあります。ぜひそちらを読んでいただけると嬉しいです。10分もあればおつりがきますから。

・・・

ペルシャのある町にアリババという青年がいました。アリババには兄がいて名をカシムといいました。カシムは金持ちの娘を嫁にもらい、アリババは貧乏な娘を嫁にもらいました。お金に余裕のあるカシムは、毎日ぶらぶら遊んで暮らしていましたが、反対に、アリババは毎日働かなくてはなりませんでした。
 ある日、アリババは仕事中、ひょんなことに泥棒の宝物庫(兼アジト)を見つけてしまいます。それも「開けゴマ」「閉じよゴマ」という呪文で岩戸が開閉する不思議な宝物庫でした。呪文を知ったアリババはその呪文を使ってひっそりと忍び込み、金銀を盗み家へ帰りました。しかし、金銀の隠し方が下手だったため、兄のカシムに見つかり、財宝の場所を教えるよう問いただされ渋々教えることになりました。兄のカシムはタイミングを見計らって意気揚々と泥棒の宝物庫で盗みを働きますが、出る際呪文を忘れ、泥棒に見つかって八つ裂きにされて亡くなります。なかなか帰ってこないカシムを探しにアリババが宝物庫にやってくると兄の死体がありました。兄の身元が泥棒に知れてしまうと自分や家族の命が危ういと考えたアリババは、カシムの奴隷で一番頭が利口であったモルジアナに相談します。モルジアナはそれに応え、あらゆる策を講じますが、泥棒も宝物庫の秘密を知ったものを生かしておけないため、アリババ(とカシム)の居場所を必死に探しました。泥棒の頭もモルジアナ同様利口であったため、アリババの家(元カシム家)に二回素性を隠して忍び込むことに成功しましたが、一回目で部下39人を、二回目は自分自身がモルジアナによって殺されました。アリババは自分と家族の命の危機を救ってくれたモルジアナに大変感謝し、自身の息子の嫁として迎えます。また、宝物庫を使う泥棒は一掃され、呪文を知る人物もアリババのみとなったために、宝物庫にあったお宝でアリババは国一番の大金持ちになりました。おしまい。

・・・

さあ、それでは行ってみましょう。今回の個人的おもしろポイントは、


・題名「モルジアナと42人の泥棒」の間違いだろ!!

・靴屋の爺さんの技術がやばいし、方向感覚は人間の能力を大きく逸脱している件

・塩の風習


の以上3つとなります。
なお、菊池寛訳『アリ・ババと40人のどろぼう』を内容に則って話させていただきます。訳の違いで多少異なる部分を感じる方もいるとは思いますが、悪しからず。


題名「モルジアナと42人の泥棒」の間違いだろ!

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まず改題した前半の「モルジアナと」の部分をお話ししましょう。本文を読むと分かるんですが、アリババは全体通して大して活躍してないんですよ。功績は「開けゴマ」という呪文を知ったことぐらいなんです。しかものせいで兄(性悪ではあるが)は殺されるし、自分の息子は危険な目にあいます。それにアリババは人を疑うってことを知らない鵜呑み野郎であるため、かなり余計なこともします。(自分を殺そうとしている泥棒を家に招き入れるだけでなく手厚くもてなす等)確かに山ほどお金は手に入ったかもしれませんが、モルジアナがいなければ、その先の人生はマイナス振り切ったであろうことは想像に難くないんです。
アリババの危機を全て跳ね返したモルジアナがどう考えてもヒーロー(女性だけど)でしょう!


誰が何と言おうと、この話の主人公はモルジアナです。後半の人物の主語、ほぼほぼモルジアナから始まります。むしろモルジアナしか活躍しません。
(まあ、39人の泥棒を淡々と殺す姿は……ヒーローっぽくはないかもしれない)

かめから油をくみ出して、それを火の上にかけました。そして油がにえ立つのを待って、それを、どろぼうたちのかくれているかめの中へ、次々とついで歩きました。それでどろぼうたちは、みんな殺されてしまいました。

揚げ物に使う油の温度が170~180度ぐらいだと仮定して、その油が人の入った瓶に注がれると考えると、……ぞっとします。
この後、泥棒の頭が自分の部下の様子を確認しようと瓶を覗くシーンがあるんですが、ぶっちゃけかなり同情しました。でもモルジアナの見せ場の1つでもあるんですよねw

改題後半の40人にプラス2された42人の理由は、「アリババ」を「モルジアナ」に置き換えたよりももっと単純です。アリババとカシムを加えた数が42だから。以上になります。

りっぱな宝物や、金貨や銀貨をつめこんだ大きな袋が、すみからすみまで、ぎっしりとつみ重ねてありました。これだけのものをあつめるには、まあ何年かかったことだろうと、アリ・ババは思いました。そしておそるおそる、金貨をつめこんだ袋ばかりを六つ取り出しました。そして手早く三びきのろばにつんで、その上に金貨の袋がかくれるほど、切った木をつみ重ねました。
カシムは、大へんなよくばりやでした。それで、どろぼうたちの宝物を見て、とび上るほどよろこびました。そして、金貨の入っている大きそうな袋をえらんで、それを二十四も、戸のところまで引きずり出して来ました。

「お前らがやってる行為も泥棒だろうが、アリババ、カシム!!」って突っ込みたくなるでしょう?私はなりますよ。しかも、アリババにいたってはこんなセリフも残してます。

「安心おしよ。なんで私がどろぼうなんかするものかね。そりゃ、この袋は、もともとだれかがぬすんだものには、ちがいないがね。」

いやいやいやいや、泥棒だろ。盗んだものを「盗んでる」でしょう。たとえ盗品でも窃盗罪あたりますよ……日本では。
物語の場所であるペルシャ(昔)はもしかして窃盗罪にあたらなかったのかもとも思いますが、私は現代に生きる日本人ですので、私にとっては「42人の泥棒」ですねー。

靴屋の爺さんが人間の能力を大きく逸脱している件

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ある意味モルジアナよりやばい人なんじゃないかという説が私の中でにわかに浮上した御仁、靴屋のおじいさん。ヤバいポイントは2つあります。
この靴屋のおじいさんは、カシムが泥棒に殺され、アリババが泥棒のことをモルジアナに相談した後に出てくる人物です。「カシムが誰か殺された」といううわさが流されると泥棒たちが嗅ぎ付けるために、「八つ裂きにされた死体」を「病死の死体」に見せかける必要があった際、モルジアナが彼を利用しました。おじいさんは、「靴を縫う要領で、切り刻まれた死体を縫え」とモルジアナに金を握らされ仕事を引き受けます。おじいさんは、万が一に備え、カシムの死体のあるアリババの家(元カシムの家)がばれないようにアリババの家には目隠しをして連れていかれました。

靴屋のおじいさんのヤバいポイントその1

モルジアナは、このくつ屋をつれて帰って来て、切りきざまれた主人の肉を、ぬいあわせるように言いつけました。くつ屋は、だれだって、ぬいあわせたとは思えないほど、かっこうよくつぎあわせました。

え、マジで言ってる?

靴屋のおじいさんのヤバいポイントその2

死体を探していた泥棒が、何気ない会話でこの靴屋のおじいさんが自分が探している八つ裂きの死体を縫い合わせたことを知った後のシーンです。

どろぼうは、金貨を一枚、そっとくつ屋ににぎらせました。そして、その家へつれて行ってくれないかとたのみました。
「お前さんにまた目かくしをして、私が手を引いて行ったら、おおよそのけんとうがつくでしょう。もしその家がわかったら、もっとお金をあげますよ。」と、言うのです。
 そこで、とうとうくつ屋は、しょうちしました。そして、目かくしをされて、そろそろ歩きながら、カシムの家の前まで来た時、ぴたりととまりました。

いやいやいや、嘘だろ?前世ハトか何かですか?

塩の風習

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物語の最後、泥棒の頭がアリババの家に身分を隠して忍び込み、アリババから食事を振舞われる場面でこんなシーンがあります。「塩」を巡るワンシーンです。

「あなたとご一しょにごはんをいただきたいのは山々でございますが、じつは私は、神さまに塩を食べませんと言ってお約束しているのでございます。それで、家でも、とくべつにいつも塩ぬきのりょうりをさせているようなわけでございますから、どうかあしからず。」
(中略)モルジアナは、この言いつけを聞いた時、少しへんだなと思いました。(中略)そのお客さまはどろぼうのかしらで、(中略)「ふん、かたきと一しょに、塩をたべないのはふしぎじゃない。」と、モルジアナは心のうちでつぶやきました。ペルシャには、こういう迷信があるのです。

この迷信の内容が知りたくてめっちゃ調べたんです。めっちゃ調べたんですが、これだ!!という答えが残念ながら見つかりませんでした。
一番それっぽいのは、言語学とアラブ研究をご専門としている西尾哲夫さんの書籍『アラビアンナイト―ファンタジーの源流を探る』に書かれてあった「食卓の塩は客人に対する礼儀ですから、これを拒絶するのは客人として資格を欠いていることにつながります」(西尾、2010、p.66)ってやつですね。他にもヤフー知恵袋とかで、「“塩を一緒に食べた人は友である”という風習があるよ」などという回答もありました。これいいなぁって思ったんですけど、参考文献が不明で確固たる確証が持てない部分がありますから、報告程度で失礼します。多分あっているんでしょうけれどね^ ^

何はともあれ、「客人として資格を欠いている=自分は客人でない」というのを「塩」というキーワードで暗にほのめかした泥棒の頭と、それに気づくモルジアナの双方の機転の良さに私はものすごく感動しました。自分がアラブに生まれ育って、その地域に根差した「塩」に対する風習がすでに内在化していたら、きっとエスプリの効いた話の展開がより一層面白かったんだろうなとも思いました。

以上が個人的面白ポイントでした!

おわりに

菊池寛の訳した『アリ・ババと40人のどろぼう』は青空文庫で読めます。1万字もいかないです。比較としてこの記事が大体4500字です。全然長くありません、ぜひ読んでください。
「アリババ空気だなあ、モルジアナ超かっけえ!」を是非とも感じていただきたい所存です。

P.S.
未曾有の「就活」でしたね。いやまだ少し続けているんですが、少しばかり大変でした。コロナなぁ。

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