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春にたゆたう10冊 / 養生文庫

生(いのち)を養うことを養生と呼びます。この養生にとって日常の衣食住は大切ですがもうひとつ忘れてはならないのが季節に合わせて過ごすという点です。鍼灸の古典に『黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)』という本があります。その中の「四気調神大論(しきちょうしんたいろん)」という編に季節毎の過ごし方、養い方について言及する文章があります。とても有名なで色んなところで引用されていますから、ご存じの方もいるかもしれません。以下翻訳したものを抜粋してみます。

春の三ヵ月は「発陳(はっちん)」と称する。春、陽の上昇とともに潜んでいた気が発散し、天地の間に万物みな発生し、姿容を開陳するの意である。この季節は、就眠はいくらか遅らせてよいが、朝は早めに起きて庭をゆっくり散歩するのが良い。頭髪はもとどり(※)を解いて形をゆるめ、全体をゆったりと自由にしてやらなければならない。心中の意欲を起し育てる。起こした意欲はのびのびと生長さあせるべきで、抑えつけてはならない。生長に役立つものはすべて施すべきで、奪ってはならない。自由に生長を促進すべきで、抑制滅殺してはならない。『世界の名著 12 中国の科学』より
※もとどり…ちょんまげのようなもの

春には動いたり、温めたりする陽気が充実してくるので、のびのびと過ごさないといけないよね(省略しすぎてすいません)と言ったことが書いてあります。さて、前置きが長くなりましたが先日おしらせしたとおりに養生文庫[春]の選書をご紹介したします。上記の文を基にしてブックディレクターの幅允孝さんより「春にたゆたう10 冊」というテーマで選書をしていただきました。またそれぞれの本に紹介文もつけていただています。ゆれうごく春にぴったりな本ばかりです。養いのお供どうぞ。

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『太陽をかこう』ブルーノ・ムナーリ(作)、須賀 敦子(訳)
グラフィック・デザイナー、絵本作家、彫刻家、美術教育家と様々な肩書きを持つブルーノ・ムナーリによる「太陽」の本。様々な太陽にまつわるエピソード、世界各国の芸術家のリトグラフや版画などの太陽の作品など、多彩な色や表現によってたくさんの「太陽」と出会える1冊です。読書による光合成をぜひ。

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『明るいほうへ』 金子みすゞ
童謡詩人 金子みすゞが残した512編の中から60編の詩を収めた童謡集。表題作の「明るいほうへ」は、草花や人が、光溢れる方に向かっていく習性を持ったものだと教えてくれる1編。空、星、鳥など身近な自然や馴染み深い日常の細部を見つめる、彼女の温かく優しい眼差しに触れてみてください。

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『TOOLS OF DISOBEDIENCE』MÉLANIE VEUILLET
スイスの刑務所にいる囚人たちが、こっそり隠れて作った道具を集めた作品集。配給される限られた材料を使って作るラジオ、水タバコ、靴下に石をいれた鈍器、合鍵、ヌンチャク、擬似ピストルなどの発想力と実現力は正にクリエイティブ。厳しい環境下だからこそ花開く人の想像力に刮目してください。加えて、見つかって没収された(だから本に載っています)オチも少しチャーミングです。

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『世界はうつくしいと』長田 弘
住まいと暮らしをテーマとする季刊雑誌「住む。」に連載した25篇に2篇をくわえた詩人 長田弘による詩集。表題作のほか「机のまえの時間」「モーツァルトを聴きながら」「人の一日に必要なもの」など日々の生活に紐づくような魅力的なタイトルが並んでいます。晩年の彼の詩は、読み手の時間の流れをゆったりさせ寛がせる力を持つ柔らかい言葉です。その行間を気持ちよくたゆたってください。

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『生きているのはなぜだろう。』池谷 裕二(作)、田島 光二(絵)
東京大学薬学部教授の池谷裕二の文章に、映画のコンセプトアートを手がける田島光二が絵を添えた、人が生きる意味を科学の分野から解き明かした絵本です。「生きる意味」について考える小学生の男の子のシンプルな疑問を起点に、自然科学の視点と美しいビジュアルで迫ります。大人でも何度も読み返してやっと腑に落ちる本。

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『さくら』長谷川 摂子(文)、矢間 芳子(絵)
古来より日本人に愛されている桜。この絵本は一本のソメイヨシノの春夏秋冬を描いています。春、満開の花の蜜を吸いに訪れる鳥たちの様子から、緑いっぱいの葉を繁らす夏、赤や黄色に色づいた秋、葉を落とし春に向け息吹を宿す冬。生命の営みを老若男女に伝える1冊を芽吹の季節にぜひ。

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『ふらり。』谷口ジロー
『孤独のグルメ』の作画を担当している谷口ジローさんが描く江戸のお散歩漫画。とはいえ、北海道への測量旅に出かける伊能忠敬がモデルなので、歩幅を測り、周囲を見渡し、その末に鳥の目線や亀の目線と同化していく様がユニークです。家族とお花見や潮干狩りを楽しむ姿からは江戸の暮らしや文化も知ることもできます。

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『三木成夫 いのちの波』三木 成夫
解剖学者 三木成夫さんが説く生命と人体についてのユニークな思想をまとめた1冊。味覚について語る章では、目から鱗ならぬ「舌のうろこ」という言葉が飛び出します。人体の様々な臓器の中でも内臓に重きをおいていた三木。赤ちゃんも大人も、その行動の源は内臓の声だと言います。少し違った角度から、身体の仕組みをのぞいてみませんか。

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『いのちを呼びさますもの』稲葉 俊郎
西洋医学だけではなく伝統医療や民間医療なども修める医師 稲葉俊郎さんは音楽や絵画にも造詣が深く、「山形ビエンナーレ2020」の芸術監督も務める方です。本書は様々なジャンルで医療との接点を模索している稲葉さんが紐解く「いのち」の本。能楽、文学、詩など芸術を通して語られる「ひとのこころとからだ」から、生きていることの不思議を感じてみませんか。

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『くらしのこよみ』うつくしいくらしかた研究所
気象の動きや動植物の様子によってその時期の兆しを伝える七十二候を、美しい写真やイラストを多用し紹介した季節の事典。例えば第十一侯は「桜始開(さくらはじめてひらく)」。満開の桜の写真が添えられます。季語は「春めく」、旬のさかなは細魚、やさいは浅葱。日本の繊細な季節のうつろいを感じられ、日々の生活を豊かにしてくれる手元においておきたくなる1冊です。

以上の10冊です。

養生文庫の書籍はお灸堂の院内に常時展示をしております。ご来院の際は手に取ってご覧ください。また、こちらの選書をご覧になって実際に買ったり、読んだりして頂けるとなお喜びます。次回の選書は夏がはじまる立夏の5月5日を目安に更新致します。それまで各々養っていきましょう。

紹介文:幅允孝(BACH)
テキスト:鋤柄誉啓(お灸堂)

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お灸とデザインの人。お灸治療院のお灸堂、お灸と養生のブランドSUERUの代表をしています。みのたけにあった養生ってどうすりゃいいの?という課題に向き合う毎日です。