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企業再生メモランダム・第7回 資金繰り改善アクション・プラン

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの5枚目は10年前に作成した「資金繰り改善アクション・プラン」と題したメモです。

「経費削減アクション・プラン」「売上拡大アクション・プラン」と紹介してまいりましたが、最後がこの「資金繰り改善アクション・プラン」になります。

メモの背景

企業再生では、整理解雇を実施したり経費削減を実施したりしたとしても、資金繰りが改善するには数か月のタイムラグがあるのが一般的です。

会社の資金繰りは急には改善しないのです。

対象会社では、私が乗り込んで、早々に、赤字部門の閉鎖とそれに伴う整理解雇を実行しましたが、このメモが作成された時には、まだその経費削減効果が出てくる前だったので、手元資金は枯渇する寸前といった酷いありさまでした。

今回は赤字部門の閉鎖の話をしたいと思います。

対象会社の赤字部門は、毎年、中小・中堅企業では考えられない営業赤字を垂れ流ししており、会社全体を危機的な状況に陥らせていました。

企業再生の仕事をしていると、ごくたまに出会うのですが、固定費に比して、売上水準が低すぎて、ちょっとやそっとの改善策ではどうしようもない状態の会社があります。

まともに経営陣が機能していない会社でなければ、このような損益計算書にはなりません。

なぜなら「普通の会社」では、事業が赤字になった場合、経営者や幹部社員がその事業を辞める意思決定をするのが一般的だからです。

しかし、今回の事例のようなおかしな状態の会社では、経営者や幹部社員が、赤字であることを把握していながらも、辞める意思決定を下さないのです。

理由としては、社長の肝いりの事業のため「聖域化」して赤字が放置された事例、「先行投資」という名前のもとで赤字が許容され続けた事例、そして、「祖業」ということで赤字でありながら撤退できなかった事例など、赤字事業の言い訳は様々あると思います。

このように経営者が赤字を放置し始めたら、それこそ「普通の会社」、「普通のサラリーマン」の価値基準が崩れ、何が正しいかが分からなくなってしまうのです。

第2回でも記載しましたが、「お客様のため」や「売上・利益の拡大のため」という当たり前の企業としての良し悪しの価値判断が崩れた瞬間、幹部社員の好き・嫌いや社内政治が蔓延してしまうのです。

特に赤字事業に従事するスタッフはおかしくなってしまいます。

一度、会社から赤字が許されることが分かったら、当該事業に属するスタッフは、急に仕事に対して努力をしなくなったり、「この部署は他の部署とは違うから!」と横柄な態度を取ったりし始めるのです。

私も、その赤字部門の閉鎖に伴った整理解雇をした時に、その部門に属する多くのスタッフの方とコミュニケーションを図ることになりました。

以前もお話した幹部社員と同様で、多くの人は、最初は赤字であることは知らされていなかったと言っていました。しかし、私から「実は赤字であることを知っていましたね?」と尋ねると、みな「薄々、赤字だと思っていた。」と述べていました。

また、ごくわずかな人ですが、会社のおかしな論理に染まりすぎてしまった人は「社長の方針に従っていたから、私は正しい。」と述べ、当方らが「残念ながら、赤字のため、これ以上は存続できないのです。」と言っても、全く理解してくれず、話が噛み合わない方までいました。

「赤字は人を狂わせる」。企業再生の仕事をするたびに思います。

対象会社では、このような赤字部門もあって、資金繰りに窮していたのです。

メモ「資金繰り改善アクションプラン」の中身

このメモには、売上拡大や経費削減以外の、資金繰り改善施策が書いてあります。

具体的には、運転資本の改善(支払いサイトの改善)、資産の売却、投資の抑制、そして、資金調達です。

本連載執筆時現在の2020年春の新型コロナウイルス感染症問題で、飲食店やホテル支援のため、前売券販売などをするキャンペーンをしている会社がありますが、まさに前売券や年間チケットなどは、資金繰り改善に繋がる財務的側面があります。

資産の売却も、社歴の長い会社だと、不要不急の固定資産や在庫商品があるものです。これらの資金化も馬鹿にはできません。

投資の抑制も、安全管理やコンプライアンスに関するものは減額することが難しいですが、厳格に審査すれば、その投資資金をそれなりに運転資金に回すことができるでしょう。

資金調達も、銀行借入、売掛金担保融資、ファクタリング、メザニン・ファイナンス(優先株・劣後債)、エクイティ・ファイナンスなどありとあらゆることを検討しなければなりません。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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