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企業再生メモランダム・第6回 売上拡大アクション・プラン

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの4枚目は10年前に作成した「売上拡大アクション・プラン」と題したメモです。

なお、同じタイミングで、前回ご紹介した「経費削減アクション・プラン」「資金繰り改善アクション・プラン」と2つの簡易的なメモがあります。次回は「資金繰り改善アクション・プラン」をご紹介したいと思います。

メモの背景

以前記載したとおり、対象会社は、会社のトップである社長が赤字を隠蔽して、対外的には名経営者のように振る舞っていたという極めて特異な事例でした。

社長は非常に外面の良い方でした。経営成績が赤字ということを除いては、小まめに自分が掲載された新聞記事を株主にレポートし、地元の政財界の方を招待したイベントなどをたびたび開催して、自己ブランディングには余念がない人でした。

逆に言うと、それだけでのし上がった人なのですから、徐々に明らかになっていくのですが、外部に対する誇張された情報発信と誇大広告のような自己ブランディングには目を見張るものがありました。

なお、少し話が脱線しますが、最近のスタートアップ業界でも似たような話が散見されているとよく聞きます。ベンチャー社長がSNSを通じた自己ブランディングばかりしており、事業に向き合っていないという方が沢山いるようです。

社長は会社の顔役です。そのため、社長個人のブランディングが、全く会社のためにならないとは言いませんが、そればかりやっていて、肝心要の会社の事業がメタメタでは、やはり本末転倒と言わざるを得ないでしょう。

当時、株主サイドから送り込まれた私や株主チームでは、どの程度、その社長が地域に根を張っているのか、株主以外のステークホルダーに影響力を有しているのか分かりかねたため、基本的には、社長を残しながら、経営改革を進めるという難易度の高い選択をして、企業再生をしていました。

私たちは、できることならば、社長が、会社のトップとして、本来の役割をしっかり果たすようになることを願っていたのです。

これも企業再生が進んでいく過程で明らかになっていくのですが、社長は、自分に自信のない方だったからなのか、スタッフに対しては、パワハラを繰り返していました。

遠い距離からだと、社長は強いリーダーシップを発揮して、スタッフも社長に追従しているように見えていましたが、真実は、パワハラによる恐怖による支配だったのです。

特に一部の幹部社員への八つ当たりは苛烈なもので、私が幹部社員らの飲み会に参加したときには、気を遣ってお酌をしに行った幹部社員の一人に対して、「おまえから酌など受けん!」と言って不機嫌そうに一喝しているのを目撃し、まるで小説や映画のワンシーンのようだなと驚愕したのを覚えています。

今回ご紹介する「売上拡大アクション・プラン」に加え、同じタイミングで作成された「経費削減アクション・プラン」「資金繰り改善アクション・プラン」、これら3つのメモが作成された時点では、「企業再生メモランダム・第4回 改革ロードマップ」でご紹介した赤字部門の閉鎖とそれに伴う整理解雇は実行されています。

このような状況下で、次のアクションとしては経費削減を優先課題として、その後、手軽にできる範囲での売上拡大と資金繰り改善をしようと考えたのです。

前回記載のとおり、企業再生の初期段階ですから、まずはスタッフの信頼を獲得するために、相当な確率で成果をあげられることから着手すべきフェーズです。

メモ「売上拡大アクションプラン」の中身

相当な確率で成果をあげられる売上拡大プランとは何でしょうか?

当時、私が対象会社で考えたのは、商品棚の追加設置、委託企業の業務改善と委託業務の内製化です。

赤字企業ではよくあることなのですが、常識的に考えればすぐ分かるようなことが実施されておらず、きめ細やかなオペレーションが実施されていないのです。

流通・小売業ならば、商品棚が最適化されていない場合があります。その場合は、売上機会を逃していることになりますので、商品棚の追加設置をすれば、リスクなく、また、オペレーションの負荷も増えることなく、売上拡大を図ることができます。

委託企業の業務改善であれば、同じく、自社のスタッフに負荷をかけることなく、業務改善が可能です。また、委託業務の内製化であれば、同程度のオペレーションを提供することができれば、社外流出している利益を取り込むことができます。

本来、売上拡大の本丸は、営業であったりマーケティングであったりするわけですが、この時点では企業再生の初期段階です。私たちは時機をうかがって、それらにはまだ手を突っ込まず、お茶を濁すような売上向上施策を提案していたのです。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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