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企業再生メモランダム・第4回 改革ロードマップ

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの2枚目は10年前に作成した「改革ロードマップ」と題したメモです。

「改革ロードマップ」は、いわゆる「To Do List」です。経営上の重要課題が列挙されており、それが項目ごとにグループ分けされていて、課題の概要、重要度、担当、期限、進捗が記されているメモです。

メモの背景

読者の皆様は「100日プラン」という言葉をご存じでしょうか?

「100日プラン」とは、M&Aや投資実行によって新経営陣に経営権が移ってから、新経営陣とスタッフとの間で経営戦略・ビジョンを共有し、具体的なアクション・プランに落とし込んでいく計画のことです。

「100日プラン」では、第二創業における会社の経営理念を再設定し、スタッフに対して、中長期的に向かうべきビジョン、経営戦略や具体的なアクションの大きな方向性を語り掛けることが重要です。

<ご参考>
【第3回】いわゆる100日プランとは ―― 投資直後の3~6か月の改革

● コーポレート・アイデンティティー再定義
 ミッション・ビジョンの確認・再定義と社内コミュニケーション

● 「見える化」=財務会計・管理会計・PDCA(Plan計画 Do実行 Check評価 Action改善)
サイクルの整備
 リアルタイムでの財務数値、管理数値(KPI)の把握
 KPIの定義、設定、捕捉
 見える化を促進するためのITシステムの整備

● 中期経営計画・予算策定
 事業計画の再確認または策定と具体的なアクションプランの策定

● 具体的なビジネス課題への対応
 海外展開強化
 営業管理強化
 マーケティング強化
 生産性改善
 コスト削減

● ガバナンスの整備=経営と執行の分離
 取締役会・評価報酬委員会等の整備
 経営会議等、会議体の整備
 権限規程等の整備

● 組織強化
 戦略に沿った組織変革と組織毎の役割の定義
 必要な人材補強・採用

● 評価・報酬・インセンティブ設計
 成果主義の報酬体系の導入
 直接出資・持株会・ストックオプションの導入

対象会社は、まさに危急存亡の秋にあって、100日も時間の猶予がなく、待ったなしで、一部の大赤字の部門については閉鎖。つまりは、当該部門のスタッフを整理解雇しなければならないような状況でした。

「改革ロードマップ」というメモは、「100日プラン」のようなしっかりしたものではなく、まずはとにかく会社を生き残らせるための「外科手術」のメモといった様相です。

第2回でご説明をしたとおり、対象会社は、社長が赤字決算であることを隠蔽していました。

そのため、幹部社員が出席する経営会議や一般スタッフが出席する社員総会で、急に株主サイドから送り込まれた若者から「このままだと会社が潰れますよ。何とかしないといけません。」と言われても、幹部社員や一般スタッフは、ビックリ仰天、寝耳に水だったわけです。

ただ、冷静に考えてもらいたいのですが、本当に寝耳に水だったのでしょうか?

幹部社員や一般スタッフも馬鹿ではありませんし、現場にいる一般スタッフはお客様の人数や売上把握をしています。経理部など本社機能の一部の人も財務情報を持っています。そして、人の口に戸は立てられないのです。

つまり、会社の危機的状況は、薄々、全員が分かっていることだったのです。

このように赤字会社の多くは、社長、幹部社員、そして一般スタッフと、全員がこの会社の危機的状況と向き合う勇気がないことから、社長とスタッフは「共犯関係」にあるような状態となってしまっています。

企業再生をしていて、今でも信じられない印象的なシーンがあります。

私が、会社の存続を図るためには、やむを得ず赤字部門を閉鎖し、整理解雇しなければならない話をしたところ、最古参の幹部社員が「私には情報開示されていないため知らなかった。赤字なんですか。そうですか。」と他人ごとのように言ったのです。

私から「お客様の数がこれだけ少なければ、1日あたりも、わずか数人しかいません。それでは経営が成り立たないことは明らかです。幹部社員の皆さんは薄々、この部門の赤字状況についてご存じだったのではないですか?」と追加で話をしたところ、「いやいや、私には学がないため、さっぱり分かりませんでした。そうだったのですね。これは大変ですね。」と回答されました。

人間は、自分が見たくないもの、自分に不都合なものは見ないのです。

地方でリストラをするということは、地元でのレピュテーション、地元付き合いにも関わってくるのでしょう。その幹部社員の方は部門閉鎖に心から関わりたくなかったのだと思います。

このように、スタッフ一人ひとりが、会社組織として、本来やらなければならないことを見て見ぬふりをすることで、会社は死に向かっていくのです。

メモ「改革ロードマップ」の中身

「改革ロードマップ」は、当時の経営課題が列挙してあるため、残念ながら、秘密保持の観点から、今回は記載できません。

しかしながら、概略について記載すると、先ほどのとおり、対象会社は極めて資金繰りに窮した会社だったため、大赤字のキャッシュアウトの「止血」を中心に、コーポレート・ガバナンスの適正化、スタッフの安全管理とコンプライアンスにかかる論点について記載しておりました。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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