大うそつきの話 1

書けないときの映画「ビッグ・フィッシュ」に出だしをもらった。

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自分が今いる場所から書きはじめること。
私はこういう気分です、ということを書いてみる。

正直に、正直に、と思うとどうしてもお話になってしまう。




大うそつきの話

むかしむかし、あるところに、大うそつきがいました。大うそつきは、自分のことを「うそつき」だなんて、ちっとも思っていませんでした。自分はやさしいにんげんだと、心のそこから信じていました。だって、大うそつきはいつもみんなをよろこばせていたからです。

大うそつきのまいにちは、こんなふうです。
だれにでもにこやかにあいさつすることから、一日がはじまります。

「おばあさん、おはようございます」
「ごきげんよう。おでかけですか」
「ええ、これから街へゆくんです。おばあさんのたたずまいがすてきだったから、つい話しかけたくなったんです。朝からこんなすてきな人に会えて、ぼくはしあわせだな」
「まあ、うれしいことを言ってくれるのね。わたしにそんなことを言ってくれる人なんて、だれもいないわ」
「そんなことないですよ。きっとみんな思っていても言わないだけです」
「いいえ。だれもわたしのことなんて気にしていないわ。さいごにうちに人が来たのはいつだったか……思い出せないぐらいむかしのことよ」
「じゃあ、ぼくがおうちに行きますよ。いっしょにお茶でものみながらおしゃべりしましょうよ。ぼく、おばあさんの話をききたいな」

おばあさんの顔は、ばらの花みたいにあかるくなりました。大うそつきは、にっこりしておばあさんに片目をつぶってみせました。

「おっといけない。もういかなくちゃ。お茶を楽しみにしていますからね」

そう言って大きく手をふって、はなうたをうたいながら歩いてゆきました。大うそつきはごきげんです。今日もさっそく、ひとりの人をしあわせにできたのですから。今日もさっそく、おくりものができたのですから。

おばあさんはたしかにしあわせでした。そうだわ、お茶会のためのすてきなワンピースをこしらえよう、とあたらしい思いつきにわくわくしました。せすじをしゃんとのばして立ちあがり、今日はいつもとはちがう一日になりそうでした。

なんです? ちっとも「うそつき」じゃないって?
やさしいにんげんじゃないかって?

そうですね。そうですかね。
たしかに「大うそつき」というなまえは、きゅうくつというか、いじわるというか……でもね、そう呼びたいきもちなんですよ。「やさしいにんげん」にしましょうか? そうすると、こんどは、わたしのほうがきゅうくつになって、お話をつづけられなくなってしまいそうです。どうしましょうね。ただ「にんげん」にしましょうかね。ええ。そうしましょう。

にんげんは、ずんずん歩いてゆきました。
すると、こんどは、ぼうやに出会いました。

つづく

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