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残夜のギロチン

 『いっそ首を落としてしまおうか。』

 寝付けない日に限ってグロテスクな事を考えてしまう。
 もし、この重たい頭が身体から離れて、もしくは夜にだけギロチンが現れて首を斬り落としてくれたり、方法は何でも構わないから胴体と離れて布団で眠ることができたら幸せな気持ちで眠れるのではないか。この重たい肩こりも、脳内で繰り広げられる悪夢に魘される事もなく、幸せに眠ることができるのではないだろうか。

 『誰か、誰か!私が目を閉じている間に首を刎ねてくれないか!』

 幾度の夜を、胸元で手を結び、布団の中でじっと願えども叶わない。ここで起きても鏡を見れば青黒い目元のクマに死んだ魚のような目をした顔が映るだけ。朝日を浴びるために瞼を閉じて、現実には起こらない悪夢を見る。もしくは眠れない虚無感と憂鬱に苦しみを足したような現実に襲われるだけだ。
 どちらが辛いかは本人しか知り得ないのに考えてしまう。

 『もし、私なら』

 せめて夢の中でも自由に首が取り外せて、その頭をかかえたまま馬に跨って草原を駆け回ってみたい。まるでデュラハンのように。
 そんなのは勿論夢物語で、結局は医師に処方された睡眠剤を水で胃に流し込む。これが副作用のせいで食欲を誘うものだから寝付くまでが大変なのだけど。
 いつか死ぬ時が来るまでの現実という目先にある悪夢が、幸せな夢として棺に収まるまで、今暫くはこの重い首と共に煎餅布団の中でじっと時間が過ぎるのを耐えようと思う。

 今夜も布団に身を預け、天井を見つめてから瞼を閉じる。
 深く息を吐いたら止めて、ぎりぎりまで生から一旦離れるようにする。酸素が足りなくなった肺の為に大きく息を吸って、また、吐いて。
 身体が布団に沈み込むまで私は繰り返す。

 棺の中で首が離れるまで。

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