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【小説】アルカナの守り人(19) 幕間

 風で木々が揺らめいている。時折、その木々の隙間から光が差し込み、ちらちらと顔を照らしてくる。
 フウタは、眩しそうに目を細めながら、空を見上げた。上空では、鳥たちが忙しなく飛び回り、視界から消えては現れるを繰り返している。フウタは、大きく深呼吸をした。人工的な光源に「造られた風」だとしても、植物は、問題なく育っている。お陰で、ここはいつでも空気がうまいんだ。フウタは、思いっきり伸びをすると、再び、大きく息を吸い込んだ。

 ここは、SDエリアと呼ばれている、ちょっと特殊な山中都市だ。何が特殊かというと、エリアのほぼ全域が、環境保護地域に指定されていた。他の山中都市は、大体、多層構造になっていて、階層を区切ることで、多くの人が住めるようになっている。上に行くほど、土地は狭くなるので、土地の値段も上がる。必然的に、お金を持つセレブたちは上の階層に住もうと躍起になる。それが、ステータスになるからだ。自然環境の再現という点では、どの階層も平等に恩恵に与れるので、階層にこだわる必要はないのだが、価値観は人それぞれだからな。そこにこだわる奴らにとっては、死活問題なんだろうと、フウタは考える。

 最高層階には山中都市を管理するための重要施設がある。当然、立ち入り禁止。一応、どの都市にも、上層階に行くためのエレベーターは設置されているが、はっきり言って、最上階に行くことは、生涯なさそうである。
 ──というのが、多くの山中都市の話だ。一方、SDエリアは、ほぼ全域が環境保護地域に指定されているため、階層がなかった。つまり、ここ、今立っている地だけということである。一層を細かい地域に分け、多種多様な動物、植物を保護、管理していた。
 そして、孤児院は、そんな保護地域の一角にあった。なんで、この地域にあるのか?という疑問の答えを聞いたこともあったかもしれない。しかし、その答えについては正直覚えていない。まぁ、聞いてみたものの、当時の俺は、大して興味もなかったということなんだろう。
そんなわけで、今、現在、ヒカリから「なんで、そんなことも知らないの?」と憐れみにも似た視線を送られているが、どうしようもないのである。

(そこってそんなに重要なところ?)

と、思わず、口に出したくもなるが、それを言ったら、なんか負けのような気がする。そんなわけで、フウタは、黙って歩き続けることにした。






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