【小説】アルカナの守り人(16) ヒカリ
「…タさん? フウタさん?」
遠くから、ヒカリの声が聞こえる。その声に、はっと我に帰るフウタ。
キョロキョロと周りを見渡してみると、辺りはすっかり、元の部屋の状態に戻っている。部屋の天井はあるし、窓も壁も本棚も元のまま、ヨウが眠るベッドも全く同じ場所だ。
今のは、現実だよな?
フウタは、左頬の濡れた感触を指で確かめるようになぞった。そして、そのまま胸に手を当てる。そして、ゆっくりと目を瞑ると、心の奥底からこみ上げてくる感覚を味わう。ああ、この満たされてるような感覚は間違いようがない。
「…すごいな。思っていた以上に…。なんて言っていいのか分からないけど…、すごく清々しい気分だ。」
「ふふっ。それは良かったわ…。」
ヒカリは、嬉しそうに微笑んだ。が、身体を少しふらつかせている。フウタは、慌ててヒカリに駆け寄った。
「お、おい、大丈夫か?」
ヒカリの身体を支えながら、近くの椅子に座らせる。
「…大丈夫よ。誰かの目の前で能力を使うことなんて滅多にないから、つい、張り切ってしまったわ。」
ヒカリは肩をすくめながら、いたずらっ子のように目を細めた。
まぁ、そうだよな。秘匿の能力だろうし。いつもは人から隠れるようにして能力を使っているのだろう。長い年月、人類を守り続けている存在なのに、それを知るのは、極少数の者だけか。感謝や賞賛されることもなく、ただ人類を守ることに生涯を捧げる…。
フウタはヒカリをしばし見つめ、そして、ベッドで眠るヨウに視線を移した。…まだ、あんなに幼いのにな。あの小さい身体は、すでに代役のきかない重責を負ってる訳だ。これから、長い長い、一生かけて続く重責。正直、その人生が本当に正しいかはわからない。太陽の能力者として人類のために生きる人生が幸せかはわからない。でも、今ある事実は、ヨウが奇病に苦しんでいること。
俺は、ヨウを奇病から救ってやりたい。
そのためには、やはり力を取り戻す必要があるだろう。
「よし! それじゃ、早速、ヨウを救うための作戦会議を始めるか!」
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