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【小説】アルカナの守り人(18) ヒカリ

 
 物心ついた時には、すでに大勢の兄弟、姉妹たちに囲まれていた。
その中でも年長者だったフウタは、兄弟、姉妹たちの世話をするのが日課だった。バタバタと忙しない日々。騒々しくて、ちっとも言うことを聞かない奴らだったけど、あれはあれで楽しい生活だった。
 そして、フウタたちの世話人は、たったの2人。一人は、フウタにとっては、姉のような存在で、もう一人は、皆のまとめ役、頼れる存在。皆からは「マザー」と呼ばれていた。昔の地球について、よく話してくれたのは、このマザーで、古代の言葉を教えてくれたのもマザーだったんだが…。

 ヒカリに尋ねられて、ふと思う。
 マザーはなぜ、古代の言葉に詳しいんだろうか。

 俺にとっては、当たり前だったからそのことを疑問にも思わなかったが、先程のヒカリの様子から察するに、古代の言葉を知っているのは、大分、特殊なことのようだ。もしかして、古代言語の研究者とか?って、そんな話は聞いたことないけどな。
 フウタは、うーんと唸りながら、無意識に顎を撫でていた。
 そして、その流れで顔を上げた時、キラキラと輝いた瞳で、こちらを真剣に見つめるヒカリと目があった。
 
 なんか、ものすごく訴えられている気がする。
 これは…、えっと、あれだよな。
 やっぱり、そういうことだよな…。

「あー、マザーに─…」
「ええ、行くわっ。」

──会いに行ってみる?
 
 口に出す機会を失った言葉が、頭の中で遅れて流れる。どうやら、聞くまでもなかったらしい。フウタの言葉は、ヒカリにあっさりと遮られる形になった。確かに、ヒカリにしてみれば、手がかりもロクにない状態だし、何かヒントでも得られれば、儲けもんだしな。

「孤児院か…。」
思わず、呟くフウタ。そして、続け様に、二人の女性の顔が浮かぶ。

…。
なんか、すごく面倒なことになりそうな予感がする。
色んな意味で。

フウタは、ヒカリに気づかれないよう、小さく溜息を吐くのだった。



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