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【小説】アルカナの守り人(20) 幕間


孤児院が近づくにつれて、森は深くなり、緑は濃くなっていく。

「よく迷わないわね。」

ヒカリが辺りを見回しながら、不意につぶやいた。

 確かに、舗装された主要な通りから逸れて、森の中に入っているので、どこも同じような景色だ。右を見ても、森。左も見ても森。似たような木々に囲まれて、太陽もどきの光源がなければ、方向さえ見失うかもしれない。そんな中、迷いなく進むのだから、不思議に思うのも無理からぬことだろう。

「ほら、あれだよ、あれ。」

 フウタは、上空、前方奥の木々の先端を指差す。つられて、見上げるヒカリ。
 よく見ると、白いモヤのようなものが見える。下から立ち上っているような…。あれは…煙? それから、時折、チカっと何かが煌めく。定期的に、光を反射しているようだ。

「あれは、孤児院の煙突から出ている煙だよ。それから、屋根にある風見鶏がさ。時々、光を反射するんだ。それを目印にしてるわけ。」

 フウタはなんでもないことだと笑う。

…そうなの?

 ある程度、建物に近づかないと光の反射なんて見えないんじゃないのかしら。 それに、風で流されたら煙の位置なんて、簡単に変わるわ。 

…本当は、もっと違う、特別な理由があるような気がするけど。

 そう考えながら、ヒカリはフウタをそっと見つめる。
 フウタはその視線に気づいているようだが、特に気にするでもなく歩き続ける。これ以上、説明する気はなさそうだ。
 
 ヒカリもその気配を察して、一旦は、フウタから視線を外す。しかし、一度考え始めたら、止まらない。

一体、どういう人なんだろう。この人と知り合ってから、なんだか、物事が動き始めた気がする。どうしてなのかな。単に運が良い人? 
それとも、何か別に ───。


「──きゃっ。」
 
 ヒカリは完全に無意識だったが、再び、フウタを凝視していたらしい。そのことに、はっと気づいたのは、何かに蹴躓いて、身体が大きく前にのめったからだ。 ああ、私ったら、全く前を見ていなかったのね。と、後悔したところでもう、遅い。後は、勢いよく地面にぶつかるだけ──。
 ヒカリは強く目を瞑って、衝撃に備えた──のだが、いつまで経っても、その瞬間はやってこない。

「全く、何やってるんだよ。ちゃんと前向いて歩かないと。」

 なぜか、フウタの声が頭上、息を感じられるほど近くから聞こえてくる。地面に倒れる寸前だったヒカリの身体は、フウタの腕に支えられて不安定ながらも、留まっていた。

「──?」

 今…、一体、何が起こったんだろう。
 
 ヒカリは困惑していた。
 私は倒れる寸前だったはずだ。地面に倒れ込むのも、時間の問題だった。   それなのに、フウタさんが、倒れる直前に、私の身体を支えたっていうの?   そんなことある? 反射神経が良いなんて問題じゃない。だって、気づいてから、手を伸ばしても間に合わないもの。

もしかして──、予知能力を持ってるとか──?

 ヒカリは、核心に迫った気がしていた──。




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