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【小説】アルカナの守り人(8) ヒカリ

 ヒカリはヨウの手を取り、自分の口元に近づけた。ホゥと息を吹きかける。
凍えた手が少しでも暖かくなるように。少しでも楽になるように。無駄なことかもしれない。しかし、やらずにはいられない。ヨウの体はどんどん冷たくなっていく。ヨウの顔色はどんどん色を失っていく。
 死ぬことはない。それは分かっている。 でも。急がなくてはならない。

「ヨウ、待っててね。必ず、必ず助けてあげるから。」

 ヒカリは、そう呟くと、そっとヨウの手を下ろした。

 
 幼い子供が犠牲になる奇病。体温がどんどん下がり始め、免疫力が落ち、顔色が鉛色になって死んでいく病。その原因をヒカリは知っていた。昔、父親が話してくれたのだ。昔の世界にあった太陽の御伽話を。

──昔、昔。この世界には、太陽がありました。
太陽は、地球上の生きとし生けるものに大きな愛を送っていました。
その愛によって、地球上の生けるものたちは、喜びに溢れ、生命力に溢れ、輝いていました。
ある日、悪い魔法使いが太陽の愛のエネルギーを盗んで行きました。
いつものように光を浴びても、生きとし生けるものたちは、輝きを失い、倒れていきました。

「…それで、それで、どうなったの?」

 ヒカリは、話の続きを促した。父親はニコニコ微笑みながら、話を続けた。

…そこに、星の力を持つ者と太陽の力を持つ者が現れました。
星の力を持つ者は、皆を浄化し、
太陽の力を持つ者は、皆に愛のエネルギーを送りました。
生きとし生けるものたちは、再び輝きを取り戻し、喜びの唄を歌いました──




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