水鈴社公式note

小さな出版社です。丁寧に本を作り、届けていきます。主な刊行物は、瀬尾まいこ『夜明けのす…

水鈴社公式note

小さな出版社です。丁寧に本を作り、届けていきます。主な刊行物は、瀬尾まいこ『夜明けのすべて』/YOASOBIと直木賞作家4名によるコラボ小説『はじめての』/夏川草介『スピノザの診察室』など。著者インタビューなどを発信します https://www.suirinsha.co.jp

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  • そんなときは書店にどうぞ

    水鈴社発・瀬尾まいこさんが書き下ろす“書店偏愛”エッセイ。

最近の記事

瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|最終回 どんなときでも書店にどうぞ

あいつとコーヒー 2023年の夏前、私は頭を抱えていた。 目の前にあるのは今まで扱ったことのない難題だ。 「何から手を付ければいいんだ」 そうつぶやきながら、どう見ても子どもにしか見えない秘書が淹れてくれたブラックコーヒーを一口飲み、ひらめいた。 「あいつを巻き込もう」と。 やつならきっとこの話に乗ってくるはずだ。 そう思い立ったとたん、現金なもので、苦悩は高揚へと変貌していた。 皆さんこんにちは。 最終回にして、いきなりの路線変更。 いったいどうしたんだ

    • あさのあつこ『アーセナルにおいでよ』刊行決定インタビュー|ここにしかない関係の中から、新しい起業が出てくる

      シリーズ累計1000万部突破の青春野球小説『バッテリー』を筆頭に、思春期の子ども達の心情を瑞々しく描き出す作風で知られるあさのあつこさん。近年は現代を生きる大人たちの内面に迫る人間ドラマや、時代小説にも力を入れてきたが、最新作『アーセナルにおいでよ』では起業する少年少女たちを主人公に据えた。本作の成り立ちや物語に込めた希望の中身について、あさのさんに話を聞いた。(取材・文 吉田大助) ──本作はまず最初にオーディオブックとして配信され、のちに紙版の書籍が刊行されるという「オ

      • 小貫信昭『いわゆる「サザン」について』刊行記念特別寄稿

        本書(『いわゆる「サザン」について』)は「サザンオールスターズ」というバンドそのものに対する、言わば長文の“ライナーノーツ”である。 意外なことに、デビュー46年を迎えた彼らなのに、その歴史を「物語」として著したものは本邦初だそうだ(“データブック“と呼ばれるものは、過去に2度ほど出版されているが)。 なぜ僕は、この本を書けたのだろうか? 理由はシンプルだ。 幸いなことに、80年代初頭より空白期間なく、彼らをずっと取材し続けて来られたからなのだ。 その際、最も長くイ

        • 瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十九回 いいねっていいよね

          「瀬尾まいこ」で検索 私はSNSをしていないのですが、人の発信を見るのは大好きで、以前は、ダジャレ社長のXを見たりXで自分の名前を検索したりしておりました。 ところが、経営者がイーロン・マスクさんに変わったからなのか、X、のぞけなくなりましたよね? こっそり見ようとしたら「さあ、みんな、ログインをしようじゃないか」というような黒い画面が出てきて、さえぎられてしまうという。 昭和生まれの私にとって、ログインは勇気がいります。 自分の情報を入れることで、健康食品とかが毎

        瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|最終回 どんなときでも書店にどうぞ

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        • そんなときは書店にどうぞ
          25本

        記事

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十八回 打ち合わせはベッドで

          おしゃれな編集者とお手洗いの謎 編集者の方って、皆さんおしゃれなんです。 ダジャレ社長も、ある時はプラダのジャケット(しかも胸元にPRADAって書いたやつ)を着、ある時は色付き眼鏡(しかも日差しなんてない日に)をし、ある時はスカジャン(しかも横浜に行く時に)を着用されたりというおしゃれぶりです。 そして、きれいな女性の方が多い。 数年以上前ですが、そのことをある編集者さんに言ったら、「ああ、まず東京に不細工っていないわねえ」とおっしゃってました。 東京って怖い場所。

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十八回 打ち合わせはベッドで

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|番外編 ミヤケッティーを着る日は目の前

          勝負服のミヤケッティーを購入 5月17日。京都の映画館で、ついにリモートではなく三宅唱監督と対面でトークショーを果たしました。 イベントを実施してくださった出町座さんのことを行く前に調べたのですが、ホームページを拝見すると、魅力的な取り組みがいろいろ。 そして読み進めると、三宅監督の似顔絵が描かれたTシャツ、略してミヤケッティーというものを販売されているではないですか。 しかも、トークショー開催前日時点でLサイズは完売。Mサイズは残り1枚。 この映画館、完全に監督の

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|番外編 ミヤケッティーを着る日は目の前

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十七回 こんな時間が続けばいいのに

          「瀬尾まいこ応援書店」で一日店長 2024年1月下旬、 M書店さんで一日店長を務めさせていただきました。 そこの書店さん、昨年から「瀬尾まいこ応援書店」になってくださっていて、入口とさらに奥に二つもの棚を使い、私の本を置いてくださっているんです。 先日夫に偵察に行かせたところ、まだ瀬尾まいこコーナーがあったというではありませんか。 ありがたい。 でも、大丈夫だろうか。 私の本など奥に引っ込めて、今なら本屋大賞関連本を大きく展開されたほうがいいのではと余計な心配をし

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十七回 こんな時間が続けばいいのに

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十六回 すべての世代は

          聞くべきは金髪の先輩の話 インターネットが普及した昨今(っていつの時代の書き出し?)、読者の方のご感想を見られる場がいくつもあり楽しいです。 あちこちのレビューが載っているサイトを盗み見ては、歓喜したりうなだれたりを繰り返しております。 「駄作中の駄作! しょうもない!」とお怒りの方も多いのですが、お金とお時間をいただいてるから、もうすみませんとしか言いようがないです。 そんなこんなでどんなご意見も一理あるよなと思うのですが、ただ1点だけ、納得がいかないことが……。

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十六回 すべての世代は

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十五回 一人で&家族総出で

          自分に勝つのは難しい どの時間帯に執筆しているのかと聞かれることがあります。 それは、ずばり人がいない時です。 子どもの頃から人がいると集中できなくて、執筆は娘が学校に、夫が仕事に行っている間にやります。 執筆場所はダイニング。 私、部屋がなく、専用の机もなく、台所の真ん前で書いてるんです。 みんなが朝食を食べ終えた机で。 あ、目から何かが出そう......。 でも、だいたい家にいることができ、「いってらっしゃい」と「おかえり」が子どもに言える仕事ってありがた

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十五回 一人で&家族総出で

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十四回 お仕事あれこれ

          好きな仕事と苦手な仕事 何も考えずひたすら物語を書いているときが一番好きな時間です。 どうなるんだろうとわくわくし、「おお、この子、そうなるんだ」「ああよかった! 幸せになれそう」と、書き進めていくのはひたすらわくわくします。 一方、苦手な仕事は、出来上がった原稿のチェック。 出版社の方が、細かくあれこれ校正を入れてくださるのですが、いつも途中でわけがわからなくなります。 この文字、3ページでは平仮名でしたが15ページでは漢字です。どちらですか? などの表記の揺れの

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十四回 お仕事あれこれ

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|番外編 ついに対談の日、来たる

          わからないと言えるって素敵 映画「夜明けのすべて」が公開になると同時に、出演者の方や監督のインタビュー記事がたくさん出ていて、私もいくつか読みました。 そして、読んでいるうちに、映画はさておき、三宅監督自身に興味が出てきた私は「夜明けのすべて」以外の監督のインタビューも新旧問わず読み始めました。 監督、最初はサッカー選手になりたくて、小学生時代、一瞬宇宙飛行士にもなりたかったそうなんです。 (だからあのプラネタリウムのシーン、あんなに素敵だったのか!) 現在のお姿か

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|番外編 ついに対談の日、来たる

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十三回 私が掬えるもの

          パニック発作とママの口癖 『掬えば手には』という作品でもプルーフを作っていただき、私史上最大数の書店員さんからのご感想をいただきました。 「この人、いつもかわいい絵添えてくれてる」とか、「こんな細かい字で書いてくれてる。ありがたい」とか、「それ、気づいてくれたんですね!!」とか。 『掬えば手には』に寄せていただいたご感想も、うれしいものがたくさんありました。 『掬えば手には』を刊行した年、大腸のポリープ手術をしたせいなのか、夏があまりに暑かったせいなのか、パニック障害

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十三回 私が掬えるもの

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十二回 極悪人はどこに?

          なぜ、なぜ、なーぜの向こう側 ここ数年、執筆をする前、編集者の方とお話をすることがあります。 「好きに書いてください」と言ってくださる方がほとんどですが(それが一番好き! みなさんそうお申し付けください)、テーマみたいなものをさりげなくいただくこともあります。 ところが、テーマどおりに書けたこと一度もないんですよね。(え……。才能なさすぎ?) 「瀬尾さんの小説、いつも若い人が出てくるので、たまにはおじさんが主役の話、書きませんか?」 その結果できたのが、『その扉をた

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十二回 極悪人はどこに?

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十一回 誰でも可愛くなれる街

          市町村別ご感想1位に輝いたのは 本になるとプルーフという作品の見本が作られることがあり、それが書店さんに配布され、読んでくださった書店員さんが本の注文書にご感想を書いてくださいます。 (あれ、どえらいシステムですよね。ただ注文したいだけなのに、どうして感想書く欄が。私やったらじゃあ注文せんとこうってなってしまいそうです) でも、そのご感想、読むのは大好きで、出版社の方が送ってくださる時は(いつも全部送ってほしいなーとここで出版社の方々にアピール)何度も読んでるんです。

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十一回 誰でも可愛くなれる街

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十回 もしも私が泳げていたら

          小さな秘書さん 文庫『夜明けのすべて』のPOPをもって伺う書店巡りも、数回目になりました。 このころから、一緒に行く時には、娘は書店さんに「私は秘書です。あ、こちらが水鈴社の営業で社員の瀬尾さんです」と私を紹介するようになりました。 私、有能なんか、下っ端なんかようわからん立場やな。 娘、写真が好きで、書店員さんとの写真に入りたがるんですよね。(被害に遭われた書店員さん、すみません) 「え、なんであんたまで写るん?」と言うことなく、皆さん「いいよ、一緒に撮ろう!」と

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十回 もしも私が泳げていたら

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第九回 書店巡りの強い味方

          敏腕営業のフリ作戦! 書店巡り。昨年の9月下旬には、大阪、兵庫へと向かいました。 実はこの書店訪問から、私、夏川草介さんの『スピノザの診察室』のプルーフ(書店さん配布用の見本)をお配りしてたんです。 夏川草介さんの刊行に向けてのお言葉を読んで胸を打たれ、人の生き死にを前にした人しか書けないものって絶対あるし、それをここまで穏やかに真摯に見つめてる人っているだろうか。 と感動し、水鈴社の社長(あのダジャレの人)に無理を言って宣伝させていただくことにしました。 私が書店

          瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第九回 書店巡りの強い味方