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瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十四回 お仕事あれこれ

作家になると「小説を書くこと」以外にもさまざまなお仕事が舞い込んできます。
瀬尾さんのもとにオファーが来た「Z-1グランプリの審査員」とは一体……!?

好きな仕事と苦手な仕事

何も考えずひたすら物語を書いているときが一番好きな時間です。

どうなるんだろうとわくわくし、「おお、この子、そうなるんだ」「ああよかった! 幸せになれそう」と、書き進めていくのはひたすらわくわくします。

一方、苦手な仕事は、出来上がった原稿のチェック。

出版社の方が、細かくあれこれ校正を入れてくださるのですが、いつも途中でわけがわからなくなります。

この文字、3ページでは平仮名でしたが15ページでは漢字です。どちらですか? などの表記の揺れの指摘が一番多く、これが厄介で。

平仮名のほうがしっくりくるか、いや、漢字じゃないと読みにくいか。と最初は真剣に考えてるのですが、そのうち頭が痛くなってきます。

でも、校正のおかげで、これ、関西弁だったんだと知った言葉がたくさんあります。

「食器をなおす」「髪の毛をくくる」とか、方言なんですね。

勉強になります。


執筆と関係ない仕事で苦手なのは、取材です。

毎回うまく答えられなくて、記者の方にご迷惑ばかりかけてしまいます。

難しいことを聞かれると、「さあ、えっと、どうでしたっけ......」ってなるんですよね。

勢いで物語が進んでいく感じで書いていて、事細かに考えていないのが正直なところで。

(よくいう登場人物が勝手に動きだすってやつです。ってうそです。そこまで芸術的な感じではなく、どうなるんやろうこの話。こうなったらなーって書いてるだけなんです。)

まず、一番に聞かれる定番の質問。

「この作品を書いたきっかけは何か」

これが難問なんです。

きっかけ???

書店さんで取ろうとした本に手と手が重なり合って、気づいたら書き始めてました。

みたいなこと起きるわけもなく、パソコンの前に座って、あ、そろそろ締め切りだな。よし、やるぞ! と書いてるだけなので、きっかけというのは、正直ないんですよね。

そんなこんなで、いつも「ほんまにこいつ自分で書いてるんか?」と思われやしないかとひやひやしながら、答えています。

そして、さらに嫌なのが写真撮影。

できれば顔とか隠しておきたいのに、だいたい取材後写真撮影があるんです。

だから、撮ってくださった後、冗談で「有村架純に顔かえといてください」っていうんですけど、ある時、「え? 有村架純さん、ですか?」 とインタビュアーさんから聞き返されたことがありました。

「どういうことですか? 似ていらっしゃるということですか?」と詰められ、「いえ」と戸惑う私。

「どちらかというと顔の系統違いますよね」と真顔で驚かれたことがありました。

わかってます。全然似てないです。ただの憧れです。あの顔だったらなと思っただけで 、二度と言いません。いや、今でも毎回言うてるんですけどね。

ほんで、今の加工技術やったら、私の顔もう少しなんとかできるんじゃないでしょうか。

そろそろ本気を出して、 現在のあらゆる技術を駆使してから、表に出してください。


おもしろかった依頼は、Z-1グランプリの審査員のお仕事です。

Z-1。なんだと思いますか?

なんと、雑煮の1位を決める大会だそうです。

餅って審査するほどの量、食べられる?

それに、どうして私に餅のイメージが?

地域の公民館の素朴な大会なんかなと要項を拝読すると、私以外の審査員の方は私でも知っている料理人の方。

いや、おかしいでしょう。

プロの料理人の横で、料理上手でもない上に、有村架純に似ても似つかないとぼけたおばさんが座って餅食べて感想言っていたら、「あの人だれ」って騒動なるわ。

通りすがりの人が壇上で食べだしたってつまみだされるわ。

ありがたいお仕事でしたが、もちろんお断りしました。

基本、私は審査できる器ではないですし、それは餅に対しても同じ思いです。


人生の先輩、書店員さんとのお弁当タイム

イレギュラーなお仕事の中で、楽しかったのは、書店員さんとお弁当を食べたことです。

本屋大賞受賞後、書店員さんと交流するイベントがあり、関西の書店員さんと奈良の古民家で、それぞれお弁当を持ち寄って食べるという企画がありました。

実は読書家ではない私は、本の話をされたらどうしようとドキドキしていましたが、書店員さんと話したのは子育てのことが多かったような気がします。

みなさんがおっしゃるのは、どんな時でも、子どもの味方でいてあげたらいいんだよねってこと。

それ、私が担任していた生徒のお母さんたちが、母親になった私によく言ってくださる言葉と同じなんです。

書店員さんにも言われ、再認識しました。

本当そうなんですよね。

どんな自分でいる時も、絶対的に受け止めてくれる人がいるって、子どもにとって大きな自信になるんですよね。

今朝も、片付けしない娘にだらしな王国(だらしない王様が統治する不潔な国が遠い宇宙にあると娘に言っているんです。本気で信じる娘、現在小学4年生。片付けができないことより、そっちのほうが心配やわ)に連れて行くからなと怒鳴り散らしたけど、えっと、私はいつだって娘の味方です......。

もちろん、最近の面白い本のこともお聞きし(書店員さんって、本のあらすじ伝えるのお上手ですよね。うまく結末濁すあたりさすが。うわ、買いたい! ってさっそくなりました)、皆さんの旦那さんやご家族の写真を拝見し(皆さん幸せそう〜。うちの旦那は顔濃すぎて見せられへんかったわ)、解散となりました。

書店員さん、私の何倍も本を読んでおられるし、それだけでなく、実は人生の先輩である方も多いんですよね。

だから、教えていただくことたくさんです。

ただ、書店員さんはみなさんご器用だから持ち寄ったお弁当がかわいくて素敵で、私の不器用さが際立つことに。

私、オムライス作っていったんですが、褒めるところがないセンスのないお弁当に、「ケチャップがおいしいです」と慰めていただきました。

お気遣いすみません。

ケチャップ、アレンジなしでそのまま使ったので、デルモンテさんの仕事です。

また、書店員さんとおしゃべりできるようなお仕事があるといいな。

私のみ手作りの持ち寄りなしでやりたいです。

やはり書店大好き瀬尾さんが楽しみなお仕事は、書店員さんとの交流なんですね!
頼りになる書店員さんがいると、書店に行くのが楽しくなりそうです。
次回は4月11日(木)21時更新です!


瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。

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