瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十一回 誰でも可愛くなれる街
市町村別ご感想1位に輝いたのは
本になるとプルーフという作品の見本が作られることがあり、それが書店さんに配布され、読んでくださった書店員さんが本の注文書にご感想を書いてくださいます。
(あれ、どえらいシステムですよね。ただ注文したいだけなのに、どうして感想書く欄が。私やったらじゃあ注文せんとこうってなってしまいそうです)
でも、そのご感想、読むのは大好きで、出版社の方が送ってくださる時は(いつも全部送ってほしいなーとここで出版社の方々にアピール)何度も読んでるんです。
そして、なぜか名古屋の書店さん、たくさんご感想くださるんです。
たぶん、市町村別ご感想1位です。
この人、感想読みまくっているうえに、もらった感想、まさか都道府県別にまとめてるん? と震えられたことでしょう。
ええ。まとめてますよ。
それで、何回も取り出して感想読むんです。
それが何か?
といっても、都道府県別にまとめているのは、この県の書店さん感想少ないな、もう少しプッシュやとか思っているわけじゃなく、出かけた時に、お近くにご挨拶できる書店さんはないかと見ているだけなんです。
って、いつ勝手に来られるかわからないって、そっちのほうが怖いですね。
そんなこんなで、名古屋に行けばご感想をくださる書店員さんに会えると、常々思っていました。
そして、名古屋はカルカン先輩の担当地区でもあるんですよね。
ちょうど1年くらい前、カルカン先輩から、「名古屋担当になりましたー」とメールをいただいており、名古屋の書店さんならカルカン先輩と回れるとはりきっていたのです。
その旨、カルカン先輩にメールでお伝えしたところ、名古屋を1年で離れ、九州の担当になったというではありませんか。
カルカン先輩いわく、名古屋の名物ウイロウを食べつくしたので、九州担当になられたそうです。
そして、現在は九州で名菓カルカンを食べまくっているという話。
あ、ここで、カルカン先輩というあだ名の由来が!
張り巡らされた伏線が今、回収されました。(伏線の意味、私、わかってへんな)
営業って名物を食べるのが仕事だったとは、今まで知りませんでした。
九州の書店のみなさん、休憩室にお菓子などありましたら、カルカン先輩に食べられないよう鍵の付いた引き出しにしまっておいてください。
かわいくなれる名古屋マジック
そんなこんなで、名古屋には秘書(娘)と運転手(夫)を連れ、行くことになりました。(ただの家族旅行やないか)
名古屋の書店さん熱いですよね。
突然訪れたのに、「本読んでますよ!」などと応援してくださる方が多く、うれしかったです。
テンポがいい朗らかな店員さんや穏やかな店員さん。
新しさと懐かしさが入り混じる空気が心地よかったです。
ある書店さんでは、私と同じ年齢の方がおきれいだったんで、驚いていたところ、化粧下地が資生堂だと教えていただきました。
私も変えてみましたけど、一向にきれいになっていません。どうしたらいいでしょうか?
ある書店さんでは、棚に置かれていた他の本をどかっとのけ、私の本を真ん中に置いてくださいました。
すごいサービス。
あたかも私の本、売れているかのようじゃないですか!
娘が「この本書いた人怒らないの?」と聞いたら、「怒らないよ。優しい人だから。会ったことないけど」とおっしゃってました。
うん。会ったことない人ってみんな優しいですよね。
あと、色紙を書かせていただけることも多かったのですが、そこにサインだけでなく、なぜか娘に絵を描かせてくださる書店さんもあったんです。
すごい大サービス。
いっぱいマジック使わせてもらって、娘、大喜びでした。
そして、名古屋にはかわいい反応をしてくださる店員さんも。
「本物!!」と私ごときを見て言ってくださる方とか、「写真一緒に撮ってください」と言ってくださる方もいました。
私のような小汚い田舎者にすみません。
いや、自分で気づいてなかっただけで、名古屋に行ったとき、奇跡的に気候とか湿度の関係でかわいくなってたんかな。
ただ、名古屋、広くて途中迷いまくりました。
迷子になった私は、タクシーを拾い、書店名を告げると、「わからん。でも、聞いたことありそうな気がするから、勘で行くしかない」と運転手さん。
え? 最近乗ってなかったけど、令和のタクシーってそんな仕組み?
私の目の前に見えてるん、ナビじゃないの?
でも、太っ腹なのが、「俺が迷ってるだけやから、書店見つかるまでメーター切っとくわ」と言ってくださるではないですか。
書店さんは無事見つかり(やっぱりナビより勘のほうが早いですね)、その後、次の書店さんまで送ってくださいました。
名古屋は12店にお邪魔させていただけたのですが、それでもまだまだ行きたい書店さんたくさんあったんです。
だけど、電車、タクシーを駆使しても二日で回り切れず、断念。
最後に書店員さんにお勧めいただいたぴよりん(ケーキのほうは奈良まで崩さずに持って帰る自信がなかったので)のキーホルダーを購入し、帰途につきました。
名古屋再訪したいです。
少しでもかわいく見えるため、気候と湿度の関係を綿密に計算して、絶好の日に伺えたらと思っております。
瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。