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#149酒蔵を訪ねて-伝統的技術を引き継ぐ酒造業

 今回は少し日本酒にまつわる話を紹介します。
 著者が主催する古文書の勉強会の昨年の忘年会で、参加者の方からの差し入れとして、神戸酒心館(神戸市灘区御影塚町)の「福寿」の原酒をいただく機会がありました。

 この福寿という日本酒は、二〇一二年にノーベル医学生理学賞を山中伸弥氏が受賞されたときの晩餐会に供されたとして、「ノーベル賞の酒」ということで当時話題になりました。
 今回著者はこの福寿を初めて飲みましたが、実は著者に縁のある日本酒で、かねがね飲んでみたい、酒蔵を訪ねてみたいと思っていた日本酒でした。というのも、この神戸酒心館の建物の表門が、著者が研究している大阪府で最初の貴族院多額納税者議員の久保田真吾の屋敷の門を移築したものだからです。
 まだ酒心館へは訪問できていませんので、ぜひ訪問を期したいと思いますが、今回は別な酒造業者へ著者が訪問した際のお話をご紹介します。

 二〇二四年に入って、友人、先輩にちょっと贈り物をしようと思い、亀岡市にある関酒造を訪ねました。こちらは以前、とある縁で酒蔵見学をさせてもらったことがありました。関酒造は明治初年に開業した酒造業者で、「古春」という銘柄を製造しています。
 亀岡市には大本教の本山がありますが、大本教第三代教主・出口直日(でぐち・なおひ)が本山にある花明山植物園で発見された桜の新種を「木の花桜(このはなさくら)」と命名しています。関酒造は大本教本山へも日本酒を奉納している縁から「木の花桜」にあやかって「この花桜」という銘酒を製造しているということを先代の奥様にお話をうかがったことがあります。

昔ながらの面影を残す表構え。
「清酒醸造業席源吉商店」と看板にあります。

 著者はたまたま縁があって、関酒造を二〇年ほど前に見学したことがあります。こちらの酒蔵は、昔ながらの絞り方である、大きな木でできた櫓と万力のようなものを用いる「槽搾り(ふねしぼり)」という方法を用いて製造しています。他の酒造業者も訪ねたことがあるのですが、大きな酒造業者では、効率を重視して、大きなアコーディオンのようなものを用いる「ヤブタ式」という方法で機械の力を用いて圧搾する方法で日本酒を絞っている所が多いです。ヤブタ式は非常に絞る効率が良いため、とことんまで絞ることが出来るのですが、その反面、とことんまで絞ることで、恐らく雑味なども含めて絞ってしまうのでしょう。著者は、製造しているところのそばを通った際に、えぐみのあるにおいが漂ってという経験をしたことがありました。それに比べると槽搾りはおもりの重さで自然な圧力で絞るため、酒蔵の近くを通った際には甘みのあるいい香りがしてきます。関酒造もまさにその通りで、作業されている所を見学した際には、非常に日本酒の甘いいい香りがしてきました。また、絞り終わった後の酒粕も芳醇な味わいのものが残ります。

暖簾をくぐると、三和土の店舗に。
店舗の壁には「古春」の木札が。
関酒造で販売しているのは、「古春」と「この花桜」の2種類。時期によっては原酒も販売しています。
「古春」のラベルの額装

 著者は関酒造を見学してから、その製造方法と味に魅了されてこちらの酒蔵のファンになりました。以前は先代の奥様が居られて、購入に行った際には昔のお話を色々とうかがっていたのですが、一〇年ほど前にお亡くなりになられてしまい、残念ながら著者のその恒例行事も途絶えてしましました。
 今年も二月に入ると新酒を絞るとのことでしたので、ぜひ原酒と酒粕を手に入れに伺いたいと思っています。
 このような江戸時代同様の製造方法を取っているため、大量生産に向かないという欠点もありますが、消費者のわがままとは思いますが、ぜひともこのままの製造方法を維持していっていただければと思ってしまいます。
 味の好みもあるかと思いますが、もし機会があれば、この酒蔵を訪ねて購入してみてはいかがでしょうか。

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