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ダンスムービーは、美味しい食材を塩だけで味わってもらうようなもの。

どうも、SUGOIの代表・広報の秋葉です。
今日はSUGOIの制作の事について話をさせてください!

SUGOIでは今、ダンサーやボーカリストとして第一線で活動されている西野名菜さんと、「歌って踊ってみた」という企画でダンスムービーを定期的に作っています。
もう3本目の制作に入ってますが、初回はこちら、米津玄師さんの「感電」の”歌って踊ってみた”動画でした。

第2弾は、YOASOBIの「夜に駆ける」の”歌って踊ってみた”動画でした。

SUGOIは設立から10年を振り返っても、結構ダンサーの方であったり、ダンスムービーと関わる機会が多いんですよね。

プロジェクションマッピングが流行りだし、ステージの映像を作るようになった頃は、ダンサーの方々と海外のショーにいくつも参加したことがある。遠くはロシアまで行きましたね。

SUGOIが制作したプロジェクションマッピングライブ作品「mushin」

普通のコマーシャルの撮影でも、ダンサーの方とご一緒することが多かった。私自身がフリーランスだった時も含めると、さらに増えるかなと思います。他の会社と比べると、かなり多いのかなと思います。

乃木坂46の堀未央奈さんともこんな作品を作っています。

別に自分がダンスに関係してきたことはないんですけどね。(全く踊れません!)
不思議ですが、でもダンサーの方と接すると、その身体能力に驚き、憧れを感じ、色々なアイディアが湧き出ることで、その熱気を制作物に込められることは確かです。

では、こんなにダンスと縁が深くなった自分が、どんな風にダンスムービーを捉え、これまで作ってきたのか、ということについて、今回は話してみたいと思います。

●テクニカル志向だった、その昔

振り返ってみると、過去と今の自分では、ダンスムービーというものの捉え方やその作り方が、かなり変化しているんですよね。

昔は割と、ギミックを使ったテクニカルな映像の見せ方をしていたと思います。撮影の時はカットを割り、素材を細かく撮り、編集もあの手この手を尽くして仕上げていくという、かなりテクニカルなタイプの制作をしていました。

理由としては、自分が若かったというのがまずありますね。
いっぱい手をかけたい、色んなことを一つの作品に盛り込みたい、という気持ちがあったと思います。

それに時代の空気もそれを求めていた感がある。
昔はよく参考資料を探していました、海外のクリエイターがやっているものをネットで探して参考にし、解析し、要素だけ真似してみるという。
これでもか、と情報量を入れていくような映像を世間が求めている感じもあり、自分も割と得意だったために、ギミックやテクニックに寄った制作を当然のようにしていました。

また、関わる人たちとの情報共有方法が熟していなかった、というのもある。
制作を始める前に企画を行うのですが、その企画の時点でどんな映像が出来上がるのかというイメージ共有が必要になります。そのためにコンテを作らなきゃならなかったり、文字や言葉を尽くして説明しなきゃならない。

そこでわかりやすく良いものになるぞという期待感を制作メンバーに共有するために、ギミックを入れるということが多かった気がします。
なるほど、このギミックが入ったら面白そうだなんて言った風に・・・。

ワンカットで、ダンサーと撮影陣の力を信じて、現場でのセッションで、なんてことは、コンテ優先のやり方ではなかなか通用しなかったりするんですよね。この場合のコンテって、コンテ映えしないからです。

そういう制限は、昔の方が強かったように思います。

●素材の力を最大限に引き出す、今のやり方

そういう時期を経て、今はどうなのかといえば、かなりシンプルな、素材の良さをそのまま生かす作り方になっていると思います。

ダンサーの内側から湧き出るもの、そういう強いパワーを、あの手のこの手ではなく一本の手法に絞っただけでも伝わるよう、意識しながら作っています。

時代的にもそうなってきていますよね。
音楽でもファーストテイク動画が流行っていたりするし、K-POPアイドルのPVだって、作り込んだPVそのものよりも派生で作られたプラクティス・バーションの方が魅力が伝わってきたりする。

みんな、素材の良さ、素材の持つ力そのものを感じたいんですよね。


でもこの流れって、テクニカルだった時代よりも逆の、もっと本質的な難しさに直面する流れでもある。

つまり、力のある素材からちゃんと引き出せるかどうか、という真剣勝負になってくるわけです。

料理でもそうですよね。素材そのものが美味しければ、いろいろ手をかけて調理したり調味料を加えなくても、塩だけで美味しかったりする。

無い良さを引っ張り出せるわけがないんですよね。
だから素材の良さが必須条件になってくるし、それをどう引き出すかというアイディアが、今の時代には必要なんです。

それでいうと、西野名菜さんという素材(と言ったら失礼かもしれませんが)は、本当に質が高い方なのです。
歌も素晴らしいし、身体能力の高さ、しなやかさがあり、しかもテーマやロケーションに沿って自由に振り付けをすることもできる、本当に才能豊かな方アーティストだと思う。
その部分を、どうやって無駄な装飾なく出すことができるかというのが、今の自分の心境だったりするんです。

●素材力を引き出す方法、それは「演出しない」

西野名菜さんというパフォーマーの魅力を言葉にしてみると、最初にこのプロジェクトに取り組み始めた時に、すごく「力強さ」を感じたんですよね。

西野さんはとてもギャップのある方で、日常で接するオフの時はすごくソフトな方なんです。
結構とぼけたところがあり、よくドジをしてしまう。
打ち合わせをすると、なぜか必ず電車の反対方面に乗ってしまったり、乗り換えを間違えたりして謝りながら登場するという、いつもそういうとぼけた感じがある方なんです。

でもひとたびパフォーマンスが始まれば、ものすごく力強く堂々としていて、そこが大きなギャップで魅力的だな、といつも思うんです。

なので自分が心がけているのは、敢えて「演出を行わないこと」ですね。

今までの映像制作現場は「監督」という立場を置いて、全体のディレクション、つまりこっちの方向に進もう、という指図をしていたわけです。
ですが、今ティールな映像制作を実験的に試みてるSUGOIでは、そういった演出家、監督の存在を置かないようにしている。
みんなでアイディアを出し合い、一つになって、全体をイメージしていこうという現場なんです。
そうすると、スタッフであれパフォーマーであれ、現場に参加するメンバー全員の満足度が異常に高くなるんです。

そのやり方や真意については、以前記事にも書いてみました。

そんなわけなので、今回も特に細かく演出したりはしていないんです。

米津玄師さんの「感電」が初回のテーマ曲でしたが、この曲は男性の歌で、歌詞もサウンドも男っぽい。
けれど、だからといって「力強さを出していきましょう」とは言葉で敢えて伝えていなかった。西野さん自身から湧き出てきた内面がもの凄く力強かっただけなのでした。

言うのは簡単なんですが、そんなことは音楽を聴いた時点で、プロである西野さんにはわかってるわけですよね。
それを敢えて言うというのは、お互いプロの意識を持って関わる中で、すごく野暮なことのように思うんです。
そういう野暮はやめましょう、という意識が、実は打ち合わせをしている時点で既にあるのが、この現場の特徴だと思います。

どうしても「こうしましょう」って、監督的なことを言いたくなっちゃうんですよね。特に仕事の現場では尚更そうで。
だけれどこれは実験の場なので、敢えて言わないようにしている。
それによって上手くいってるところがあると思います。

西野さんは、自身で考え解釈した形で、自分の素材の良さをそのまま良い形で表現してくれている。
それを映像として捉えた時に写ったのが、彼女自身の強さ、しなやかさというものだった。
すごく真剣にこのプロジェクト、そして物作りに向き合っている熱が、そのまましっかり伝わってきているということなんだと思います。

西野さんとの間には、企画の回数を重ねることでコミュニケーションが増え、距離が近くなってはいますが、なあなあな感じというのは全く無く、適度に良い緊張感というのがずっと維持されています。

そいういうものが画面に出て、しっかりと観ている方々に伝わってくれたらいいなと思っています。