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【#1】飛ばされたビニール袋

今年もまた春が来る。

春は苦手だ。
それは私が花粉症というだけではない。



出会いと別れの季節、春。
幼い頃から春が来る度に今の友達と一生会えなくなるのではないかと絶望していた。実際には仲の良い幼馴染とは全然会っているし、今の時代、それほど仲良くなかった人でさえSNSで近況を知ることができる。



きっと幼い頃に両親が離婚したことで『いつも一緒にいた人がある日を境に2度と会えなくなることがある』と学んだからだろう。
トラウマ、ともいうかもしれない。
大人になるにつれ、すべての人と完全に会わなくなる訳ではないとわかってからもずっと、『別れ』も『春』も苦手だった。




小学校の教師になり7年が経つ。 
在学中どんなに慕ってくれていても卒業後数年も経てばもう年賀状すら届かない。それでいいのだ。教師は教育者であり、友達ではない。
子供たちの学習と成長の手助けを一定期間した後にまた次のステージへ送り出す、そういう仕事なのだ。



最初に受け持った6年生が成長し、いつか同窓会に呼ばれるのを楽しみに毎年児童を送り出してはまた迎える。成長の喜びと寂しさが天秤で揺れる、それが教師になってからの春だ。




今年もそうなるはずだった。
教師になって2回目の6年生を担当している。今のクラスは5年生からだから尚更思い入れが強くなるだろう。寂しいな、泣いてしまったらどうしようと危惧していた、けれど。




不思議と心は落ち着いていた。もしかしたら1番心が穏やかな春を迎えられるかもしれない。それでもその日が来ればやはり寂しさに襲われるのだろうか。わからないまま淡々と準備を進めている。




先の事はまだ決めていない。
旅行にでも行こうか。行きたい場所があるわけでもないが、誰も自分の事を知らない土地で美味しいものでも食べよう。南の方で、海が見えると尚良い。楽しそうな事を思い浮かべてみても心が踊らないのは罪悪感からか、後ろめたさからか。

一体何に対して?
私は何も悪いことはしていない。
そう、何も悪いことはしていないのだ。なのにどうしてこうなったのだろう。答えの出ない問いは、風に飛ばされ木に引っかかったビニール袋のようにずっとガサガサと胸を鳴らす。



悶々としているうちに日々は過ぎ、気付けば卒業式は1ヶ月後に迫っていた。



1ヶ月後、今の6年生と共に私も教師という職から卒業する。



             【#2】へ続く


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