2023ファジアーノ岡山にフォーカス25『 試合から探る課題の本質~前半(全半)~ 』J2 第15節(H)vs大宮アルディージャ
本稿では、現状の岡山をいつも以上に深く、厳しく言及していきたい。選手起用を含めて、なぜ岡山は勝利することができないのか?その「なぜ?」を、筆者視点で、大宮戦からより鮮明に浮かび上がった本質的問題に迫っていきたい。
1、PKが決まっていれば100点の前半~最大値(細大値)~
筆者的に、前半の岡山の戦い方は、PKが決まっていれば、今季で最も良かった前半であったと感じている。
では、上記の点を一つずつ簡単ではあるが、説明していきたい。
1-①【大宮のプレスの形を作らせない速い判断のロングパスの選択】
岡山が勝ち切れない理由として、後方での無理なビルドアップがあった。岡山のCBの選手の特徴を考えた時に、パス交換を繰り返して、前にゆっくり運ぶ、もしくは素早く縦にいれて行くというスタイルは難しいコンビだ。
どちらかと言えば、フィジカルの強さを活かした速くて正確なロングフィードが得意であるのが5柳 育崇と23ヨルディ・バイスである。
16河野 諒祐も正確な右足で、得点に絡むタイプであり、正確に止める蹴るができるタイプでもなく、パス交換が得意な選手でもない。
この3選手が、無理に繋ごうとすれば、インターセプトからのショートカウンターの餌食になるリスクが非常に高い。
言い方を替えれば、ハイプレスに対して、そこをいなすプレーが得意ではなく、奪われた後にスピードがないので、再奪取や攻撃を遅らせる事が難しく、シュートまで行かれる可能性が高い。
唯一2高木 友也は、細かいパス交換をするタイプではないもののドリブルが得意で、プレスを掻い潜ることも可能である。そのため前半から持ち上がっての14田中 雄大との連係プレーで、左サイドを攻略して、クロスまでいく事ができていた。
秋田戦や大宮戦では、プレスの気配を察知するや否やプレスや寄せとして成立する前に、ロングパスを選択するという事が、徹底できていた。
1-②【中盤が流動的に動く事で攻守で厚みを作る事ができた】
岡山が良かった二つ目のポイントとして、中盤が守備にも攻撃にも人数をかけることで、攻守両面で、数的優位の状況を作りだすことができていた点。
これは、中盤の構成が、左SHに14田中 雄大、右SHに27河井 陽介、DHに6輪笠 祐士、44仙波 大志であったが、中盤の選手らしく、攻撃でも守備でもプレーの選択の幅が広いことが彼らの武器である点が大きい。この武器により、攻撃の場面にも守備の場面にも顔をだすことが可能であったからだ。
そして、局面を有利にする手段として、最も有効であるのは、局面での自チームでの選手の人数が多く、相手選手の人数が少ない状況を作る事が、シンプルな方法だが、この試合の前半でも主導権を握るという点で、岡山の時間帯を作る事に繋がった。
1-③【後からのビルドアップの選択肢を限定させることができた】
1-②の延長であり、具体的例の1つとなるが、前に人数をかけることができたことで、パスコースの限定から寄せて行くということができた。
この結果、高い位置でボールを奪うことができて、相手陣地でプレーする時間帯を長くすることができ、持続的な攻撃を実現し、前半は、大宮のシュートを終了間際の1本に抑える事ができた。
特に、大宮の選手は、パスを繋ぐことで、少しずつ前に運ぶという意識が高かったこともあり、より岡山の優位性を後押しすることとなった。
1-④【距離感が良くロングパスの毀れ球を回収することが多かった】
これも1-①と②の延長だが、攻撃において、ロングパスを中心した攻撃と中盤に厚みを作る事ができたことで、相手陣地でのセカンドボールの回収する回数が多かった。
その結果、やはり④の理由でも、相手陣地でプレーする時間帯が長く、確保することができた。
18櫻川 ソロモンの高さや強さ、7チアゴ・アウベスのスピードや裏への抜け出し。この選手の特徴を活かすには、やはりロングパス。そこに対して、セカンドボールをしっかり回収する。
シンプルではあるが、やはり効果的であった。改めて、この形をどう作るかは、一つのポイントとなりそうだ。
1-⑤【苦し紛れのロングパスを跳ね返すことができた】
①~④を実行した結果、大宮のとりうる選択肢として、ロングパスの割合がどうしても増えてくる。
そのロングパスを23ヨルディ・バイスや5柳 育崇で、しっかり跳ね返すことで、大宮の選手の岡山の陣地でプレーする時間や機会を制限することができた。
岡山は、やはり前を向く守備が得意であるチームであり、シンプルに高さで、勝負するという相手のパスに対しては、簡単に負けない。
この守備の形をシンプルに増やす事で、岡山らしい戦い方ができたと言える。
1-⑥【上記の結果、修正が入るまで大宮に攻め手を与えなかった】
大宮陣地でプレーする時間帯や機会、数的同数や優位を実現する戦いができた(大宮と噛み合わせが良かった)ことで、前半は、ほぼ岡山の時間帯と言っても良かった。
逆に、大宮の「前に運ぶ手段」と「岡山陣地でプレーする機会」を制限できた。
個人的に、繋ぐ事も大事であるが、繋ぐためには、そのプレーに適した選手を獲得することや起用することが必要で、5柳 育崇や23ヨルディ・バイスのCBコンビで戦うことを選択肢、18櫻川 ソロモンや7チアゴ・アウベスの武器を活かすためにも、ロングパスを主体とすることは、間違っていない。
選手編成には、選手編成があった組み合わせがあり、選手の編成や試合のメンバーに応じた戦いかたが求められる。
そういった意味で、戦い方の選択、内容とともに100点満点に近い戦い方ができたが、PKを決める事ができなかったことで、総合的に考えると、減点となるが、それでも筆者的には、理想的な戦い方であった。
ただ、その理想的なサッカーで戦い、理想的な内容であったにも関わらず、PKを止められたとはいえ、0-0で、前半を終えてしまった。
これが、今季の岡山の勝ち切れない原因である。
岡山の前半の内容や結果の最大値が、細大値(最大値が低いこと、細々としている最大値という比喩表現としての筆者の造語での表現)になっていることが、岡山が勝ち切れない問題である。
それこそ、清水を例に出すと分かり易いが、清水の監督が秋葉 忠宏監督に交代したことにより、チームとしての最大値が、飛躍的に上がったことで、理想的な内容の試合ができれば、相手チームを内容でもスコアでも圧倒できるようになった。
岡山で置き換えると、どうだろうか?開幕戦の磐田戦や金沢戦こそ得点を多く決める事ができたが、そういったサッカーができた試合は、限定的でほぼない。
この試合の前半にしても、これだけやりたいサッカーをしたのだから、1-0どころか、2-0にするぐらいの強さがなければ、「頂」に届かない。
「最大値」が「細大値」である内は、ロースコアの試合が続いてしまう。厳しいが、これが現実だ。
2、主導権を握る攻防~明暗(迷安)~
後半に入ると、大宮が修正をしてきた。もしくは、攻撃的に出てきたのか、パスの質が明らかに変わった。
前半の大宮は、1章で触れた通り、後で繋ぐパスの選択肢や苦し紛れのロングパスが多かった。しかし、後半の大宮は、ロングパスの割合が増えただけではなく、「正直なロングパス」から「怪しいロングパス」へと変わっていた。
「正直」と「怪しい」の表現の説明をすると、「正直なロングパス」は、シンプルに前線のターゲットに当てて行くというロングパスである。一方で、「怪しいロングパス」は、人ではなく、スペースへ緩いロングパスを出すように変化していた。
この変化が、どういったプレーの変化が、生じるかといると、「正直なロングパス」であれば、シンプルに「空中戦での攻防」となるが、「怪しいロングパス」であれば、スペースに走る、そこでの競り合いといった守り方に変化する。
1章でも少し触れたが、岡山は、(岡山のゴールを後にして)前を向く守備は得意でも(大宮のゴールに向かって)後を向く守備は、不得意な選手編成になっている。
この結果、大宮の岡山陣地でプレーすることを許してしまう要因の一つとなった。その結果、中盤での優位性や前からプレスをかけるシーンも減ることに繋がった。
そのため、岡山の重心は、必然的に後に重たくなった。ただ、それでも「優位」から「やや優勢」もしくは「互角」という見立ててではあったが、物事には、良し悪しがあって、明暗くっきりとでも表現しようか、迷安(明暗の対義語の熟語を意識して、「迷って+危険」のニュアンスで「安全」という構図の造語)くっきりと表現しようか。
良かった点(内容・選手・プレー)と悪かった点(内容・選手・プレー)が、はっきりしていたのが、後半であった。
まずは、悪かった点だが、16河野 諒祐のプレーだ。この試合に限れば、「右SB」としては、限界ではないか。
アシストがこれだけ記録できないのであれば、16河野 諒祐を右サイドで、起用し続けるのは、正直リスキーでしかない。
多くの方が感じられていると思うが、まずは、守備時のプレーの選択や自陣での攻撃のプレーの選択が「安全な選択」ではなく、「〇か×」になっている点だ。DFにおいて、ミスの一つが、致命的なミスとなり、批判の的になることがあるが、そういったプレーを多くのシーンで、選択してしまっている点にあるのが、彼の修正不可の弱点に感じる。
彼が、SBやWBとして輝いていたことを、言葉で表現するならば、彼が「スナイパー(暗殺者・忍者も近い)」に成れていたからだ。
右SBであるが、守備機会を必要を最低限にして、攻撃に時にスペースに走り込んで受けて、クロスまでいったり、高い位置でのパス交換や布け下でクロスまで行く。そして、そのクロスが高精度であることで、アシスト。つまり得点に繋がっていたから、彼の悪い点が目立たず、良い点が目立っていた。
しかし、チームとしての重心が、一転して後になってしまうと、どうしても守備機会が増えてしまうだけではなく、抜くか通すかの前線でのプレーではなく、絶対にパスを繋がないといけない場面や絶対に抜かれてはいけない場面で、「通らなくても良い・抜かれても良い(と映ってしまう)プレー」を選択しがちな16河野 諒祐の悪い面のスペシャルコースみたいな感じになってしまっている。
この試合でも44仙波 大志へのリスキーなパスが2,3度どころか、5回ぐらいあったことで、その内、3回ぐらいボールロストして、シュートまで行かれたシーンもあった。
プロの試合で、これだけ悪い面が目立ってしまうのであれば、チームとして何らかの手を打たなければ、1点差勝負で勝利する事は、かなり困難となることは間違いない。実際に勝利出来る試合で、16河野 諒祐の軽い守備対応で、失点に繋がった試合も何度かある。
重心が後にあるのであれば、9ハン・イグォンと16河野 諒祐の両WGとする3トップも選択肢として、考えるべきだ。
ただ、残念ながら6輪笠 祐士が、厳しいのであれば、15本山 遥をDHやAN(アンカー)で起用せざるえず、そのうなると、右SBは、必然と16河野 諒祐となってしまう。
4バックを採用を続けるのであれば、真剣に15本山 遥の起用や33山田 恭也を起用すること、それこそ出番のない20井川 空をテストするなど、打てる選択肢もある。
3バックを採用しようにも空中戦に強いタイプのCBを三枚並べる事もやや重く、この試合で、試合をクローズできなかったように、シンプルなクロスやサイド攻撃ではなく、速攻やドリブルやパスワークに対しての弱さは、どうしても生じてしまう。
それこそ、秋田や町田のようにロングパスを蹴って、運動量で前からプレスをかけて、ロングパスを蹴って跳ね返すとかできれば、良いがそれができない。
そのため、空中戦で跳ね返すDFラインであるのに、空中戦ではなく、1対1やスピード勝負という怖い守備対応をしないといけなくなった。
それこそ、この時間帯でも「怪しいロングパス」だけではなく「怪しいミドルパス(ショートパス)」も増えてくる中で、岡山の守備対応も「怪しい」を越えた「危い」守備対応が増えてくる。
それこそ、23ヨルディ・バイスのタックルをかわされたシーンが、まさにそうで、こういったシーンが、起きうる岡山の選手バランスであり、この守り方をすれば、起こりうる失点の形であった。
一つのプレーやその前後のプレーを切り取れば、ミスの連鎖のように映るかもしれないが、筆者からすれば、起こりうる失点パターンであり、それこそ22シーズンや23シーズンの岡山を見た時に、「またか」みたいに感じた方が多かったのではないか。
今回は、深く言及しないが、スピードがない18櫻川 ソロモンをサイドの守備に回したことにしても、そこでの守りを任せるとドリブルに対しての守備対応が遅れる事も生じるうることで、ここで22佐野 航大の代表での離脱や19木村 太哉の怪我での離脱、38永井 龍が開幕から怪我で出場できていないことを改めて痛いと感じた。
このように岡山は、14田中 雄大の先制ゴールで勝利に限りなく近づいた訳だが、終了間際の失点を見ても「明暗くっきり」というか「明暗がはっきりと」と分かる両チームの「前半」と「後半」の「内容」と「結果」であった。
「迷安」の違う意味での表現をすると、良くも悪くも今日も安定的に迷っている。つまり、いつものパターンであった。
ただ、後半の岡山は、先制こそしたが、大宮が、前半と比べて、岡山の嫌味を明確につくようになって、非常に明確な修正をしてきたというのが、14田中 雄大の躍動の裏で感じていた正直な感想である。「
厳しいが、これが現実だ。
1章と2章に引き続き、手厳しい内容となったが、ここまで、岡山が勝ち切れない理由としての明暗(迷安)について、言及したが、3章で、今後の浮上のポイントも言及しておきたい。
3、奇跡の高木マジック~進化(真価)~
木山マジックではなく、高木マジックが、この試合ではあった。
「何のことですか?」と聞こえてきそうだが、この一文を読んで頂きたい。
この試合の2高木 友也は、90分間通して、攻守において、SBとしてやるべきことができていた。一方で、14田中 雄大は、44仙波 大志や27河井 陽介の基礎技術に裏打ちされた攻守での攻撃での流れの関与やインパクトに比べると、やや物足りなく映った。
どこから殻を破り切れないような、もう少しできるはずといった感じのような印象こそあった。筆者も後半にもっと良くするなら、42高橋 諒などを投入することも一つの手でもあると感じていたが、まさか2高木 友也と「話」をしたことにより、今季の試合の中で、まるで別人のように驚くほどプレーが良くなった14田中 雄大を見れるとは、前半の内容からは、全く想像できなかった。
逆を言えば、意識の変化や戦い方の変更で、岡山も清水とまでとは言わなくても、前回のフォーカスでも言及した通り、多くの選手が少し意識を変えたし、少し工夫をすることで、2,3点取れるチームへと変わる可能性があり、その先の勝利へと繋げることができる可能性もある。
そういった期待を抱くに十分な14田中 雄大のプレーの変化であり、同じ14田中 雄大であり、同じプレーをしているが、少しの意識の修正で、まるで「進化」したかのような活躍。そして、今季初ゴールを決めたことで、14田中 雄大の「真価」を証明することができた試合となった。
そして、15本山 遥も自信を取り戻しつつあることもチームとして大きなプラスになることは間違いない。
今季の15本山 遥が良かったのは2試合ともSBではなく、DHとしての活躍であったが、今後の彼のプレーは、非常に楽しみだ。そして、木山 隆之 監督のこのDHでの起用を再びトライをさせて、15本山 遥の良さを引き出したという点では、ちょっとした「木山マジック」と言えるかもしれない。
「木山マジック」で躍動した22シーズンだったが、今季は、「木山マジック」だけではなく、チームとして「〇〇マジック」を如何に起こせるか。まさに、総合力が問われている。
マジックを起こす事ができれば、岡山もかなり厳しくなりつつあるが、野球の昇格M(昇格マジック)のようにM(マジック)を点灯できる可能性は、数字上で残っている以上、十分可能性はある。
そのきっかけは、選手や監督の練習や試合の中で、探っていくことになるが、苦しい時に応援に来て下さる、皆さんの声によって、実現するかもしれない。
少なくとも、私も諦めが悪いので、まだまだ可能性を信じて応援したい。
まだ、シーズンの前半は、終わっていない様に、岡山の力も全開(フルパワー)ではなく、全半(半分)しか力を引き出さていないと信じて、やはり最後まで、チームの可能性、伸び代を信じて、応援していきたい。
大宮のPKセーブをした1笠原 昂史のコメント。見方と立場で、感じた方は人それぞれ。ここをどう先に繋げるか。それは、今後のチーム次第だ。対戦チームの選手の言葉だが、岡山にとっても次に繋がる試合であって欲しい。
文章・画像=杉野 雅昭
text・photo=Masaaki Sugino
4、AT(アディショナルタイム)
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