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林業の面白さは何十年先を見据えて「過程」を大切にすること〜有限会社エフ・ジー代表取締役社長佐藤さん

「杉の雫」から辿る、今回の対談は、有限会社エフ・ジーより代表取締役社長の佐藤さんが登場します!杉の雫に使われる秋田杉の葉は、エフ・ジーさんが採集してくださっています。

こちらは「杉の雫を通じて林業に迫る」対談の後半戦になります。前半はこちらから!

林業を簡潔にすることは難しい、と教えてくださった佐藤さん。今回は林業のおもしろさ、さらには林業の未来にまで踏み込んだ内容でお届けします。高専時代の同級生である二人ならではの会話にもご注目ください!(*対談記事内、敬称略)

有限会社エフ・ジーにて(左:佐藤さん、右:株式会社サノ高嶋)

対談相手を務める株式会社サノ開発担当者(高嶋)のインタビューはこちらから!


「林業」とは、何か

高嶋
「私は当初『杉の雫』に使う秋田杉の葉をどこから仕入れるかってなった時に『林業…、あ、直俊くん林業やっているな』って思って。でも、私も林業って何だろうというところから教えてもらいました

佐藤
「未だに中高生とかに聞かれても困るもんね。林業って何ですか?と聞かれると答えに困る!なんて説明したらいいのかなあって」

高嶋
「林業って聞いて何やっているのかな、とは思ったかなあ…」

佐藤
「業界を知らないだろうからね。農業ならお米と野菜、漁業ならお魚、林業なら木材…だけど、あまり木材を使う場面を見ないでしょう。自分は親が林業をしていたけれど、それでもどうやって木を切り出してくるのかなんて考えたこともなかったもんね。山に行って木切ってるんだろうなあ…みたいな。

だから林業を説明する時に、木を切る林業を言えばいいのか、木を切った後の植栽を行う林業を言えばいいのか、それとも植えた木の手入れを言えばいいのか…っていうのも難しくて。まとめて全てを林業と呼んでいるけれど、会社によって得意とする分野が違う。俺から聞く林業と、他から聞く林業は違うと思う。スタンスもそれぞれだしね。だからそう聞かれても自信がないんだよね笑」

ハーベスターと呼ばれる機械で造材する様子(有限会社エフ・ジー提供)

高嶋
「なるほど…!幅が広いのが林業なんだね」

林業の魅力は「未来を創造/想像する」こと

高嶋
「新聞でも秋田県内の杉がちょうど60年の伐期を迎えているっていうのを読んだことがあります」

佐藤
「40歳くらいまでは間伐して間引いて大きくして、50歳くらいになると手頃な太さになって、光合成と呼吸の比率が60歳くらいでちょうど半々になる。そこから先の高齢級、80歳とかそのくらいのクラスになると二酸化炭素を出す量の方が多いから。そうなると切って新しい木に植え替えていかないと二酸化炭素の削減につながってこないからね。そういうのもひっくるめて50〜60年が収穫周期だね。でも一気に切ってしまうとハゲ山になってしまうから、長伐期システムとかね…」

高嶋
「それは何ですか…?」

佐藤
全部を一気に切らずに、周りに植えつつ、間引きしつつ、若い木、中年の木、高齢の木、って同じ林班の中にも三世代くらいの木を育てることかな。60年の木を全部切るのではなく、何本か後世に残す木を決める。80年くらいになると高齢級になってまた丸太の値段も上がるから、そういう木材をまた取るっていう。わざと残していって、隙間が空いたところに植栽をしていって。80年になった時に、またそこから何本か残して100年を越えて残していく…みたいな。試験的に国有林でやってみたりもして」

天然秋田杉を造材している様子(有限会社エフ・ジー提供)

高嶋
「へえ〜!おもしろい!」

佐藤
「でも、自分たちではその木は切れないからね。こういう風になるんじゃないかなってイメージを膨らませて次の世代につなげていく。だから、次の世代に『こんなのいらない』って思われたら切られちゃうし…うちも社有林にスギやカラマツ、広葉樹を植えて試しているけれど、40年後に一度手入れが入るから、その時に一体どうなっているのか。その時に初めて自分の考えに審判が下るからね。社長、先見の明あったなあ!ってなるかもしれないし、社長ダメだったなあ…ってなっているかもしれない笑」

高嶋
「でももうその時にはいないのか笑」

佐藤
「だからやっぱり植えながら(若手に)喋るよ、俺はもういないからちゃんと管理してよ、って。そういう楽しみはあっていいなと思います」

高嶋
「次の世代になる三政さんはどうですか、そういうのを聞いて…」

三政
「自分の仕事が何十年先、次の世代につながっていく、未来をつくっていくことってなかなかないなあと思っていて。私は会社員として働いて、目の前のパソコンと向き合いながら何十年先とか全く考えずに仕事をするんじゃないかなと思うので。そういう職業ってなかなかないなって思いました。予測不可能な社会とよく言いますが、まさにそれの最たるところにいらっしゃるんだなと!」

佐藤
「だから自分はうちの会長の受け売りでもあるんだけど、『感謝の気持ちは忘れないで』と伝えています。木を切る時も、60年や80年経ったものは自分たちよりも先輩だから。そういう木を切るときは下手くそに切れない!笑」

高嶋
「リスペクトしながら切っていくと…」

天然秋田杉を伐倒している様子(有限会社エフ・ジー提供)

佐藤
「60年の木も、結局昔の人たちが植えてくれたから自分たちが今切れるっていうのがあるから。じゃあやっぱり自分たちが切ったら次に残していってあげないといけないなって。感謝を(次の世代に)押し付けるつもりはないけれど、君たちのために残しているよってね。若い子たちには、君たちの仕事をどんどんつくっていっているから頑張れよ、みたいな。そこが面白いし、農業や漁業とは違うところなんじゃないかなと思うね。林業は何が起こるか分からないからね、地崩れ、山火事、大雨で苗木が流される…とか」

高嶋
「タイムマシンでその先の未来が見てみたいなんて…」

佐藤
「いや!見たくない!笑」

高嶋
「え、見たくないの!笑」

佐藤
「失敗してたら嫌じゃん!笑」

佐藤
「でも『良い山』と『良くない山』って今でもあるんだよ。手入れしていなかった山って全然値段がつけられないよ、これっていうような山もいっぱいある。だからそういう山にはならないようにしないとなあって思いながらやっているかなあ。でもそう思っていてもなってしまう場合もあるし。結果は見たくないかなあ…笑

徐々に気にしながら、これは問題があるなと思えば手直ししながら、手を加え、手を加え…で良いようになるようにしたいなあとは思ってる。やっぱりその過程を見ないで、いきなり結果を見ちゃうと、ちょっとつまらないでしょ?そこが林業の魅力じゃないかな

三政
「わあ…すごい…」

佐藤
「狙った通りに木を倒すとか、コストを下げて利益を上げるとか、思い描いた通りに仕事が出来た時に良かったなあって思うのは、あくまで短期間の魅力や面白さであって。本来の魅力は長期的にどう考えるかというところ。だから商売だけで考えていたら、俺は林業はつまらないなと思う

「ジェンダー平等」と林業の未来

三政
秋田県SDGsパートナー登録制度にも登録されていますよね、どの項目で登録されたのですか」

(有限会社エフ・ジーの登録内容は、一覧より90番目から閲覧できます)

佐藤
「まず一番はジェンダー平等かな」

三政
「え、えええええ〜!そこなんですか!意外なのでびっくりしました!」

佐藤
「林業って今なかなか若者が来なくて。自衛隊にも女性隊員がいるのに、なぜ林業にはいないの?と思って。女性が目もくれない業種には将来もないかなって。だって人類の半分くらいは女性じゃないですか。半分の人たちから捨てられている業界になってしまうでしょ?」

有限会社エフ・ジーの皆さん(佐藤さんは一番右、有限会社エフ・ジー提供)

佐藤
「でもやっぱり今までの林業の形態でいくなら、女性には無理かもなあって。元々山神様が女性の神様だから、女の人が入るとヤキモチを焼くとか、昔の人たちは気にしていたり、体力勝負の部分もあったりしてね。でも今は機械化が進んで、オペレーターとか、そういうのもいいんじゃないかなって。女性が入ってきやすいような職場に変えていかないと、この先の将来はないかなと思って、ジェンダー平等に決めました。目標としては、女性社員最低1名の雇用を掲げさせてもらっています。

SDGsの項目もいくつかあるけれど、自分の中ではジェンダー平等が一番先に来ればいいなあと思っているし。林業そのものが持続可能な社会につながっているから、意識しなくても普通に仕事をしていけば、そこはクリアできるだろうし。普段林業に関係のないところでチャレンジしてみようと思って」

高嶋
「でもどうして登録しようと思ったの?」

佐藤
「初めは県のホームページを見ていた時に気付いて、申し込みしようかなと思ったんだけど、林業自体がすでに持続可能な社会に貢献するものだから、あえて特別…とは思ってたんだよね。だからやらなかったんだけど、お世話になっている銀行の支店長に勧められて、登録を決めたかな」

高嶋
「へえ〜!」

佐藤
「情報発信が得意ではないので。特別なんでもないでしょ、みたいに思っていることも、周りから見たら『それはやった方がいいよ』って言われた一つの例だし。自分の考えと周りが見ている目って違うんだなあと。自分としては良かったのかなと思ってるし、情報発信はした方がいいんだろうなって最近思い始めてきた」

高嶋
「いろんな面からもっと林業をアピールしていけたらいいですね」


前半と後半に分けてお届けした佐藤さんとの対談はこれにて終了です。何となく普段目にしている「山」に深く関わっているのが林業。何十年、何百年という時を超えて、より良い形で次の世代にバトンを繋げるようにご尽力されていることが分かりました。改めて、佐藤さんありがとうございました!