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変かなわたし

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#母

母 自分と云う狭間

これまで出来ていた事が 出来なくなった。

走っていた距離を 歩くようになり
今は歩く事さえ覚束ない。

うんしょと持ち上げていたお米の袋も
箱売り野菜の大バーゲンも
抱える事さえ出来なくなった。

動作を変える度に掛け声を掛け
此処に何しに来たんだったっけ
と 記憶が勝手に飛んで行き

間に合うと思う感覚も
届くと思う距離感も

敏感だった匂いも味も
ぼやけて漂う 
陽炎の中。

そんな自分を認

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母 *  良心

何の権利があって、当たり前の様な大きな顔をして
言いたい放題したい放題の事が出来るのだろう。

思いやりも無く好き嫌いを撒き散らし
自分の殻に閉じこもりながら
都合の良い時だけ、勝手な時だけ顔を出す。

そんな私を親だからと言って
家族だからと言って見放すことも無く
未だに心配し気に掛け忘れないでいる。

そんな親に未だに甘えて、
そんな親を未だに頼りにしている。

一人では何も出来ない私を
未だ

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「母」―私から―

初めてかも知れない。
私からハグするなんて。

手を離れ、一人で外に出て行く。
母とは違う空を見上げ、風景に浸っていく。
感じる事も、記憶する事も、母から離れてゆく。

そうして久しいよね。
こうして傍にいて、母と手を繋ぎ歩くのも、
温かい縁側でお茶飲むのも。

初めてだよね。
私から。
母の背中に手を回し、「こんなの 初めてかも・・・」
と言ってみる。

「そうか」と言っただけだった。
「お母さ

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母は必要とされていた。
親からも兄姉からも、相談事も頼まれ事も
何かと云うと電話が掛かってくる。
根気よく話を聞き、自分の事のように一緒になって考えていた。

最後にはそれぞれの看病に明け暮れ、
親を送り 兄姉を送り 夫を見送った後
元々寂しがりやの母は 一気に一人ぽっち感を募らせている。

よくこれ程に面倒見れるんだ と思うくらい
差し入れのお弁当を作り、洗濯物を請負い、
買い物から 連絡から 

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母 黄金の手

母の手が作る料理は ふっくらと温かい
レンジでチンしても 何か美味しく感じてしまう。

「有り難いね 便利になって」 母は感謝する。
「有り難いね 簡単になって」 と レトルトを温める。

あまり感心できないよ と思えるけど
家族6人分の家事を一手に引き受け
かまどに火をつけ 薪を焚き付け お風呂を沸かし
農作業を手伝い 内職もし・・・
生きることに 生活することに精一杯だった。

「皆 そうだっ

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