母 自分と云う狭間

これまで出来ていた事が 出来なくなった。

走っていた距離を 歩くようになり
今は歩く事さえ覚束ない。

うんしょと持ち上げていたお米の袋も
箱売り野菜の大バーゲンも
抱える事さえ出来なくなった。

動作を変える度に掛け声を掛け
此処に何しに来たんだったっけ
と 記憶が勝手に飛んで行き

間に合うと思う感覚も
届くと思う距離感も

敏感だった匂いも味も
ぼやけて漂う 
陽炎の中。

そんな自分を認識している

けれど 認めて受け容れてしまう事が
納得出来ないで 許せなくて

これまで人一倍頑張って
兄妹の誰よりも苦労して

戦争を生き抜き
貧困の壁も乗り越えて

挫けず 誰にも迷惑を掛ける事無く
立派に ‟良い人”で 生きて来た
と云うプライドが 

自分の変化に抵抗している。

だけど 現実に
刻一刻 日毎夜毎に
変化している自分が居るのだ。

もう とっくの昔から
襲ってくる恐怖や不安や
消滅して行く 自分の遺産と
戦っている 大戦の中に
迷い込んでいる。

出来なかった事を出来る様に
自分を励まして来た習慣や記憶は

出来ていた事を出来ないと認める事に
敗北感を 抱かせてしまう。

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