菅野紫

文鳥と短歌を愛しています。 短歌結社「未来」所属。 あなたの好きな花は何ですか。

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マガジン

  • 拝啓 本を愛するあなたへ

    • 9本

    読書家と歌人見習い。顔も名前も知らない二人の共通点は、ただ1つ。「本が好き」。本を読む喜びを語り、分かち合うための往復書簡。あなたの好きな本、教えてください。

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名刺代わりの短歌

自選10首です。 愛してる本の最後の一行を読むときの目であなたは笑う 雨が水面を打つ静けさでわたくしの喉に消失点を置く指 ねむの木がねむりゆく夜こんこんと数えてゆけば会えるでしょうか 火は消えるとき火の声で呼びあって人は声から忘れてゆくよ 東の果てに着けば東を失って風の九方位に目を閉じる 蝶が死ぬたび花を植えこの島はいつしか花にまみれゆくこと 泣くように林檎の花は散る人が泣くとき瞼を閉じるのに似て 生き別れか死に別れしかないなんて言わないでこんな青空の日に

    • ふと開いた本の中、本との邂逅をめぐる一編に出会う。遠藤周作『切支丹の里』の一節を引きながら詩人は、頁を開かずとも「影響」される本があることを語る。本との生活を好む者の書架にある、手付かずの本。その本が後にもたらすものについて。 偶然か、必然か。真摯な言葉を綴る人の問いが過る。

      • 言葉を愛する者としての本分

        拝啓 前回のお手紙を頂いてからかなりの時間が空いてしまい、大変申し訳ありませんでした。ご心配もおかけしましたね。温かなお気遣い、痛み入ります。 唐突にもたらされた雨に、ほんの少しだけ息をついています。窓からはかすかに虫の声も。あなたが住んでいる場所はいかがでしょうか。暑さはまだ続きますね。どうか、ご自愛ください。 あなたが『守り人』シリーズをご存じであったこと、『バルサの食卓』まで揃えておいでであったこと、大変嬉しく思うと同時に本好きの縁を思いました。上橋菜穂子が描く

        • 平和の共通基盤のための文学~沖縄 慰霊の日に大城立裕『カクテル・パーティー』を読む~

          「文学の不毛の地」と言われた沖縄で、最初に芥川賞を受賞した作品をご存じでしょうか。毎年6月23日は慰霊の日です。日本軍の組織的戦闘が終結した日であり、沖縄戦の犠牲者を追悼し世界の恒久平和を願う日とされています。今日はそんな慰霊の日にちなんでお伝えしたい作品があります。大城立裕の『カクテル・パーティー』です。 物語は沖縄出身の主人公「私」が、中国人弁護士の孫先生、沖縄県外出身の新聞記者小川氏とともにアメリカ人のミスター・ミラーが住まう米軍基地内のパーティーに招待される場面から

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        名刺代わりの短歌

        • ふと開いた本の中、本との邂逅をめぐる一編に出会う。遠藤周作『切支丹の里』の一節を引きながら詩人は、頁を開かずとも「影響」される本があることを語る。本との生活を好む者の書架にある、手付かずの本。その本が後にもたらすものについて。 偶然か、必然か。真摯な言葉を綴る人の問いが過る。

        • 言葉を愛する者としての本分

        • 平和の共通基盤のための文学~沖縄 慰霊の日に大城立裕『カクテル・パーティー』を読む~

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        • 拝啓 本を愛するあなたへ
          9本

        記事

          国語の教科書から辿る読書体験~読書の祝祭の続き~

          拝啓 雨が降ればまだ少し肌寒く、けれど陽が射せばすでに夏のそれ。「季節感がはぎ取られるようだ」というあなたの言葉に頷きながら筆を執っています。いかがお過ごしでしょうか。 志村ふくみさんの『一色一生』、お手に取って頂けて大変嬉しく思います。しかも、桜の樹皮による染色のエピソードを教科書でご存じだったとは。実は、私が志村さんを最初に知ったのは教科書の随筆だったのです。こんなにも美しい言葉を綴る方がいたなんて、と繰り返し読んだ記憶があります。また、小林秀雄による仏教思想を根幹とし

          国語の教科書から辿る読書体験~読書の祝祭の続き~

          言葉と本を重ねる書簡~『手紙、栞を添えて』から始まる手紙~

          拝啓 気づけば紫陽花が咲き始め、もう間もなく雨の季節を迎えるこの頃。朝晩肌寒い日々が続きますね。いかがお過ごしでしょうか。 前回頂きましたお返事、大変嬉しく拝読しました。『雪とパイナップル』のみならず、私が大切にしている作品『オメラスから歩み去る人々』まで読んで頂けたこと、恐縮です。 今回あなたからご紹介頂きました3冊の本、どれも素晴らしかったです。 ジル・ボムの『そらいろ男爵』の中で詩人が生えてきたくだりは思わず声を上げて笑いました。トルストイの『戦争と平和』を敵

          言葉と本を重ねる書簡~『手紙、栞を添えて』から始まる手紙~

          夜ですね。好きな短歌の話をしましょう。 人はすぐいなくなるから話してよ見たことのない海のはなしを(佐藤弓生) 欲しい本ほど絶版で、好きだった花屋は消えていて、 会いたい人はこの世にいなくて、どうしたものかなぁと思いながらもやっぱり本を手に取る日々です。海の話が聞きたくて。

          夜ですね。好きな短歌の話をしましょう。 人はすぐいなくなるから話してよ見たことのない海のはなしを(佐藤弓生) 欲しい本ほど絶版で、好きだった花屋は消えていて、 会いたい人はこの世にいなくて、どうしたものかなぁと思いながらもやっぱり本を手に取る日々です。海の話が聞きたくて。

          往復書簡~本が好きな方へ送る、本好きの手紙~

          既視の海様 気づけば花水木の時期も終わりに差し掛かり、日ごと夏めいてくるこの頃、いかがお過ごしでしょうか。 お送り頂きました「本が好きな方へ送る、本好きの手紙」があまりに魅力的で、ぜひ返信をしたく筆を執った次第です。 辻邦生と水村美苗の『手紙、栞を添えて』はお教え頂きました通り、ちくま文庫版を注文しました。数日後には私の手元に届きます。素敵な本をご紹介くださり、本当にありがとうございます。また一冊、大切な本が増えたこと、大変嬉しく思います。 お返しと言うにはささやかです

          往復書簡~本が好きな方へ送る、本好きの手紙~

          いい歌を詠むのも大切だけれど、いい歌を伝えていくのも同じくらい大切だと仰った歌人さんがいました。(馬場あき子さんだったかな) 私が夜に歌を呟くのは、100年先の誰かに渡したいからです。1首でも誰かに届き、またその誰かが歌を口ずさんでくれたなら。そう願いながら書いています。

          いい歌を詠むのも大切だけれど、いい歌を伝えていくのも同じくらい大切だと仰った歌人さんがいました。(馬場あき子さんだったかな) 私が夜に歌を呟くのは、100年先の誰かに渡したいからです。1首でも誰かに届き、またその誰かが歌を口ずさんでくれたなら。そう願いながら書いています。

          夜ですね。好きな歌の話をしましょう。 うつりかわる母音のように暮れてゆく海のもうしばらくは藤色(服部真里子) モモタマナ、フクギ、トックリキワタ…友人と木々の名前を呼びながら散歩。友人の声はいつだって優しいから、呼ばれたと思ったアオスジアゲハが来てしまう。そんな蝶を連れて見た海。

          夜ですね。好きな歌の話をしましょう。 うつりかわる母音のように暮れてゆく海のもうしばらくは藤色(服部真里子) モモタマナ、フクギ、トックリキワタ…友人と木々の名前を呼びながら散歩。友人の声はいつだって優しいから、呼ばれたと思ったアオスジアゲハが来てしまう。そんな蝶を連れて見た海。

          夜ですね。好きな短歌の話をしましょう。 目がさめるだけでうれしい人間がつくったものでは空港が好き(雪舟えま) 海を渡らなければ会えない友人がいます。本の世界からふと目覚め、ずっと南の青い海に抱かれた空港に着く瞬間の嬉しさ。今日は友人と学生時代に戻りました。幸せな時間です。

          夜ですね。好きな短歌の話をしましょう。 目がさめるだけでうれしい人間がつくったものでは空港が好き(雪舟えま) 海を渡らなければ会えない友人がいます。本の世界からふと目覚め、ずっと南の青い海に抱かれた空港に着く瞬間の嬉しさ。今日は友人と学生時代に戻りました。幸せな時間です。

          紅茶をお供に、ある文豪が映画を「おしるこ」と呼んだことについて話した。掌に隠した貝殻や光る石を見せ合うように、ふと思っていたことも話した。記憶が温かな意味を帯びて再生される午後。彼の「おしるこが食べたい」の一言で甘味処へ。紅茶の後でおしるこを食べた話もきっといつか再生される。

          紅茶をお供に、ある文豪が映画を「おしるこ」と呼んだことについて話した。掌に隠した貝殻や光る石を見せ合うように、ふと思っていたことも話した。記憶が温かな意味を帯びて再生される午後。彼の「おしるこが食べたい」の一言で甘味処へ。紅茶の後でおしるこを食べた話もきっといつか再生される。

          人間の体が食べたものでしか作れないように、扱う言葉は読んできた本でしかつくれません。 美しく優しい言葉で文章を綴る人に出会うと、幸せな気持ちになります。きっと素敵な本をたくさん読んでこられた方なんだ、と思っています。私は言葉を大切にできる人が好きです。

          人間の体が食べたものでしか作れないように、扱う言葉は読んできた本でしかつくれません。 美しく優しい言葉で文章を綴る人に出会うと、幸せな気持ちになります。きっと素敵な本をたくさん読んでこられた方なんだ、と思っています。私は言葉を大切にできる人が好きです。

          備忘録【自分が読みたいものは自分で書くしかない~C・S ・ルイスの教え~】

          読書感想文はいつも嫌いな本で書いていた。 審査員好みの「小学生らしさ」「中学生らしさ」を求められることが大嫌いだった。そんなことに大好きな本を従事させるのはもっと嫌だった。毎回課題図書から一番読みたくない本を選び、あらすじと最初と最後の数ページのみを読んで適当に原稿用紙を埋めた。先生から添削が入れば素直に訂正し、入選して貰った賞状はそのまま先生の机に置いて帰った。(もちろん怒られた) そんなことを毎年繰り返し、やがて私は書くことそのものが嫌いになった。 本を読むのは大好き

          備忘録【自分が読みたいものは自分で書くしかない~C・S ・ルイスの教え~】

          詩【楡の樹の下で】

          水辺で鳥を呼ぶ人は 「さようなら」を春の季語だと言った 薄れてゆく心から雨の名前ばかりを引用して 景色の全てを青の寓意で埋める日々 私は今日も傘を差して森へ行くから 楡の樹の下で会いましょう 傘をたたむ一瞬、目に映る自分の白い手 花を好きだと言いながら花を手折り続けた手 冷えて冷えてどうしようないこの手を 綺麗だと言ってくれたのはあなただけだった 言葉を変えて話すしかないなら 貸した詩集はそのまま持っていて 今日は海を渡る鳥の歌を教えてあげる あなたが今夜 眠れるように

          詩【楡の樹の下で】

          備忘録【支えとなる言葉】

          夜ですね。大切にしている平山郁夫の絵葉書をもとに、今晩は少し長い問わず語りを。 ◇ 去年の5月。海の上に架かる橋を自転車で渡り、生口島にある平山郁夫美術館を訪れた。 美術館の入り口には平山の代表作「仏教伝来」が飾られ、入館者を静かに出迎える。平山が20代の終わりに描き、日本美術院展に出品した作品だった。 中国・唐代の僧、玄奘三蔵法師をイメージしたこの画は、原爆投下による被爆を経験した彼の「死ぬまでに1作でいいから平和を祈る作品を残したい」という願いから生まれたものだった

          備忘録【支えとなる言葉】