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詩【楡の樹の下で】

水辺で鳥を呼ぶ人は
「さようなら」を春の季語だと言った
薄れてゆく心から雨の名前ばかりを引用して
景色の全てを青の寓意で埋める日々
私は今日も傘を差して森へ行くから
楡の樹の下で会いましょう

傘をたたむ一瞬、目に映る自分の白い手
花を好きだと言いながら花を手折り続けた手
冷えて冷えてどうしようないこの手を
綺麗だと言ってくれたのはあなただけだった
言葉を変えて話すしかないなら
貸した詩集はそのまま持っていて
今日は海を渡る鳥の歌を教えてあげる
あなたが今夜 眠れるように

傘を差して森を出れば雨は翠から銀になる
鳥を呼ぶ人は今日も水辺にいて
「お帰りなさい」と静かに笑う
それは何の季語かと聞いても答えることはなく
「いずれ人の体には赤い花が咲く」と言い
鳥と共に風上へ去った

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