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短編:【公園にいたデブ猫】

その広場にはでっぷり太った野良猫が住んでいた。きっと心優しい観光客の食べ歩きをおすそ分けしてもらっているのだろう。人懐っこいところがあって近くに座ると、その大きなカラダで私の膝やお尻に頭からぶつかり全身を使ってこすりつけて来た。単に自分のカユイ気分を解消しているだけなのかも知れない。

たまたまその公園がテレビ番組で紹介されて、そこに住む猫の姿としてほんの数秒画面に映し出された。不思議なもので、それからしばらくして、その野良猫は姿を現さなくなった。

そんなある日、そこから二駅離れたとある神社の境内で、ばったりと再会をした。
「なんだよ、ここにいたのかよ〜」
私は親しい友だちにでも会ったように、野良猫の前に座ってみた。猫は頭からお尻にぶつかり、ゆっくりとこすりつけて来た。しかし広場の頃のような力強さではなく、匂いを確認するような優しい、あるいはか弱さすら感じられるコミュニケーションだった。
「どうした?お前はここまで歩いて来たのか?」
所詮猫は喋らない。スクッと背筋を伸ばして、高い遠くを見つめている。
「誰かに連れて来られたのか?」
ちょっと私の方を向く。
「そうなのか?」
今度は頭から膝に向かってカラダをこすりつけて来た。
「どうした?大丈夫か?」
特に野良猫が何かを語ったワケではない。もしかしたらテレビ放送によって人々が近づいて来て写真を撮ったりと、色々あの場所にいたくないことが合ったのかも知れない。何かの拍子に本当に誰かがここまで連れて来てしまったのかも知れない。
「犬に追っかけられたとか?」
近頃は、そんな野良犬もいないのだから、動物同士のいざこざというのは考えにくい。ましてやネズミを追いかけて…というのも無いだろう。
「まあ、元気で良かったな」
ケガをしている様子もない。デブ猫は相変わらず、デブ猫のままだった。ただ姿を現した場所が違っただけなのだ。

「けど、お前はあのデブ猫か?」
今度は私の顔を見ている。
「公園に住んでいたデブ猫か?」
言葉は分からない。
「そうならうなずいてみな?」
うなずくはずもない。
「ほら、こすりつけてみな!」
私は拳を猫の鼻先に出してみた。
「お!」
猫は私の拳におでこを押し付け、そのまま膝に体当たり。その上お尻にもぶつかって来た。フルコースである。
「悪かったよ、疑ったりして」
ひと通りカラダをこすりつけて満足したのだろう。そのままデブ猫はのそのそと歩いて行ってしまった。

三日後、公園に行ったら、なんてことはない。広場には元気に観光客から食べ歩きのおすそ分けをもらうデブ猫の姿があった。

     「つづく」 作:スエナガ

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