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短編:【それでも親なのだ】

公園のベンチに腰掛けていた。
小学校帰りの赤や黒、最近では茶色や水色のランドセルが元気に動き回っている。中には黄色い昔ながらの交通安全と印したピカピカの一年生もいるようだ。

先週の土曜日に、別れた妻と暮らしている、まだ幼稚園に通園する娘と会ったことで、子供の声がとても耳についた。美味しい、ちょっと贅沢な食事に連れて行き、遊園地で遊ばせても「パパとふたりは、つまんない」「パパといるより、ママといる方が好き」…悪気がないのはわかっているが、頼りない父親の愛情は受け止めてもらえないらしい…

来月会うのは若干、気が重く感じていた。

ひとり、元気な動きから離れた場所で茂みに顔を突っ込み、しゃがんでいる子がいる。何をしているのか、あまり動かない。声をかけるでもなくそっとと背後から様子を伺いみると、その茂みの奥に子ネコらしき甲高い鳴き声が聞こえて来た。

「キミのネコ?」
女の子に声をかけてみた。
「野良猫みたいなの。小さい子が3匹」

小学2年生位の小さな女の子が、さらに小さな命を静かに見つめていた。
「親猫がいるんじゃないの?」
「ずっと待っているんだけど、全然来ないの」
ぐるっと周りを見渡しても親猫らしき姿は見当たらない。
「人懐っこい訳でもないけど、威嚇もしないね…」
逃げるでも、攻撃するでもなく、ただミィミィと鳴いているだけのようだ。耳に手術を示す切り込みは見えない。
「…君のお家では飼えないの?」
「命はね…」
小学生の口から、何やら難しそうな言葉が飛び出しそうだ。
「命は、救うだけじゃダメなんだって。餌もね、むやみにあげちゃダメなんだって。甘やかせると、その子はラクな方を選んで生きられなくなっちゃう、ってママが…」
「そうか…」

少し間を空けて、その女の子の横に腰を落として座ってみる。しっかり教育されている子供だな…と感心する。海外の貧困層を扱う人々がよく引き合いに出すテーマのような気もするが、与えるだけではダメで、自分の生き抜く術を学ばせる必要があるとテレビでも叫ばれていたような…

「でも、見てあげているの?」
「私がここにいる時間だけでも、カラスに襲われたり、誰かにいじめられたら可哀想だから…」

この場合はどんな解決が望ましいのだろう。
近くにいる大人に飼えないか聞いてまわるべきか、見なかったことにして静かに立ち去るか、いずれにせよ、腰を下ろしたことを後悔し始めていた。
野良猫は、生きられるか死ぬか。本当に二択のような気がする。または飼われるか、車に轢かれるか…まさに天国か地獄。

ちょっと離れた場所から視線を感じた。
ジッと見つめるその目は、この3匹とよく似た親猫のようだ。
「ほら親猫、来たみたいだよ…」
「ホントだ!」
「ちょっと離れてあげようか…」

女の子とふたりでそっと静かに立ち上がり、親猫と反対方向に少し離れる。
と同時に、子猫が3匹揃って、親猫に駆け寄る。
「良かった」
女の子は安堵したように目を閉じた。
「どうしたらイイのかわからなかった…」
「オジサンもだよ…」
笑ってしまう。
「きっと親猫がいれば生きていけるね」
そんな私の言葉は届かなかっただろう。
「あ、ママだ!」
女の子は挨拶もせずに、今見た子ネコと同じように、母親の元へと一直線に走り出す。私を見た母親は軽く会釈をする。用心深いご両親ならば、知らない人と話すことすら注意するし、中には、何か用かと食って掛かられたかも知れない。変な誤解をされず済んだことに感謝しよう。

やれやれ、と立ち去ろうと歩き出した時、視野のすみに、先程の親猫の鋭い視線が見えた。特にお礼を言っている訳ではないのだが、
「またこの公園で会いましょう」と言われた気がした。

愛されようと、愛されまいと、親は親。来月はこの公園に娘を連れて来ますよ。子供同士、子猫と仲良く遊んでくれるんじゃないかな…
親猫が「心得た」と!うなずいたような気がして、それじゃあ、と別れを告げた。

     「つづく」 作:スエナガ

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