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短編:【ドッペルゲンガー】

「本当だよ!母ちゃんソックリの人がいて、だから言ったんだ。母ちゃんには物静かで優しい父ちゃんと、可愛い二人の子供、オイラと歳の離れたネェちゃんがいるって!」
「他人のそら似じゃない?」
低学年生の俺がいる。
パジャマ姿で自宅のベッドで背中を起こし横たわる母。
「そら似なんかじゃなくて、ホントに瓜二つ…あれは母ちゃんの生き別れの双子か何かだって…」
「そぉ…」
「あ!オイラがウソ言ってると思って!」
「…そんなこと無いわよ」
母はやんわり笑った。

ネェちゃんが帰って来た。
「何大きな声出してるのよ…外まで聞こえてるよ?」
「ネェちゃん、母ちゃんのドッペルゲンガーがいたんだよ!」
「ドッペルゲンガー?良くそんな難しい言葉知ってたね?」
母が割って入る。
「昨日の夕方に再放送のテレビ番組でやってたのよ…」
「あ〜ぁ、そう言うこと?影響受けちゃって…勘違いでしょ?」
「勘違いじゃねぇよ〜」
「どこで見たのよ?」
「ん…うん…ゆ…」
「え?」
「夢の中!」
女性二人が笑い出す。
「夢の中じゃ、ドッペルゲンガーでも何でも無いじゃない!」
「違うよ!きっと正夢なんだって〜!」
「はいはい…ほら母さん無理させると疲れちゃうでしょ!父さん帰る前にご飯用意するよ!」

そんな何気ない日常から一年半後、母は他界した。ギリギリまで在宅看病が出来たことは嬉しかった。優しい親父もその後亡くなった。最期の看病が大変で無理をしていたのだと思う。
俺は家を出て、ネェちゃんも実家を売ってそれぞれ生きて来た。
そして。

「正夢だと思ったんだよ」
結婚式場の控え室。
大人になった俺とネェちゃん。
「あんたホントお母さんコだったもんね〜」
姉が茶化して来る。
「まぁ否定はしないよね…」
今の時代、母親を愛する心優しい息子は普通になっている。
「でも娘の私から見ても、似てると思うよ…元気で若かった頃の母さんに…」
「顔だけじゃないんだよ。優しい所も、気遣いが出来る所も…出逢った時はビックリしたけど…まぁ母さんが導いてくれたのかなって…」
「はいはい、良いお嫁さんもらったね。私は式場で母さんと父さんと一緒に見届けるから。逃げられないようにねぇ〜」
そう言って、小さな額に入った二人の写真を持って行く。

他人のそら似なんかじゃない。
本当に母ちゃんと良く似ているんだよ、俺の奥さんになる人は…

     「つづく」 作:スエナガ

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