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短編:【営業電話は受け付けない】

さあ今回は私が実践している営業方法をご紹介しましょう。
「あいにく担当者は在宅ワークでして…」
近年、代表電話に連絡を入れても『担当者に直接連絡して欲しい』だの、『個人情報は教えられない』だのと、結局は知っている人間同士しか連絡を取り合うことが出来ない、負のスパイラルに陥っていると感じませんでしょうか。

一部の個人情報を違法ギリギリの手法を使って抱え込んでいた会社が幅を利かせ、公務員が持ち出したUSBメディアが泥酔と共に紛失してニュースになる世の中。個人情報が違法な高値で売買される危険極まりない時代なのです。

かく言う、電話営業を得意としている私も苦戦していることは明白の事実。時代や環境が変われば新しい営業手法を編み出さなくてはならないのが会社員の宿命なのです。

テレビ番組でよく、芸能人が飛び込みでお店に入って『アポ無しロケ』なるモノをやっていたりするのだが、それはあくまでも『演出』であり、『事前にスタッフがしっかりと下地を作っている』ことが多い。簡単に言えば『ヤラセ』なワケで。そんな当たり前なことを無視して『アポ無し営業訪問』などしてみたら、それは警備員にガッチリ捕まって、始末書では済まないのが現代である。

写真週刊誌のスクープだって、人権問題、プライベート侵害、不法侵入との闘いであり、今では芸能人側自らが暴露するものだから、何かやる前に謝罪会見をしているようなモノ。

コンプライアンス、レギュレーション、マナー、常識…。今の世の中は、過去の先人が犯してきた社会のルール違反によって、まっとうな人間が普通に生きるには居心地の悪い世界となっている。

そんな中、電話営業よりも効果を上げているのが『フィッシング営業』である。ターゲットにした会社の前でそのビルに入って行く人を待ち伏せして、その会社の人間と思しき人物に片っ端から『街角アンケート』をお願いする。もちろんその時はスーツ姿ではない。『なんちゃって番組』のロゴが入ったテロンテロンのスタッフジャンパーもどきを羽織っている。マスクをして高めの声で近づいて行く。

「スミマセン、番組のリサーチですが、5秒で済みます、大丈夫ですか〜」
人というのは面白い。5分というと、いま忙しい、時間が無いと言うが、5秒というのがポイントで、両手をパッと広げて、行く手を塞ぐと共に、番組取材というと立ち止まってくれるのである。また「大丈夫ですか〜」という言葉も不思議なもので、疑問詞ではない。相手に「はい」とだけ言わせるためのきっかけなのである。
実際、いまやマスメディア離れが続き、テレビなど真剣に視聴している人は極端に減っている。番組名など有名なモノ以外は興味が無い。
「これテレビですか?」と聞かれたら「いえラジオです…あまり知られていませんが…小さい放送局の…」と申し訳無さそうに答える。または「いつ流れるか解らないストック番組なんです」と答えることもオススメである。マスメディアというモノは、大きなスキャンダル時や、スポーツの代用として、リスクヘッジのために、いつ流されるか解らない番組を作っていたりもする。そのまま流されずに『お蔵入り』なんて良く聞く話である。
それを『演出』と言うか、多少の『誇張』なのかは定かではありませんけれども、詐欺と呼ぶにはレベルの低い可愛い嘘であるからご勘弁頂きたい。

アンケートの質問は2つ。
「会社名」と「お仕事の部署名・役職」。
そしてそれを書いている途中ですかさず「この何とかって部署では、どういった仕事をされるんですか?」とさりげなく。
「参考迄にお名前聞いてもいいですか?」
書面に書くのははばかれても、口頭で軽く聞くと名字くらいは教えてくれる。警戒心が薄いのは日本人の文化なのだろうか。
これで十分に個人情報をゲット出来る。

『会社名・部署名・役職・名前』 さらに 『本日は出社している』という事実。今の時代、これだけ多くの情報があれば十分、営業ができる。
その出会いから30分程したら「どこそこ部署の、なんちゃら部長お願いします」と電話をする。知らない相手には『いないって言って…』は通用しない。「あれ、今日は出社で昼頃には会社にいると伺っていたのですが…」
これで1件のアポセットが完了。
意外と街頭インタビュースタッフの顔なんて覚えていないもので、スーツ姿で再会して『あれ、どこかでお会いしました?』と言われても、『どこにでもある顔ですから〜』で万事解決である。さらにはそんなアンケートのことなど、席に着いてコーヒーを飲んだら忘れてしまう。

メールは便利なモノで、いつ送っても、大概文句は言われないが、人の心理というのは不思議なもので、週末に来るモノは週明けまで保留する。そして休みが入ると、ついつい忘れがちとなる。私は月曜の午前中、または火曜の午前中に電話を入れる。
「先週末にメールした者ですが、見て頂けました?」と。
『ああ、スミマセン、メールが多くて埋もれてしまって…』
そういう答えが帰って来るとチャンスである。
「でしたら直接お話した方が早いので、リモートでご説明よろしいでしょうか?」と薄いメールよりも深い話が出来る時間をもらう。まさに【肉を切らせて骨を断つ】…ちょっと痛いので【エビでタイを釣る】戦法とでも言いましょうか。

そうは言っても、ただ会うだけでは仕事にはならない。営業は信用してもらうこと。中には仲間をダシに『あいつは使えないから私に』と同僚を貶めるスタイルを格律実践される方も多くいる。実は仕事の極意は逆で『敵を作らない』ことが重要。味方を多く作る。いわばフラッシュモブ的な、外堀を埋める作業。『ああ、この人が担当で立っているなら、ウチは敵いませんよ〜』なんて、小芝居を入れて行くとなお良い。ちょっと前にかなり騒がれた『劇場型の詐欺様式』に似ている。結果仕事になれば、誰がやっても良いのだ…
まさにルール無用の心理戦、これこそが営業の醍醐味であり、そんな壮絶な攻防戦こそが営業の職務なのである…と…

…さて、ここまで「極端なこと」を書いて、
何が言いたいのか。

ずばり、こういったドラマ台本みたいな、くだらないことをグダグダ考える時間があるのなら、誠心誠意まっとう、今日も笑顔で心の籠もった対応をして行きましょう。

それが、私の考える、営業方法です。

     「つづく」 作:スエナガ

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