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短編:【夢の叶う夢】

「パパのおよめさん!」
「パパのお嫁さん?」
母は娘の私が何気なく発した言葉に乗っかった。
「マユが、パパのお嫁さんになったら、ママはどうなっちゃうの?」
「ママはマユのママだよ」
母は笑っていた。
「マユがパパのお嫁さんになったら、ママはパパのお嫁さんになれないのよ」
私は幼く、無知だった。

そしてパパもママも心から愛していた。

それから1年ほど経って、私は、大好きだったパパとママを同時に亡くした。
「あんな小さい子ども残して、両方とも亡くなるなんてねぇ…」
「交通事故だってね…相手のトラックは居眠り運転だったんでしょ?」
誰かが開いてくれた葬儀で、親族が口々に聞きたくない情報を吹き込んでくれた。
「マユちゃんは怪我で済んでホント良かったね…」
一緒の車に乗っていたのだから、一層のこと、私もあの世へ連れて行って欲しかった。
「マユちゃん、大丈夫?」
「あの娘、まったく泣かないね」
「小さいから状況がわからないのよ…」

大人になって、たまに、あの葬儀の時の夢も見る。

親族や大人たちの発言が蘇り、いまさらながらに涙で目が覚める。

「新婦様はおひとりで扉から登場でよろしかったですか?」
「はい、両親は私が小さい時に死にましたし、育ての祖母も少し前に…」
「そうですか…」
結婚式場の打合せ。
「あの…新郎は神父様の前で待っていないといけないものなんでしょうか…」
「いけない…ということはありませんが…はやり通常は…」

自分の打合せなのに、誰かを喜ばせる目的のない結婚式はどこか他人事に感じてしまう。

「では、あとは当日、お待ちしております!」
ウエディングプランナーの女性が笑顔で送り出してくれる。
「大丈夫?」
私の夫になる男性。
「うん…」
とても大人しく優しく、ちゃんと包んでくれる。
「何か食べて帰る?」
「大丈夫…」
「そう?」
駅で別れる。
「結婚か…」
ひとり言。

家に着いて、ため息。
「結婚…か…」
冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
「結婚…」
プシュッと小さな音がする。

「パパのおよめさん!」
耳元で声がする。
「マユが、パパのお嫁さんになったら、ママはどうなっちゃうの?」
母の声だ。懐かしく優しい。
「パパとママとマユで、一緒に暮らせばイイんじゃない?」
思わず口を出してしまう。
「それじゃあ、いまと変わらないんじゃない?」
「イイんだよ。家族でいれば…」

電話のバイブ音で起きる。
「電話…」
缶ビール1本で寝てしまったんだ。
「全然、大丈夫じゃないじゃん…」
また涙で目が覚めた。
「あ、うん、大丈夫。うん、さっきはありがとう。うん…」

私の家族になる人は、みんな優しい。

     「つづく」 作:スエナガ

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