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短編:【公園発射台】

意外と知られていないが、この国では大きな橋の下には有事に備え、誘導ミサイルが装備されている。上空の偵察機や衛星から気づかれにくく、橋の幅が滑走に最適との施策であった。

国が保有しているものの、整備の殆どは公園を管轄する市町村の公園管理事務局に委託され、異変が無いかを一週間ごとに報告する代物だった。有事に備える、ということは即ちその時が来なければ出番は無いということ。50年以上の歳月の中使われることはなく、現代の最新兵器との対戦には不向きな時代遅れのモノとなっていた。

「どうでしょう、そろそろあのミサイルを新型に差し替えては?」
「予算もありますから、新型にするのは問題ないのですが、…その…いまどきの公園利用者の多くは、普段見ているアレがミサイルだと認識していないようなんですよね」
「まあ差し替えの工事自体は、橋脚の修繕や橋の架替えという名目で行えますが、問題は、古くなったミサイルの処分ですな」
これだけ大きな粗大ごみをどうしたら良いかが議題となった。

「…打っちゃいましょう」
ひとりが提案する。
「自衛隊の演習として、バンバン使ったら良いですよ!」

国内にある大きな橋からある程度回収し、演習として使う方向で調整に入った。

ミサイル回収の実行には、道路公団が主体となった。
「え!?これ、ミサイルだったんですか!?」
担当者は知らなかった。
「いや…あの…橋の修繕とはいえ、ミサイルの回収は無理ですよ…」
「大丈夫です。自衛隊が立会いますし、誤爆する恐れは殆どありませんので」
「誤爆…殆どって、…ということは万に一つはあるということでしょう!?」
「安心してください!万に一つもありません!…たぶん…」

秘密裏に回収事業が開始された。心配するまでもなく、誤作動などは無かった。順調に作業が進む中、まさかの事態が発生した。

「有事です…」
ミサイル発射が必要となった。
「もう半分近く回収されており、対応するには数もギリギリかと…」
「回収した場所に新しいミサイルの設置はしていないのか!?」
「全部の回収が終わった後に、来期の予算で一気に設置、という方向になっていましたので…」
「ならば回収した旧式ミサイルを、再度元あった場所へ戻したらイイ!」

「勘弁してくださいよ…回収作業だけでも、誤爆リスクと闘って来たっていうのに、古いミサイルなんか設置して傷でも付けてしまったら…そもそも、我々は橋や道路を管理しているだけで…」
道路公団は真っ当な正論を吐露した。

公園で楽しむ民間の間にも波紋が起きる。
「これまで市民を騙していたんですか!?」
「公園にミサイルなんて!」
「いやいや某国では広い公園の地下には発射台を設置しておりますし…」
「告知の義務がありますよね、周知する努力が足りないから…」

国内の様々な混乱に対応している間に、この国は攻撃され、残っていた半分ほどの橋の下ミサイルはすべて使い果たした。結果、誘導ミサイルの存在も知れ渡り、秘密裏に設置する必要もなくなり、一気に再配備が進んだ。予算的にも若干コンパクトとなったが、その差額は公園周辺住人への保障金に充てられ、結果すべてがまるく収まった。

「今後、この新型ミサイルの発射はあるのでしょうか?」
「また50年後にあるかも知れない…」
「喉元すぎると…なんてならないようにしたいですな…」
「その時は胸を張って、言いたいですね、『発射可能です!』…と」
こうして孫の世代に残すために、税金が投入されるのであった。

     「つづく」 作:スエナガ

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