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短編:【異空間からエール】

「あれ?いま花火の音聞こえた?」
放課後、教室の掃除をしていたマコトが、モップを握って言う。
「打ち上げ花火?」
「雷なんじゃない?ヤダ〜傘持って来てない〜」
女子高生仲良し三人組の、カオルとユミが話に加わる。
「でもさ、打ち上げ花火が禁止になって、どんな音だったか忘れた…」
ゴミ箱を持ったカオリが窓の外を見て言う。

いまこの国では、打ち上げ花火が上がらない。
「たぶん幼稚園入る前だわ、最後に本物見たの…」
15年前。とある地方都市で開催された最大級の花火大会。
「あの日、自衛隊も参加していたんだよね…運営で」
気象衛星の発射ミス。…当時、そう報道された。

隣国から放たれた長射程弾道ミサイルが、笑顔でごった返す花火会場に着弾。緊急アラートが鳴り響くも、幾度となく肩透かしだったこともあり、避難に至らず、未曾有の歴史的大惨事が勃発した…。

政府がとったまさかの対応に国中が驚愕した。両国間の歴史を精算する、その大義名分で、最悪のシナリオを回避、平和的解決、情報操作、情報規制、…論点のすり替え。世界と政治がさまざまな真実を揉み消した。その代償が、国民的イベント、打ち上げ花火の消滅だった。

「打ち上げ花火が無くなってもさ、メタバース内の大会は残っているし、有事には防衛機能付きで、失敗も騒音問題も無いドローンのショーは、いまでは夏の風物詩になってるしね…」
「正直リアルな打ち上げ花火が無くたって、過去何十年もの録画映像を再編集した番組で、かつての文化をちゃんと伝えているしね…」
これが国民の総意の如く若者に根付いた。

「あれ?え!やっぱり聞こえる!」
マコトが窓から顔を出して周囲を見渡す。
「ちょっと、本当に雷なんじゃないの〜もうヤメて〜!異常気象…」
窓から顔を出す3人。
「ほら!」
ユミは眉間にシワを寄せる。
「…なんも聞こえない」
「ゴメン、私も…」
カオリはゴミ箱を持って、廊下の方に歩き出す。
「ウソでしょ?私だけ?」
「マコトの前世、花火職人なんじゃないの〜」
適当なことを言い放ってクラスを出るカオリ。
「生まれ変わりって、…そんな…非現実的な…ねぇ…」
ユミも掃除に戻る。

同時刻。異空間では花火大会実施を知らせる空砲が上がった。

ミサイルの着弾も多くの犠牲者も無い世界。
「親方、今夜、天気崩れないみたいっす!」
「たくさんの人達が期待してるんだ!気合い入れて行けよ!」
親方の言葉で職人は各々持ち場に着く。

自転車で帰宅するマコト。
「本当に聞こえたのに…」
怒りを原動力に漕いでいる。
「…非現実的って!」

一際大きな花火が上がる笛。大輪の華が一発、また一発。

マコトの部屋。机で勉強をしている。
「あれ?やっぱり音が…」
エアコンで締め切った窓の方を見る。
「何これ?」
窓ガラスに眩い光が動く。
「…打ち上げ…花火?」
マコトにはその音が聞こえている。
「え!」
窓を開く。花火など上がっていない。身を乗り出して周囲を見る。遠くに高層ビルがあるだけ。
「うそ…空耳?」
窓を閉めると、やはりガラス面に花火の光。
「音が合っている…」
窓ガラスがビリビリと振動している。

「親方、届いてますかね〜多くの人に!」
「おうよ!これだけ大輪の花火だ!遠くの遠くまで見えるとも!」
ドーンと一際大きな花火。
「みんな〜頑張れろうな〜!」

マコトは膝を抱え床に座り、窓に写っている花火の光と、心に聞こえる轟音を感じている。
「みんな頑張ろうな…」
心に聞こえたメッセージを呟く。
「…ありがとう」
あんなことがあって、他の娯楽が発展したこの世界。
「花火、…失くしちゃいけない文化だよ」
フィナーレの花火が最高潮になる。その余韻の中で自然と拍手をしていた。

     「つづく」 作:スエナガ

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