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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!短い物語のなかに、きっと共感できる主人公がいるはず…誰かひとりに届くお話。自分と同じ主人公を見つけて頂け…
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短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

短編:【大きな地震雲が見えた日に】

台風が来て、雷雨があって、次は地震の番かと思えた。 かつての戦隊ヒーローを見ていると子供心に違和感があった。悪の親玉が「かかれ!」と言うと、俗に戦闘員と呼ばれるエキストラが、順番に襲いかかる。ヒーローは一人ずつ倒して行く。「ええ〜い、まとめてかかれ!」の号令で、キレイな円で上から攻める。下に潜ったヒーローが真ん中からドーンと蹴散らす。 時代劇だってそうだ。ひとりずつ斬りかかる。 なのに災害は違う。 「自然が相手だから…」 台風と雷雨は一緒に来るし、台風と共に地震が起こ

短編:【カギのある公園】

入口に湧き水が溢れ出る、ちょっと変わった、憩いの公園だった。 たぶん、これはレンタル部屋のカギ。何故ならしっかりとした、ディンプルシリンダーのカギである。ちゃんとしたマンションの部屋などで使われるタイプ。 私の推測はこうだ。外国人向けのレンタル民泊。公園のわかりやすいところにカギを常設。アクセスして来たところで宿泊希望の方に、この場所の地図を送り、自身でカギをピックアップ。宿泊後は、再びこの場所に同じように戻してもらう。ピンシリンダー錠のような安価なものではなく、街場のカ

短編:【タイムトラベル】

「長く生きていると気づくことがあるんです」 ゆっくり語る男性。 「アナタ方の世代にも理解しやすいように話します。例えば、ブログなどをやられている方はいらっしゃいますか?」 セミナーを聞いている数名が挙手する。 「なかでも5年10年と、…長く続けている方?」 先程よりグッと減り数名が手をあげる。 「実はそのブログというメディアは、ある一種の『タイムトラベル装置』なんです…どうでしょう…そう感じたことはありませんか?」 セミナーの若者は真剣に聞いている。 「…まず何年も何

短編:【見た目年齢で試されて】

化粧品、スキンケアや美容健康商材では神の如く重宝される、魔法の言葉。『見た目年齢』。実はこれ、案外日常生活の中でも気にすることがあるようで… 「スミマセン…」 オジサンの私が、 さらにちょい上のオジサンから 街中で声をかけられる。 「“国鉄”はどう行けば…?」 見た目60代の地方から来た観光者? いや、ぷらっと散歩している軽装。 小さなサイドバッグ。 「JR?そこ。信号渡って…」 咄嗟に“国鉄”を“JR”に変換して。 ハッと気づいてしまう。 常日頃から良く外国人観光客に道

短編:【不穏な予兆】

普段見ている風景が、実は何かの予兆となっていることもある。不調和音は日常生活にも潜んでいて、何かの拍子にすべてが一変してしまう。そんなアンバランスな世界。その日、窓の外には縦に走る不気味な雲が伸びていた。 「何で気づかなかったんだよ!」 「スミマセン!」 社内に響き渡る怒涛。90度を超える直角に体を曲げて平謝りの男性社員。 「一千万だぞ!こんな不祥事、取り返せんぞ!」 「本当に申し訳ありません!」 部長は手を振って、いますぐ回収に向かうよう、その社員に指示をする。 いつだ

短編:【ユメのない夢】

病院の診察室。白衣男性の前に座る若い女性が語る。 「ちょっと信じて頂けないかと思いますが…」 カルテにはスズキユミコ 27歳とある。 「夢を見るんです。あの夜寝た時に見る…」 「眠りが浅いんですかね…」 「あ、いえ…夢を見ることは良しとして…」 何か言いにくそうに戸惑っている。 「どうぞ気になることをお話し下さい」 「はい…その夢が…その…」 先生は親身に静かに次の言葉を待っている。 「すべてですね…その…ミュージカルなんです…」 言い終わると静寂が流れる。 女性はとんで

短編:【クレーム、または罪深い人類へ】

「だいたいさ!オタクの商品、効果が無いんだよ!」 『そんなことはございません…』 「うるおいをもたらし、命を救う?」 『…はい』 「サラサラで、無味無臭?」 『そうです』 「安価でお得?すべての国民に必要だと?」 『その通りでございます…』 「過大広告だろう!謝罪しろ!」 『お客さま…いま、お試し頂けますか?』 「い、いま?」 ゴクゴクゴク… 『いかがですか?解約されますか?』 「…」 『良いんですよ、この世界から“お水”と言う、万能な商品が消えて

短編:【職を決める】

「農業は天候に左右される。漁業も自然の影響を大きく受ける。どちらも鮮度が重要視され、収穫から消費者へ届けるスピードが求められる。流通はそのスピードが命である。物を製造する場合は、職人の技術力や大規模な機械導入がある。在庫管理する場所の確保も必要で…」 郊外型の広いファミレス。向かい合わせに座る男性ふたり。 「で、何やるか決まったか?」 スーツ姿の男性が、ホットコーヒーを飲みながら聞く。 「そこなんだけどね…」 白いパーカーにジーンズの男性がアイスコーヒーのグラスに口をつけず

短編:【知らないとこから、こんにちは】

「今日さ、SNSに知らない外国の人からコメントが来たのね…」 「どんな?」 「この写真、素敵ですね、どこで撮影したんですか?って」 女性3人でフレンチを楽しんでいる。 「あ〜、デタ〜たまにあるよね〜」 「やっぱたまにある?」 「この猫ちゃん、可愛いですね、何歳ですか〜とか」 「あるある!欧米の人とか!」 「え〜私はアジア圏の人だったよ〜」 届いたマルゲリータを裂きながら皿に取り続ける。 「やっぱりあれって、何かの詐欺なのかな?」 「ロマンス詐欺的な?男性からなら疑っちゃうよ

短編:【何か問題でも?】

「なんか『2025年の壁問題』ってのが大変みたいだね」 「なに、朝、テレビでやってたの?」 「そう。なんかね、2025年に世の中DX化が激化してプログラマーが不足して様々なシステムが麻痺するとか何とか…」 プッチンプリンが店頭から消えて、情報番組がこぞって伝えていた。 ファミレス。4人がけの席に向い合せの女性ふたり。 「なになに?なんの話?」 3人目の女性がドリンクバーのグラスを持って席に着く。グラスの中身は、この世のモノとは思えないような色をしている。 「2025年の壁

短編:【仲睦まじく】

「ちょっと惜しかったね」 リビングで妻と息子が本日のミニテスト結果を見ている。 「どうしたの?」 帰宅した夫も会話に参加。 「これね、“なかむつまじい”を漢字に…って」 「ああ、結婚式のスピーチでも使うよね、“末永く仲睦まじくお過ごしください”って」 「僕、陸上クラブだから…」 「仲“陸”まじい。って睦を陸って書いちゃって…」 「クラブのみんなと仲良く、陸みたいな字って覚えたからさ…」 息子は少し悔しそうだ。 「睦まじいってさ、“親しい”より深い関係なんだってよ、意味的には

短編:【公園発射台】

意外と知られていないが、この国では大きな橋の下には有事に備え、誘導ミサイルが装備されている。上空の偵察機や衛星から気づかれにくく、橋の幅が滑走に最適との施策であった。 国が保有しているものの、整備の殆どは公園を管轄する市町村の公園管理事務局に委託され、異変が無いかを一週間ごとに報告する代物だった。有事に備える、ということは即ちその時が来なければ出番は無いということ。50年以上の歳月の中使われることはなく、現代の最新兵器との対戦には不向きな時代遅れのモノとなっていた。 「ど

短編:【隣】

「ママ、見て!落とし物!」 「落とし物?…じゃないわね」 「ケーサツにとどけないと!」 「なんだろうね…あ!触っちゃダメよ!」 最近、公園や街の中で、こうしたバッグを見かけることがある。 「ちょっとパパに…」 写真を撮って、ショートメールで送る。 「あ、パパから…」 会社のパソコンで検索してくれたようだ。 『格安ポスティング業者』 これはどうやら、家やマンション・集合住宅などのポストに入っている、ビラやチラシ広告を投函する業者が置いていることがわかった。 「え、これ…ここ