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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

短編:【トマト、いかが?】

「ウチの小さい庭で家庭菜園をやってましてね…」 休日の昼前に突然の訪問者。マンション1階に住んでいるという50歳くらいの中年女性。正直見かけたことも挨拶をしたこともない。 「あ、そうですか…わざわざスミマセン…」 3階に住む僕は、面識のない人からいきなり野菜を持って来られて動揺していた。 「あ、あの…なぜ僕の部屋に?」 「あら、ゴメンナサイ…いつもゴミ捨てとかちゃんとなさっていて、帰宅も遅いのにエコバッグさげて、食材を買って自炊なさっているのかなと思ってね。…いきなりでご迷惑

短編:【ユメのない夢】

病院の診察室。白衣男性の前に座る若い女性が語る。 「ちょっと信じて頂けないかと思いますが…」 カルテにはスズキユミコ 27歳とある。 「夢を見るんです。あの夜寝た時に見る…」 「眠りが浅いんですかね…」 「あ、いえ…夢を見ることは良しとして…」 何か言いにくそうに戸惑っている。 「どうぞ気になることをお話し下さい」 「はい…その夢が…その…」 先生は親身に静かに次の言葉を待っている。 「すべてですね…その…ミュージカルなんです…」 言い終わると静寂が流れる。 女性はとんで

短編:【クレーム、または罪深い人類へ】

「だいたいさ!オタクの商品、効果が無いんだよ!」 『そんなことはございません…』 「うるおいをもたらし、命を救う?」 『…はい』 「サラサラで、無味無臭?」 『そうです』 「安価でお得?すべての国民に必要だと?」 『その通りでございます…』 「過大広告だろう!謝罪しろ!」 『お客さま…いま、お試し頂けますか?』 「い、いま?」 ゴクゴクゴク… 『いかがですか?解約されますか?』 「…」 『良いんですよ、この世界から“お水”と言う、万能な商品が消えて

短編:【職を決める】

「農業は天候に左右される。漁業も自然の影響を大きく受ける。どちらも鮮度が重要視され、収穫から消費者へ届けるスピードが求められる。流通はそのスピードが命である。物を製造する場合は、職人の技術力や大規模な機械導入がある。在庫管理する場所の確保も必要で…」 郊外型の広いファミレス。向かい合わせに座る男性ふたり。 「で、何やるか決まったか?」 スーツ姿の男性が、ホットコーヒーを飲みながら聞く。 「そこなんだけどね…」 白いパーカーにジーンズの男性がアイスコーヒーのグラスに口をつけず

短編:【知らないとこから、こんにちは】

「今日さ、SNSに知らない外国の人からコメントが来たのね…」 「どんな?」 「この写真、素敵ですね、どこで撮影したんですか?って」 女性3人でフレンチを楽しんでいる。 「あ〜、デタ〜たまにあるよね〜」 「やっぱたまにある?」 「この猫ちゃん、可愛いですね、何歳ですか〜とか」 「あるある!欧米の人とか!」 「え〜私はアジア圏の人だったよ〜」 届いたマルゲリータを裂きながら皿に取り続ける。 「やっぱりあれって、何かの詐欺なのかな?」 「ロマンス詐欺的な?男性からなら疑っちゃうよ

短編:【何か問題でも?】

「なんか『2025年の壁問題』ってのが大変みたいだね」 「なに、朝、テレビでやってたの?」 「そう。なんかね、2025年に世の中DX化が激化してプログラマーが不足して様々なシステムが麻痺するとか何とか…」 プッチンプリンが店頭から消えて、情報番組がこぞって伝えていた。 ファミレス。4人がけの席に向い合せの女性ふたり。 「なになに?なんの話?」 3人目の女性がドリンクバーのグラスを持って席に着く。グラスの中身は、この世のモノとは思えないような色をしている。 「2025年の壁

短編:【仲睦まじく】

「ちょっと惜しかったね」 リビングで妻と息子が本日のミニテスト結果を見ている。 「どうしたの?」 帰宅した夫も会話に参加。 「これね、“なかむつまじい”を漢字に…って」 「ああ、結婚式のスピーチでも使うよね、“末永く仲睦まじくお過ごしください”って」 「僕、陸上クラブだから…」 「仲“陸”まじい。って睦を陸って書いちゃって…」 「クラブのみんなと仲良く、陸みたいな字って覚えたからさ…」 息子は少し悔しそうだ。 「睦まじいってさ、“親しい”より深い関係なんだってよ、意味的には

短編:【公園発射台】

意外と知られていないが、この国では大きな橋の下には有事に備え、誘導ミサイルが装備されている。上空の偵察機や衛星から気づかれにくく、橋の幅が滑走に最適との施策であった。 国が保有しているものの、整備の殆どは公園を管轄する市町村の公園管理事務局に委託され、異変が無いかを一週間ごとに報告する代物だった。有事に備える、ということは即ちその時が来なければ出番は無いということ。50年以上の歳月の中使われることはなく、現代の最新兵器との対戦には不向きな時代遅れのモノとなっていた。 「ど

短編:【隣】

「ママ、見て!落とし物!」 「落とし物?…じゃないわね」 「ケーサツにとどけないと!」 「なんだろうね…あ!触っちゃダメよ!」 最近、公園や街の中で、こうしたバッグを見かけることがある。 「ちょっとパパに…」 写真を撮って、ショートメールで送る。 「あ、パパから…」 会社のパソコンで検索してくれたようだ。 『格安ポスティング業者』 これはどうやら、家やマンション・集合住宅などのポストに入っている、ビラやチラシ広告を投函する業者が置いていることがわかった。 「え、これ…ここ

短編:【日本人もビックリ!】

カレーのデリバリーをしている褐色肌の外国人が、すべてインド人だという偏見を持ってはいけない! 同様に、デリバリーをしているすべての人が、道をちゃんと把握していると思ってもいけない。 写真撮影やネタ収集には持って来いのまだ全部が葉桜になる、少し前の話。駅ひとつ先の道をぶらぶらしていると、明らかに迷子の配達員を見かけた。彼は明確に困っていた。観光地であるその街で、道行く優しそうな人たちに声をかける。が、外国人から「エクスキューズミー」と言われると、誰もがサッと避けてしまう。ぶ

短編:【不甲斐ない】

市長が辞職した。 彼の口癖は『不甲斐ない』だった。 『いや〜ホント、不甲斐ない!私が不甲斐ないばっかりにこんな事態に…』 「ねぇこの市長さ、ずっと謝ってないよね…」 姉ちゃんがリビングでポテチを食べながらテレビにボヤいている。 「“不甲斐ない”って言ってるよ?」 僕は冷蔵庫の牛乳をコップに注ぎながら応える。 「違うんだよ、不甲斐ないって、情けないとか、意気地ないって意味なんだよ」 「あ〜、そうなんだ」 「“不甲斐なくて申し訳ない”、だったら謝罪になるんだけど、“私が情けな

短編:【その花の名はナガミヒナゲシ】

『この外来種、実は毒性が強く…』 『え!近所の公園でも良く見かけますよね!?』 『いやあ子どもが間違って触っちゃうと…』 昨日まで美しいとされた花が、闇へと落ちた、または落とされた。 朝のテレビ情報バラエティが5分も時間を割いて紹介した。理由は単純で、めぼしい芸能・スポーツの話題がなかったからだ。 10年以上前から各地の役所などで警鐘を鳴らし、ネットSNSの動画で度々アップされる身近な危険、季節の花。放送時間を埋めるため、このテーマに白羽の矢を立てた。 一気にトレンド入

短編:【シンプル・イズ・ベスト】

東京の賑わう繁華街。 「やめてください!」 「何だよ〜ちょっとくらいいいだろう」 「触らないでください!」 年の頃、二十二、三の女性がガラの悪い三人組の男に絡まれている。 「スミマセン、助けてください」 たまたま夕食を食べに来た、三十男に救いを求める。 「どうしました?」 「ひとりでフラフラしているなら、一緒に遊ぼうと言われまして」 「なるほど、では私は連れのフリをすれば良いのですね?」 「お願いできますか?」 「もちろん!」 「何だよ兄ちゃん、知り合いか?」 「待ち合わせを