マガジンのカバー画像

短編:【スエトモの物語】

139
短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!短い物語のなかに、きっと共感できる主人公がいるはず…誰かひとりに届くお話。自分と同じ主人公を見つけて頂け…
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

短編:【スナイパーがいる】

今朝気がついた。私、スナイパーに狙われている。ひとりならまだしも、家から駅まで、たかだか直線で150m程度、一回曲がるだけの駅チカ物件の間に、ザッと3人。いや、私が見つけられなかっただけで、それ以上いたのかも知れない。 間違いない。高いマンションの上、非常階段。道の隙間。 スナイパーの目的は…私の殺害? …狙われる覚えは …強いて言うなら… 合同コンパがあった。もとい。異業種交流会が行われた。二週間前の週末。二年ぶり四回目の出場。先方は証券会社で営業職の方を中心に、その

短編:【異空間からエール】

「あれ?いま花火の音聞こえた?」 放課後、教室の掃除をしていたマコトが、モップを握って言う。 「打ち上げ花火?」 「雷なんじゃない?ヤダ〜傘持って来てない〜」 女子高生仲良し三人組の、カオルとユミが話に加わる。 「でもさ、打ち上げ花火が禁止になって、どんな音だったか忘れた…」 ゴミ箱を持ったカオリが窓の外を見て言う。 いまこの国では、打ち上げ花火が上がらない。 「たぶん幼稚園入る前だわ、最後に本物見たの…」 15年前。とある地方都市で開催された最大級の花火大会。 「あの日、

短編:【この印籠が?】

「じーちゃん!じーちゃん!」 メガネを鼻にかけ、新聞を読んでいたじいちゃんは、玄関先から聞こえる孫の声に微笑む。 「おう、ケイちゃん!よく来た!ひとりで来たんかぁ?」 祖父の声がする居間に、孫息子のケイちゃんが飛び込んで来る。 「学校終わってすぐ来た!そこだし!」 この春、入学した孫は、小学校と娘夫婦が暮らすマンションを結んだ通学路のちょうど中間を、少し逸れたこの祖父の家に寄り道しながら帰宅している。 「ママにじいちゃんの家に寄って帰るとメールしたか?」 急いでお菓子とジ

短編:【夏は鰻と、】

金がない。まったくない。いやウソだ。ポケットには374円ある。 「あちぃ〜」 なんて猛暑。いや酷暑。真夏日。記録的暑さ。殺人的な夏の日差し。どんな言葉に変換しても同じだ。 「あちぃ〜ょ〜」 暑いだけで涙が出る夏は、人生で始めてだ。いやウソだ。去年も、その前の夏も、たぶん10年に一度の異常な暑さだった。 公園の水飲み場で蛇口をひねる。チョロチョロと申し訳程度に水が出る。 「…節水制限」 脳裏に現れる四文字。そうですか。そうですよね。税金もまともに払っていない人間には、こういう

短編:【タイムトラベル】

「長く生きていると気づくことがあるんです」 ゆっくり語る男性。 「アナタ方の世代にも理解しやすいように話します。例えば、ブログなどをやられている方はいらっしゃいますか?」 セミナーを聞いている数名が挙手する。 「なかでも5年10年と、…長く続けている方?」 先程よりグッと減り数名が手をあげる。 「実はそのブログというメディアは、ある一種の『タイムトラベル装置』なんです…どうでしょう…そう感じたことはありませんか?」 セミナーの若者は真剣に聞いている。 「…まず何年も何

短編:【夢の叶う夢】

「パパのおよめさん!」 「パパのお嫁さん?」 母は娘の私が何気なく発した言葉に乗っかった。 「マユが、パパのお嫁さんになったら、ママはどうなっちゃうの?」 「ママはマユのママだよ」 母は笑っていた。 「マユがパパのお嫁さんになったら、ママはパパのお嫁さんになれないのよ」 私は幼く、無知だった。 そしてパパもママも心から愛していた。 それから1年ほど経って、私は、大好きだったパパとママを同時に亡くした。 「あんな小さい子ども残して、両方とも亡くなるなんてねぇ…」 「交通事故

短編:【ゲームチェンジャー】

頬杖をついた手からズリッと崩れ、ぐっちゃり下を向いたまま酔った女性。 「ゲームチェンジャーってさ…魔法の言葉だよね」 ため息交じりの言葉。 女性1名、男性2名。同期3人が居酒屋で泥酔している。 「…ゲームチェンジャー?」 「ああ…確かに、なんか煽って来るね」 「社長の挨拶にもあったでしょ?『今年入社の皆さんは、ゲームチェンジャーだ』って…」 呂律が怪しい。 「魔法の言葉…と言うより、もはや悪意の籠もった呪文だね…」 焼酎の炭酸割りを3つ追加注文。 「ゲームチェンジャーって

短編:【見た目年齢で試されて】

化粧品、スキンケアや美容健康商材では神の如く重宝される、魔法の言葉。『見た目年齢』。実はこれ、案外日常生活の中でも気にすることがあるようで… 「スミマセン…」 オジサンの私が、 さらにちょい上のオジサンから 街中で声をかけられる。 「“国鉄”はどう行けば…?」 見た目60代の地方から来た観光者? いや、ぷらっと散歩している軽装。 小さなサイドバッグ。 「JR?そこ。信号渡って…」 咄嗟に“国鉄”を“JR”に変換して。 ハッと気づいてしまう。 常日頃から良く外国人観光客に道

短編:【つぶらな瞳が映すモノ】

「オイラはさ、これまでに3回使っちゃったからから」 ぬいぐるみが喋っている。 「もうリプレイ出来ないんだよ」 言葉の意味がわからなかった。 「3回使っちゃった?」 そもそもぬいぐるみが喋っている意味もわからなかったのだが。 「オイラ達みたいな命を持たない玩具は、実は3回までリプレイ…つまり、生き返ることが許されているんだよ」 「許されている?誰に?」 「う〜ん良くわからないけど…神さんみたいなモノ?」 「カミさん?…あ、神様のこと?」 「何だかわからないけど、リプレイがで

短編:【家政婦3】

『本日ご紹介の商品がコチラ!』 妙なテンションのMCが、マジックショーのように布を引っ張ると、中から女性が。 『ご存知!家政婦シリーズ最新バージョン!家政婦3(カセイフ・サン)です!』 フロアADの煽りによって、お馴染みとばかりに盛り上がるスタジオ。 『一家に一台、本当に大人気シリーズですね!』 アシスタント女性もパスを出す。 『3ってことは、3号機ですか!?』 通販番組の華やかな世界。 『はい!家政婦シリーズの3号機、“3号さん”になります〜!』 モニター内の華やぎとは対

短編:【3つのいえ】

「親だったら子の巣立ちを歓迎するモノだと思うんです」 暖色系のわずかな灯りが薄暗く、居心地の良いカウンターバー。冠婚葬祭帰りの黒スーツを纏う男性。首元には白か黒の色があったはずだが今は外されている。一杯目の細長いグラスビールに三口分の泡目盛りが刻まれた頃、男性は喋り始めた。 「実は今日、長男の結婚式だったんです…」 「それはおめでとうございます」 グラスタオルを慣れた手付きで回しながらバーテンダーが応える。 「ウチには、28歳、26歳、23歳の3人、息子がいましてね」 「

短編:【たまには逃げたい日もあるさ】

仕事で失敗をした。 「何で気づかなかったかなぁ…」 「申し訳ございません…」 部長は叱らなかった。 「以後気をつけてね」 明らかに私の落ち度だった。 「あの…部長。ちゃんと叱って頂かないとまわりに示しが…」 「いや、いまの時代、声を荒らげたら、ナニハラとか言われちゃうでしょ。ただでさえ新人さんが入らない会社で叱って辞められたりしたら、私が首切られちゃう、ハハハ…」 部長は力無く笑う。 「今どきの若者は、大切に扱わないと…」 「部長…私はちゃんと叱って頂きたいです。それに私

短編:【不穏な予兆】

普段見ている風景が、実は何かの予兆となっていることもある。不調和音は日常生活にも潜んでいて、何かの拍子にすべてが一変してしまう。そんなアンバランスな世界。その日、窓の外には縦に走る不気味な雲が伸びていた。 「何で気づかなかったんだよ!」 「スミマセン!」 社内に響き渡る怒涛。90度を超える直角に体を曲げて平謝りの男性社員。 「一千万だぞ!こんな不祥事、取り返せんぞ!」 「本当に申し訳ありません!」 部長は手を振って、いますぐ回収に向かうよう、その社員に指示をする。 いつだ