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短編:【ゲームチェンジャー】

頬杖をついた手からズリッと崩れ、ぐっちゃり下を向いたまま酔った女性。
「ゲームチェンジャーってさ…魔法の言葉だよね」
ため息交じりの言葉。

女性1名、男性2名。同期3人が居酒屋で泥酔している。
「…ゲームチェンジャー?」
「ああ…確かに、なんか煽って来るね」
「社長の挨拶にもあったでしょ?『今年入社の皆さんは、ゲームチェンジャーだ』って…」
呂律が怪しい。
「魔法の言葉…と言うより、もはや悪意の籠もった呪文だね…」
焼酎の炭酸割りを3つ追加注文。

「ゲームチェンジャーってさ、思いっきり他力本願だよね」
「他力本願?」
「…君が流れを変えろ!…任せた!って結局丸投げでしょ?」
「確かに」
女性の言葉に同意する男性達。
「若い感性に賭けてみたとか…それっぽく言ってるだけで結局自分達は無策なんでしょ?」
「ゲームチェンジャーね…確かに」
「どーせ失敗したらさ、若手が勝手にやったって。経験不足でダメだったね、…って責任押し付けて言い訳する気満々なんだよね!」
「まぁ我々もよく社会や会社のせいにはしているけどね…」

「なんかさ〜いつの時代もそういう言葉出てくるよね…」
「スーパーボランティア、とか」
「いたね〜!あった!」
「被災地とかに真っ先に行く…」
「一億総活躍時代、とか」
「あ〜煽ってくるね〜」
「活躍しなくちゃいけないんだよな〜」
「その辺って令和だっけ?」
時代背景が気になる男性。
「なんか響きが平成っぽくない?」
女性は感覚で曖昧に答える。

「全然昭和の言葉とかわかんないな〜」
「そりゃあ平成だけでも31年続いたわけでしょ!」
「もう令和6年だよ」
平成12年頃に生まれた3人は二十代前半。

「言葉もそうだけど、風潮っていうか、空気感?無言の圧力とか…」
「ほら、ゆとり世代とかで競争とか競い合うことをヤメたでしょ?結果、国際的に競争力がない国になったとか言われて…」
「いまはコロナ禍で人と合うことが少なかった世代は、根拠のない自信たっぷりでデカい口を叩くなんて言われて…」
「そこに来て、ゲームチェンジャーだよ。自信あるんでしょ?ほら、やってごらんよって言われてるワケだ…」
3人とも焼酎の炭酸割りに口をつける。

女性が大きくぼやく。
「はあ…何か違った!」
「会社?」
「全部!会社も、社会も、大人になった今も!世の中の景気も!」
「違ったね〜思っていた未来とは!」
「何だよ!昔の映画だと今頃、空飛ぶ車がタクシーになって飛び交ってるんじゃねぇのかよ〜」
「え?そっち?」
「オレは別に空飛ばなくてもいいかな…」

女性はかなり酔っている。
「結局さぁあ、ゲームチェンジャーって何すればいい〜のよ?」
「空気を変える?世の中を動かす?」
言っていながら恥ずかしくなる。

同じような若者が、同じような顔をして、同じように鬱々としている。
「変わんねぇよ、こんな世の中!」
3人黙る。
「いくら煽ったって、太鼓叩けど踊らずだよ…」
「何だよ、ゲームチェンジャーって…」

男性のひとりが思いっきり手を叩く。
「はい!この話し終わり!」
「お!スゲエ!空気変わった!」
「ゲームチェンジャー!」
ヒュウヒュウと茶化す。

「ゲームチェンジャーじゃなくたってさ、時代を変えないと居心地悪いよな…」
「すみませ〜ん!焼酎の炭酸割り3つ!」
「あ!空気変わったじゃ〜ん!」
「も〜いいって…」
3人のゲームチェンジャーが飛躍する前夜祭であった。

     「つづく」 作:スエナガ

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